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無双少女よ、刀を振るえっ!  作者: 速水 心太
第2章:『黄の神』機械編
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第15話 「銃撃の中を飛ぶ兎」

 ピストーラを出て目的の魔物が出没する古代遺跡へと向かう道中、俺はバレットから機械について詳しく話を聞いていた。


 「では、機械を扱える者は黄の領土でも僅かな人間のみという事なのじゃな?」

 「そうだよ、まだまだ発展途中の分野だからねぇ。ボクも銃の制作をするうえで機械をイジるけど、まだまだ剣や魔法第一って考えの人が多いんだよね」


 がっくりと、歩きながら肩を落とすバレット。銃の扱いは難しく、結果的に慣れ親しんでいる剣や杖を使う冒険者が多く銃工房は苦労しているらしい。


 「でもでも、ボクは諦めないよ! 機械はこの世界を大きく変えると確信してるんだ! それに、ボクの造る銃は普通の銃とは訳が違うし!」

 「どう違うのじゃ?」

 「気になる? サクヤ、銃に興味出てきた!?」

 「う、うむ……」


 グイグイと顔を近づけ興奮気味に語るバレット。黙っていれば相当美人だというのに、これはスヴェンと同じタイプの口開いたら残念系の人だな。


 当の本人は得意げに腰に手を当てると、胸を張った。サスペンダーによって強調された胸が、バンと俺の視界に広がる。


 「ふっふーん♪ ではサクヤに教えてあげよう。ボクの銃の秘密は――」

 

 ダーン! と、突如俺たちの足元で火花が散った。火花が散った箇所を見ると、黒い痕がシュゥーと煙を上げている。


 「弾痕……。誰かに狙撃された、気をつけて、サクヤ」

 

 キッと鋭く弾痕を睨み、周囲を警戒するバレット。


 初めての銃撃にキモを冷やしていると、奥からゾロゾロと野盗の群れが姿を現してきた。そのどれもが下卑た笑みを浮かべ、俺たちの体を舐めまわすように見てくる。


 き、気持ち悪すぎるっ。この体になって以降、そういう視線に敏感になってしまった。


 「へっへっへっ、嬢ちゃんたち。良い体してんじゃねぇか。大人しく俺らに着いて来い、死にたく無けりゃあなぁ」


 先頭に立っている男が銃を俺たちに向けながら言い、回りの野盗が声を上げて笑う。


 「……バレット、ここはわらわに任せるのじゃ。お主は逃げろ」

 

 俺はバレットを隠すように前方に出るが、バレットは動く気配を見せない。


 「……ありがとうサクヤ。でも大丈夫、今のボクすっごい怒ってるから」

 「怒ってる?」

 

 俺の問いに答えるよりも早く、バレットはあろうことか直立にジャンプした。ウサギの獣人らしく、ゆうに人の身長を飛び越える程の大ジャンプだ。


 「なんだあの女! 撃ち殺せ!」


 急に動き出したバレットに驚きつつも、野党の群れは一斉にバレットに銃口を向ける。それに対しバレットは、腰に下げていた2丁の銃を取り出した。


 「ボクに銃で挑んだことが間違いだよ! そこだっ!」


 空中で華麗に体をひねらせ、バレットの持つ2丁の銃から弾丸が雨の如く射出された。野盗の放つ銃弾はバレットにまるで当たらず、手に持っている銃をバレットによって正確に撃ち抜かれていく。


 「この女、俺の銃をよくも! 斬り殺してやる!」

 「させないのじゃ!」


 銃を破壊され激昂した野盗の1人がナイフを取り出すが、俺の黒蝶丸がそのナイフを弾き飛ばす。


 「このガキ、いつの間にッ――」

 

 ジークフレンに比べて動きが遅すぎる。俺は峰打ちで野盗の群れの間を、駆け巡るように次々と沈ませていく。

 だが離れていた野盗の1人が、杖を振り上げ魔法で作り上げた氷塊をバレットに向かって放った。かなりの大きさだ、くらえば一たまりもない。


 「バレット!」

 「大丈夫だよサクヤ! 『フレイム・バレット』!」


 バレットが腰のポーチから新たな弾を装填し、氷塊に向かって引き金を引いた。カチリと、引き金の音が鳴ったその瞬間、銃口に小さな赤の魔法陣が展開されその中央から炎が飛び出した。


 炎の弾丸は迫りくる氷塊と衝突し互いに爆散する。続けざまに放たれたバレットの銃弾が、魔法を使った野盗の杖を撃ち抜き戦闘不能に追い込んだ。


 銃弾が飛び交う異色の戦闘は、一方的な勝利に終わった。


 ♢♦♢♦


 「けっ、ギルドに突き出すなり何なり、好きにしやがれ!」


 縛り上げられた野盗の1人が口悪く叫ぶ。さてどうしたものかと、俺がチラリとバレットの方を見上げると、そこには口をムッとさせ怒りを示すバレットの顔があった。


 ズンズンと野党に近づくと、腰に手を当て野盗の持っていた銃を拾い上げた。


 「もう! こんな粗悪品を使ってたら駄目だよ! 銃身は曲がってるし錆びが酷いし! こんな銃じゃボクに弾が当たらないのも当然だよ!」

 「……は?」


 予想外の角度から怒りをぶつけてくるバレットに対し、野盗の連中は目を点にさせる。それをまるで気にしないバレットは、相変わらずムスッとしながら言葉を紡ぎ続ける。


 「きっと悪い職人に騙されたんだね。最近多いんだよ、機械に無知な人間を騙そうとする輩が。まったく、許せないよ。こんなんだから銃の悪い評判が広がっちゃうのさ」

 「て、てめぇ。何言ってやがる? お前たちを襲ったから怒ってんじゃねぇのか?」

 「何いってるの? ボクは得意げに粗悪品な銃を、君たちが見せ付けてきたから怒ってるのさ。もっと良い職人に銃を用意してもらった方がいいよ」


 そこまで言い切ったバレットが、一瞬口元に手を当て考える素振りを見せると、名案と言わんばかりにニッコリとほほ笑み野盗の前にしゃがむ。


 「ピストーラって都市は知ってるでしょ? そこに銃工房『バレット・ラビット』って腕利きのお店があるから、そこで銃を揃えなよ! うん、それが良い! ハイ決まり!」


 唖然としている野盗の縄を解くと、バレットはニコニコと笑みを浮かべたまま立ち上がった。すぐさま野盗の群れが俺たちから離れる。


 「お、お前ら、俺たちを見逃すのか?」

 「よ、よいのか? バレット」

 「これに懲りて2度と悪さをしないって誓うなら見逃してあげる。あと、『バレット・ラビット』で銃も買ってね、絶対だよ!」


 明らかに後者の方が重要そうなバレットはさておき、この野盗共の装備などを見るに大した悪事はしていないだろう。

 鎧やナイフに一切の血が付着していなかった。


 恐らくは銃を手に入れ調子に乗った、どこかの冒険者くずれ辺りが正解だろう。


 「ふ、ふん! 俺らを見逃した事、後悔すんなよ!」

 

 お決まりの捨て台詞を吐き捨て野盗共が去っていく。

 そんな悲しい後ろ姿を見送りつつ、俺は隣にいるバレットに声をかけた。


 「……お主は、根っからの商売人じゃな」

 「わぁ! 最高の褒め言葉だね、嬉しいよサクヤ!」


 バレットと行動を共にし、感情に素直に従い動く彼女の魅力と面倒くささが分かった気がした。

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