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まるで現実味のない

客観的に見てこの状況は、どんな風に見えるのだろう


だだっ広い白い部屋での真ん中に

男が二人談話中

一人は病衣らしき服に身を包まれる青年

もう一人は(筋肉によって)パツパツになり、今にもボタンがはじけそうな白衣を着ているおっさん


とても心地よい状況とは言えない


けど、それでも浮かんでくる疑問は(おっさんの謎筋肉のことを除けば)この状況とは全く関係の無いものばかりだ


「世界の……望み?」


「君たちが経験したのは、おそらくこの世界の"可能性"

つまりパラレルワールドとかいうやつだね」


「パラレルワールド……ですか」


信じられない

この世界が、一歩間違えればあんなイカれた世界になっていたかもしれないってことか?

いっそのこと、異世界だと言ってくれた方がまだ真実味があるってもんだ


「これは、君より前に目覚めた患者たちから聞いた話を統合して出した結論だ

……君たちは、"位相"をずらされて、重なり合う平行世界を巡らされていた」


いくつもの世界が同じ場所に重なり合って存在してる

そんな話は聞いたことがある


「どうして俺……俺達が、そんな目に?」


「さっき言っただろう? 君たちが倒れたのは、天啓だったと

……大いなる力 およそ人智を超えた力

そんなものが君たちには働いたんだろうね」


さっきから聞いていれば、およそ現実世界の真面目な会話とは思えない

俺が中二の頃に考えていた、"設定"よりも痛々しい内容だ

一つとしてリアリティがない

それでも、このおっさんのまっすぐ俺を見据えた眼差しは、ふざけている様子など微塵も感じさせない

この話も、一本筋が通った話であるかのようにすら感じさせる


「信じない……わけじゃないです

今まで信じられない状況なんて、嫌という程体験してきましたから

けど、理解できないです

なんで俺らがそんな現象に巻き込まれて

何のためにパラレルワールドなんてものを巡ってきたんですか?」


「……ここから先の話は、今までよりリアリティのない、ほぼ妄想のような内容だ

だけど、嘘は言わないと誓おう

それだけは信じて欲しい」


目線が鋭くなる

どこか、申し訳なさを孕んだ目線だ


ーー「一人目が目覚めたのが、二年前だった」






〜〜〜二年前〜〜〜

「先生!例の患者の1人が目覚めました!」


患者

そんな、およそ科学者とは無関係そうな単語は、ここでは聞きなれたものだった


「あの事件から三年……やっと真実に近づけるってわけか」


疲れからか、興奮によるものか、震えのようなものが全身を巡る

いい加減、机の上に並べられた、患者の身体データとのにらめっこにも飽きてしまった

さあ、対談といこう

この疑問にも決着をつけたかった所だ



ーー「"神"に、会いました」


そう言う【一人目】は、可憐な少女だった

年齢は16

長い黒髪と、それと呼応するようにすらっと伸びた四肢は、美しさすら感じられる

高校生…というには少し大人っぽさを感じさせる顔つきだ

長期間の昏睡から、たった今目覚めたばかりだというのに、その身体は僕の身体よりも健康的に見える

やっぱりおかしい

筋肉の衰えも、記憶の混濁も、何も無い

さっき、お昼寝から目覚めました

と言われた方が納得できそうだ


「おはよう……と、言うべきかな?

自己紹介もせず、いきなりで悪いんだけど、

"神"?って言ったかな?」


我ながら馬鹿げた質問だ

しかし、聞かずにはいられなかった

最近の疲れが、正常な思考をどこかに吹き飛ばしてしまったらしい


「この世界は、広がりすぎました

まもなく 復元力が働きます

……私が聞いたのはそれだけです」


三年の昏睡から目覚めて、記憶が混乱して、一種の寝ぼけた状態にある

それならこんな発言も、愛想笑いで済ませられただろう



ーーしかし


“これが、さっきまで寝ていたやつが見せる顔か?”


少女の顔は、はっきりと

どこかを見据え、話していた

その言葉に嘘はない

そんな気がしただけかもしれないが、何にも勝る

強い"感覚"だった





ーー「それから、その少女の証言を元に研究を始めたんだ」



……ちょっとまて

二年前に【一人目】が目覚めた?

それが、集団昏睡事件から三年後?

ということは……


「お、俺!もしかして5年間も眠っていたんですか!?」


「うん、そうだね 今日でちょうど5年間だった

君の実年齢は22だよ」


……今日一番のショック

現実での記憶は曖昧だが、そういえば高校生くらいだったような気がする

俺はいつの間にか、花の十代を通り過ぎてしまったらしい


「ははっ 動揺するのも無理ないね

中身は高校生……いや、どうしてか君は身体も成長しなかったぐらいなんだから」


……え?


そういえば、首からしたに伸びる、見覚えのあるような懐かしいようなその身体は

どうみても大人のそれには見えなかった


「まあ、そんな異変も、これから話すことに比べれば大したことじゃない」


……いやそんなことないでしょ!


「とにかく話を続けるよ?

少女は、あれ以上何も話してはくれなかった

日常会話は、問題なく交わせていたけれど、寝ていた時の話は、何もね

だから独自に研究を進めたんだ

少女の話にはひとつ、心当たりのあることがあったからね」


「心当たりのあること……ですか?」


俺とっては、全部訳の分からん話だったけど


「世界が広がりすぎた、という話だよ

君はエントロピーの法則は知っているかな?」


「エントロピー……聞いたことはあります

水に溶けた塩は、広がっていって、万に一つも、自然に元の結晶に戻ることは無い……みたいなやつですよね?」


「そうだ

その話だけ聞けば、日常に根付く当たり前の話のようだけど、それは水に限った話じゃないんだ」


「……というと?」


「"宇宙"だってそうなんだよ

宇宙それ自体……いや、この世にあるすべてのものは、だんだん広がって、拡散されていくんだ

それが限界まで達した時……それが世界の終わりだよ」


世界の終わりか……想像もつかないな


「あまり現実味がないですね

といっても、そんなことどうしようもないし、遥か未来のことですよね?」


……話が見えない

この会話と、俺の疑問の答え

どう繋がるんだ?


「それとパラレルワールドに、何の関係が?」


「堪え性がないね?

もうちょっと話を聞いてくれよ


ーーエントロピーについて、僕達は長い間研究を進めていた

その研究が、少女の言葉で飛躍的に進んだんだ

彼女の言った"復元力"という言葉で」


「復元力……?バネの力みたいなものですか?」


「そんな単純な力ならいいね

……ここで言う復元力は、"エントロピーを逆行される力"だよ

僕達は、彼女の言葉をそう捉えた

崩壊を、止める力だ

宇宙だって、崩壊したくはないだろうしね?


……その存在の可能性は、長年考察されていたんだけど、少女の話で、一気に現実味を帯びることになった」


「エントロピーの逆行……

それが起きないのがエントロピー増大の法則だったと思うんですけど」


「そう、思われていたんだけどね 」


「思われて"いた"?」


「……気づいたのは十五年前のことだ

ある望遠鏡が、ありえない映像を映し出した


ーー一つの星が、変わったんだよ」


「変わった……? 何がですか?」


「遥か何億光年も離れた恒星だ

その星には、長い間超新星爆発寸前の反応が見えていたんだけどね

ある日……その反応がぱったり観測されなくなったんだ」


「それは……つまり?」


「色々な可能性を考えたが、どれもありえないものばかりだった

復元力、それに似た力の存在も、切り捨てられた可能性のうちのひとつだった

それが、あの少女の言葉で息を吹き返した」


「それで、結論は?」


「まだ、分からない

と言うのが正しいんだろう

復元力の可能性を軸に、研究を進めても、何一つ自信を持って真実だと言えることは分からなかった


……けど、有力な説は生まれたよ


ーーこの世界はね、周期的に巻き戻っているんだ

復元力によってね」


「巻き戻って……いる?」


「いや、それでは語弊があるな

巻き戻っている……というよりも、宇宙中の物質の運動が、その法則が、変わった……ような感じだ

宇宙が、元の形に戻れるような法則にね

その変化こそが、"復元力"

宇宙の崩壊阻止プログラムのようなものだ

それが、あの恒星にも働き、爆発寸前の星そのものの形態を変えたんだよ


ーーどれだけのエネルギーが加わったのか、想像もつかない」


……これだけトンデモな話をされているのに、どこか納得している自分に違和感がある


「そんなことが周期的に起こっているなんて、ありえるんですか?」


「ありえない、と、思ったんだけど……

彼女が言っていただろう?

まもなく復元力が働くって

彼女の言葉を信じるのなら、それも信じるべきだ


そう考えて宇宙の動きを観察してみたら……


ーー予備情報がなければ、そんなこと、ただの誤差だとしか思えないようなものばかりだったが、たしかにあったよ、数万年単位で、微小な変化がね

こんなもの……気づくはずがない

これは、"気付かされた"んだ

あの少女に、あるいは、他の誰かに」


そうか……驚かないのも無理はない

俺はこの話を【知っていた】


「つまり、今度の"変化"は……」


「計算が正しければ、あと3日以内だ


ーーまもなく世界は、創りかわる」

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