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無双少女よ、刀を振るえっ!  作者: 速水 心太
第2章:『黄の神』機械編
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第17話 「ゴーレムの命」

 「バレット、大丈夫か? 起きるのじゃ」

 「う、うぅ……。こ、ここは?」

 「わからん。魔物の巣に引きずり込まれたから、恐らくはあの遺跡の地下だとは思うんじゃが……」


 のそっと起き上がるバレットを支えながら、俺は辺りを見回した。鉄鋼で造られた壁に囲まれた薄暗い小さな一室が広がっており、天井を見上げると魔法陣が展開されていた。


 明らかに今までいた遺跡とは雰囲気も、造られた年代も違う。


 「どうやら魔物の巣の中心に隠されていた魔法陣が、この部屋へと繋がっていたようじゃな。天井にあるのはきっと転移系の魔法陣じゃ」

 「うぅ~。巣に入口を作るなんて普通考えられないよ……」

 「そうじゃな、よっぽど見られたくない物を隠しているのかも知れんのぅ」

 「は、早く出口を探そうよ! ここ何だか不気味だし」

 

 落ち着かなそうにバレットがキョロキョロと周囲を見る。その頭についてるうさぎの耳は、緊張からかピンと直立に伸びたまま動かない。


 「ホラ、あそこに扉がある!」


 前方にある扉を指さしバレットが言う。この扉も鉄鋼で造られている。扉を開ける際手にまったく埃が付かなかった事から、この場所は最近も誰かが使い手入れをしているのだろう。


 扉を開けた先には同じように鉄鋼で造られた廊下が広がっており、その奥に巨大な扉が1つあるのが確認できた。


 「よ、よし。行こうか、サクヤ」


 そう言うバレットは未だこの場所に恐れを抱いているようだ。獣人は普通の人間とは違い、野生の感のようなものが優れている。

 バレットの中の直感が、この場所の危険を告げているのかも知れない。


 「ほら、こうしてれば安心じゃろ?」

 「あっ……」


 俺は隣で背を丸め縮こまっているバレットの手を握り、ニコッとほほ笑んだ。バレットが顔を赤くし握っている手を見つめ、耳がふにゃふにゃっと垂れる。


 女の子になってて良かった。男の状態だったら絶対気恥ずかしくて手なんて握れなかっただろう。ナイス、黒の神。今だけは感謝するぜ。


 「……サクヤは強いんだね、ボクとは大違いだ」

 「何を言っておる。わらわだって、お主に救われておるのじゃぞ?」

 「ボ、ボクに? 嘘だよ、この遺跡に来てボク君の足しか引っ張ってないじゃないか……」

 「それは違う。わらわはお主の明るさに救われておる」

 「ボクの明るさ……?」


 実際、俺もこの場所は何やら嫌な予感がしており、若干怖いのだ。バレットの手を握ったのは自分を落ち着かせる為でもある。

 短い間ではあるが、バレットとの旅で彼女の魅力は十分に分かったつもりだ。嬉しいことがあれば笑顔で喜び、怖いことがあれば丸まり怯える。


 そんな素直さが、俺に安心感を与えてくれる。


 「バレットはわらわが必ず守る。だから、お主は安心して笑っていてくれ」

 「サクヤ……。うん! サクヤが守ってくれるなら、ボク何も怖く無いよ!」

 

 俺の手を握るバレットの手に力が入り、ニコニコと何時もの人懐こい笑みを浮かべるバレット。

 よかった、どうやら元気づけてあげられたようだ。


 お互いに力強く手を握りながら、俺たちは廊下を突き抜け前方にそびえる扉の前までやってきた。鉄鋼で造られた巨大な扉は、妙な存在感を放っている。


 意を決し、俺は重苦しいその扉を開け中へと入って行った。広大なその部屋にはあらゆるパイプに繋がれた機械が数多く部屋を埋め尽くしており、それだけでも異様なのではあるが、俺たちの目は全く別のモノにくぎ付けにされていた。


 見上げなければ全容を確認できない機械人形、ゴーレムがその部屋には幾つも置かれていた。蒼と赤の戦争に介入してきた岩でコーティングされていたゴーレムとは違い、機械の部品がむき出しになった状態である。


ゴーレムの胴体部の中央に拳サイズほどの穴がぽっかりと空いており、動き出す様子は見られない。そして、その穴からもパイプが伸びており、そのパイプは隣の巨大なビーカーへと繋がっていた。そのビーカーの中身は――。


 「え? え? サ、サクヤ、あれ、人じゃない?」


 震えた声でバレットが言葉を漏らす。

 巨大なビーカーの中には、青い肌をした男が収められていた。謎の液体と共にビーカーの中で浮いている青い肌の男は、死んでいるかの如くまぶたを閉じ動かない。


 伝承でのみ聞いた事がある。かつてこの世界には、『魔人』と呼ばれる青い肌をした種族がいたと。圧倒的な魔力と力を持つ彼らは、この世界を闇に堕とし人間を支配していたらしい。


 ビーカーの中の男は、まるでその魔人そっくりだ。だが魔人たちは、はるか昔に神の手によって滅ぼされたと聞いている。それがなぜこんな場所に、しかも捕らえられているのか。


 一度生唾を飲み込み、俺は男の収められているビーカーへと近づいた。近づいて見れば見る程、目の前にいる魔人らしき人物の異質さが際立つ。


 「本当に、魔人なのか……?」

 「ま、魔人って、昔話に出てくるあの魔人? この人が?」


 オロオロとバレットが俺の腕にしがみついてくる。もっと良く観察しようとビーカーに触れた瞬間、異変が起きた。

 ビーカー内を満たしていた液体が赤色に変色し始め、中にいた男がもがき苦しみ出したのだ。


 「うぐぅ、ぐああああっ!!」

 「ひっ!!」


 男が両目を見開き叫び出し始め、バレットの息を飲むような悲鳴が漏れる。見開かれた眼は、本来白目であるはずの部分が漆黒に染まっており、その中心で金色に輝く瞳が揺れ動いていた。


 間違いない、伝承で聞いた魔人の特徴とそっくりだ。


 苦痛に叫び続ける魔人の男は、ギョロッと金色の瞳を動かすと俺たちをその視界に捉えた。瞬間、バンッ! と内側から魔人の手がビーカーを叩き、グイッと顔を寄せてくる。俺たちと魔人の男を隔てるビーカーにヒビが広がる。


 魔人は息も絶え絶えに虚ろな瞳を俺に向け、口を開いた。


 「我が……故郷ッ……。紫……領土……た、たすけ――。ガアアアアアァァッッ!!!」

 「紫!? お、おい、シッカリするのじゃ!」


 俺の呼びかけなどもはや届かないのか、魔人の男は一際大きく叫び始めるとその体を発光させた。あまりの光の強さに思わず目を塞ぐ。


 光が収まりまぶたを開けると、ビーカーの中に魔人の姿は無く、かわりに歪な形をした石が浮かんでいた。ドス黒い色をしており、嫌でもあの魔人の成れの果てである事が想像できてしまう。


 「ま、魔石? いや、もっと高濃度の、『魔晶』?」


 泣きだしそうなバレットが、その石を見て呟く。

 歪な魔晶はビーカーに繋がれたパイプを通り、ゴーレムの胴体部の穴へと納められた。同時に、ゴーレムの瞳に光が灯る。


 「まさか、あの魔晶がゴーレムの動力源なのか? 魔人を材料にしたあの魔晶が……?」

 「――何者だ」


 突如部屋に女の声が響く。振り返ると、俺たちが入って来た扉に白いフード付きのローブで顔を隠した人物が立っていた。その手には巨大な禍々しい大鎌が握られている。


 「――部外者は排除する」

 「構えるのじゃ!」

 「う、うん!」


 大鎌を構えた正体不明の人物が駆けだすのと同時に、俺も飛び出し黒蝶丸と大鎌が火花を散らし交錯した。

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