第18話 「純血の魔人」
白いフードの女が大鎌を振るたびに、俺の背筋に悪寒が走る。
この女、何かがおかしい。実力はもちろんなのだが、それ以上に不気味な何かを感じる。
大鎌の不穏な一撃と、黒蝶丸の斬撃が幾重にも衝突しあい部屋の機械が次々と破壊されていく。
「チッ、この人間。厄介な……」
「纏え、黒雷ッ!」
黒蝶丸の刀身に黒の雷が纏い、俺は鬼人の如く白フードの女を押し始める。フードを深く被っている為その表情を伺うことは出来ないが、焦っている様に感じる。
この施設は恐らく、例のゴーレムを生み出す場所なのだろう。俺と白フードの戦闘の余波により、その設備が次々と破壊されていく。この白フードがゴーレムの件の関係者であれば、今の事態は非常に厄介な状況だろう。
身軽ながらも力強い戦い方をする白フードと鍔迫り合いになる。ギチギチッと互いの武器が火花を散らす。
「貴様、図に乗るなよ……」
「誰だか知らぬが、捕まえて知ってる事を吐いてもらうのじゃ!」
「愚かな。死ね、人間!」
再び、大鎌と黒蝶丸の斬り合いが始まる。互いに武器の扱いは互角、なら勝負は人数の多い方が勝つ。
「そこだっ! 『ウインド・バレット』!」
俺たちの斬り合いの様子を伺っていたバレットが、弾丸を放つ。狙い澄まされた弾丸は俺のすぐ横を抜け、魔法を発動させた。
『ウインド・バレット』から突風が吹き荒れ、白フードが吹き飛ばされる。
「グッ! 何がッ――」
「そこじゃ!」
バレットが創り出した白フードの隙、俺は背に羽を出現させ間髪入れずに追撃する。轟雷を纏った斬撃が、白フードの肩を斬り血が周囲を赤く染めた。衝撃でフードが外れ、女の素顔が明らかになった。
「なっ、魔人じゃと?」
そこにはビーカーにいた男と同じ、青い肌に黒の目をした女の素顔があった。濃い紫の髪の奥にある金色の瞳が、忌々しそうに俺を睨みあげる。
「な、仲間を魔晶の材料にしたのか……」
俺の言葉に、肩の傷口を抑えながら立ち上がった魔人の女が口端を吊り上げ笑う。
「ハッ、あの出来損ないが仲間だと? 違うな、私はアイツ等とは違う。純血の魔人なのだから」
「……純血の魔人? どういう事じゃ?」
そう言った女の体から、紫の魔力が溢れ始めてきた。明らかに今までとは様子が違う。
「貴様にこれ以上話す事など無い。この場所の存在を知られた以上、生きては返さん」
そう吐き捨てた女の金色の瞳が更に輝きを増し、溢れ出る禍々しい魔力が巨大になっていく。女が大鎌を構え態勢を低くし臨戦態勢を取ったその瞬間、溢れ出ていた魔力が霧散した。一瞬目を丸くした魔人の女だったが、即座に目を細め舌打ちをする。
「もう活動限界が、そんなに魔力を消費させられたのか……。クソッ、おい貴様、名前を教えろ」
歯痒そうに苦い顔を浮かべた魔人が、大鎌を下ろし俺に質問を投げかけてくる。なんだコイツ、得体の知れない相手に正直に名前を教えるとでも思っているのだろうか。
「お主に名乗るつもりなどない」
「そうか、ではチビと呼ばせてもらおう」
「むっ」
あっけらかんにチビと呼ばれ、若干不機嫌になってしまう。確かにこの体になって以降、俺の身長は平均値以下である事は認めよう。だが、そう堂々とチビと呼ぶのは酷くはないだろうか。
「おいチビ、私の名前は『ュラーラ』だ。この名を生涯忘れるなよ、貴様を殺す魔人の名だ」
ュラーラという独特な発音の名前を名乗った魔人は、黒い霧を纏いその場から跡形も無く姿を消した。
一体何だったんだあの魔人は。戦闘自体は短かったものの、かなりの疲労感が俺を襲っていた。しかも、ュラーラはまだ実力を出し切っていない様子だった。
俺とて全ての力を出したとは言えないが、もしこれから先ュラーラと戦う機会が訪れれば次はどちらが勝つかは分からない。
もっと【神技】のスキルの力を最大限引き出せるようにならねば。
「サ、サクヤ! 大丈夫?」
「うむ、怪我もないし一先ずは平気じゃ。それよりも、早いとこ出口を探してベアさんたちと合流しよう」
「うん、そうだね!」
沈黙を貫くゴーレムを一瞥し、俺は核であろう胴体部の魔晶を取り出し懐にしまった。同時に、ゴーレムの瞳から光が消える。
よし、これでこのゴーレムが動き出す心配はないだろう。次に出口を探さなくては。
「あ、サクヤ! こっちに転移魔法陣があるよ!」
部屋の探索を行っていたバレットが手招きする扉の先に、魔法陣が展開されていた。恐らく出口用の魔法陣だろう。入口が遺跡の中にあった事を考えるに、出口も近い所に繋がっているハズだ。
「よし、わらわが最初に飛び込むから後から続くのじゃ」
「気をつけてね」
心配そうなバレットに頷き返し、俺は一足先に魔法陣の中に入る。即座に魔法陣が起動し、俺の体は光に包まれ転移を開始した。
♢♦♢♦
「ほぉ~。ここに繋がっておったのか」
遺跡から少し離れた岩陰の中から、俺は飛び出した。この岩、魔法で作り出された岩のようだ。外側から触れば普通の岩のようにカチコチだが、内側からは外にすり抜けられるようになっているらしい。
最近出没したモンスターの巣を入口にし、魔法で造られた偽りの岩の中を出口にする。相当手が込んでいる。あの施設をュラーラ1人が準備したとは思えない。
証拠として、ュラーラはあの施設から出る際黒い霧に紛れ消え去った。そんな芸当が出来るのであれば、わざわざ出口用の魔法陣を用意する必要がない。
「……純血の魔人は複数人いる。または出口が必要な協力者がいる。或いはその両方か」
思っていた以上に凄い収穫を得る事が出来たが、事態は想像を絶する状況だ。今になって冷静に考えてみれば、魔人がいること自体がオカシイのだ。
曰く出来損ないの魔人を材料に魔晶を創り出す『純血の魔人』。もう頭がこんがらがって何が何やら分からない。取り敢えずはベアたちと合流し、蒼の神たちに事情を話そう。
「うわわっ!」
しばらくその場で考え事をしていると、岩の中からバレットが飛び出してきた。
「ふぅ~ビックリした。サクヤ、依頼の魔物は片づけたしピストーラのギルドに戻ろうか」
「あぁ、そういえばココには魔物退治の為に来たんじゃったな。色々あり過ぎて忘れておったわ」
「うん、ホント大変だったね……」
埃まみれの着物の袖を手でパッパッと払うと、俺は体を1度伸ばす。
「あのュラーラって、本当に魔人だったのかな?」
「核心は持てんが、奴からは妙な力を感じたのじゃ。只者ではないじゃろうな」
「でも、そんな強い相手に勝てたんだから、サクヤって凄いよ!」
疲れも吹き飛びそうな愛くるしい笑顔で、バレットが褒めてくれる。だが、あの戦いは決して俺1人の力でつかみ取ったモノではない。
「バレットの援護があったからこその勝利じゃ。あの激しい斬り合いの中でよく撃つことが出来たのぅ。わらわだったら緊張で吐きそうなものじゃ」
「えへへっ。サクヤが守ってくれるって考えたら、不思議と心がポカポカしてきて落ち着けたんだ」
そう言うバレットは、頬を赤く染め後ろで手を組みモジモジと指をイジる。
「……ボ、ボクとサクヤって、結構良いコンビだった、よね?」
「そうじゃな。バレットとおるのは楽しいし、ュラーラとの戦いは息もピッタリじゃったな」
「……そっか、サクヤもそう思ってくれたんだ」
随分としおらしいな。素直なのがバレットの魅力だが、今の感情はどういった物なのだろうか。
どこか寂しそうに、頬を染めたままニコニコと笑うバレットと共に、俺はピストーラへと歩み出した。




