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第4話:この香りは……

【ストーリー概要】

氷理と二熊はいつものように喧嘩をする。

大人になっても変わらないクオリティで。


しかし、何か違う変化を氷理は感じた。


そう――

二熊の職場に誰かがいるのだ……!

「そうだ二熊、ここのガソリンスタンドって明日からカフェができるんだろ?」

「ん、ああ……お前よく知ってるな。地元新聞の角っちょにしか宣伝していなかったのに」

「寧々子ちゃんから聞いたんだよ。彼女のお母さんが、地方新聞のフリーライター契約をしているから」

「そりゃ情報入るわな。ちゃんとこの俺様のために無償で宣伝してくれたか?」

「お前のためっていうのはしゃくだったけど、今後サボりに行った先の休憩スペースが繁盛するようにって名目で近所の店長仲間に、お知らせしておいたよ」

「……そりゃどーも。もしそれで繁盛したら、コーヒーの一杯でも奢ってやるよ。クソサボり野郎め」


 珍しく二熊がオレに礼を言ってきた。こいつが人のこと――特に、オレのことを褒めるなんて珍しい。というか、奇跡に等しい。

 そう考えたら、二熊に褒められて嬉しいというよりも、逆に違和感を目一杯感じてしまっているせいで、むしろイライラしてきた。胃もムカムカしてきた。

 だからオレは、この膨れあがる謎のストレスの源を二熊に丁重にお返しすべく、スマホを取り出して行動に出る。


「二熊、やっぱ普通に繁盛してお前の懐が純粋に潤うのが何かムカつくから、今SNSでオレの友達二百人に、可愛い女の子が追加料金で特別なサービスをしてくれる、いかがわしい店だって皆に伝えておくことにした」


 そう言い、端末のコメント送信済み画面を二熊に見せると――


「よぉし氷理、店の前に白良浜があるよな? 今からお前とバイクを海底まで沈めちゃうぞぉ! 遺言すら考えさせないぞぉ~♪」


 あ、マズい。めったにキレる事の無い二熊が笑顔でキレてる。本当に白良浜に投げられるパターンだ。

 125ccのデカいバイクを両手で持ち上げ、オレに向かって殺意に満ちた笑顔で迫る言動こそがその証拠である。


「ま、ままま……待てよ二熊! もちろん今のは冗談に決まっているじゃないか!」

「あぁ? 冗談だぁ? お前が冗談なんて機転が利くような性格だったなんて知らないぞゴラァ!」

「うっ……! え、えっと……」


 思わず二熊の言葉に対応しきれなかった。

 ああ、これが機転の利かぬと言うやつか。


 溢れ出る気迫に恐れを成して弁明を図ったが、浮き出る血管の数が増えてきているのを見る限り、このままオレのことを全力で殺るつもりなのは間違いない。

 冷静な状況判断ができていないという事が分かる。

 ドスンドスンと足音を鳴らしながら、ゆっくりと歩いている二熊の状況を確認し、少しずつ後ずさりをしながらオレは次の手を考える。


「さて、どうしたものか……」


 オレは思わず口ずさんでしまう。

 なぜなら、先ほど二熊に見せたコメント送信は、驚かせるための冗談ではく、本当にSNS投稿しちゃっているからである。

 しかし、思わずとはいえ、書き込んでしまったコメントを頼りに、お店の情報を楽しみにしてガソリンスタンドにやってくる人がいるかもしれない。

 なら、その情報を見たオレのフォロワーに対し、誠意ある行動をとらないと、画面の向こうでコメントを見ている皆さんに申し訳ないと思う。

 SNSのリア友、そして見たことも合ったことも無い約二割のフォロワーの人たちの気持ちを胸に、オレはこの状況を打破しようととしているのだが――


「…………?」


 そんな緊迫した状況を一瞬で壊してしまうような、鼻に刺さる臭いがじわりじわりとオレの元へとただよってくる。


 ぷぅ~~ん……


「……ん? 何だ、このバラのような甘い香りは」

「……っ! バ、バラ……? まままま……まさか……!」


 オレが感じ取っていた臭いについて、二熊も動揺の反応を示しているようだけど――しかし、何故か『バラ』という言葉を聞いた途端、二熊の顔が顔が一気に青ざめてしまい、しまいには、震えながら頭を抱えて座り込んでしまった。


「お、おい……どうした二熊」


 体を小さくした二熊の肩を叩くが、やめろ……やめろ……という言葉だけをぶつぶつと呟やいていて、オレの言葉に反応をしている気配が全く無い。


「こ、これは一体……」


 いつもハキハキとしている体育会系の二熊を、ここまで恐怖におとしいれれてしまうなんて、ただ事じゃないぞ……。

 一体何だ……何があいつを変えちまったんだ……!

 これは、どこかゲームみたいに、中ボスが登場するフラグの予感がする。

 いつもよりも敏感に辺りの気配を見渡して、危険信号の収集に意識を集中させる。


「…………」

「……………………」

「……っ!」


 危険という考えに行き着いた瞬間、オレは思わずバイクの後ろに影を潜めて隠れるように、体を屈めて姿を潜めた。

 どうやら、迎撃をするよりも、身を隠して索敵する方が良さそうだろうと判断したためだ。

 オレは、汗を一つ二つと垂らしながら、何が出てきても驚かないように頭を冷やして冷静になる。


「…………」


 そうしているうちに、だんだんとバラの香りが強くなり、対象の気配が近づいていることをオレは理解する。

 準備は整っている。後は二熊をおとりに臭いの現況を調べて上で、ヤバそうならオレだけが絶対に逃げ延びるという作戦でいこう。

 二熊には重要な役割を任せてしまうことになるが、お前の重要な命をかけた作戦、絶対成功させるぞっ……。

 ガララッ……!


「…………っ!」


 突然扉が開く音がした。

 音の先に目線を向けると、ガソリンスタンド内にある、奥の事務所の扉がゆっくり開いているのが分かる。

 オレは、扉の裏から出てくる何かをバイクの裏からひっそりとのぞき込み、その正体を見るべく目を凝らす。

 すると――

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