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帰ってきた現実……?

あの地獄のような転生の連続は、夢だったんだ

そう思う


この感覚は、現実世界にいた時に毎朝感じていた

眠りから覚める感覚だ

久しく忘れていた

どれだけ長い夢だったんだ……


しかしいつもと違う点が一つ


……寝る前の記憶が思い出せない

たしかにつながる感覚はある、しかし他人の記憶のようにしか思えない


脳が働かない、考えがまとまらない

その証拠に、俺は周りの状況が見えていなかった


「あのー?聞いてる?」

俺を目覚めさせたこの声

しかし誰から、どこから発せられてるのか分からない


周りを見渡す


誰も……いない?


「あのー……間違ってたらゴメンなんだけど、

……まぶたの開け方忘れちゃった?」



や、やはり何かがおかしい

朝起きて「あっ!まぶた開けるの忘れちゃった!」なんて人間がいるだろうか?

いや!いない!!

ともかく、せめて忘れたわけではなく、忘れていただけなのだという名誉挽回のために、まぶたを開ける


ーー眩しい光が目を刺す


のだろうという期待は、しかし、ありえないほど接近したおっさんの顔に阻まれていた


「おっ!目が開いたね!おはよう!」


「お、おはようございます……?」


挨拶!!懐かしい!!


「今の状況が分かるかな?」


分かっている、のが普通なのだろう

ただ夢から目覚めただけなら、分かるのだろう

しかし、俺はこの真っ白な部屋には見覚えがない


……考えを巡らす

考えがまとまらない

思考は働かないままだったが、疑問がふつふつと湧き上がってくる


ーーまず、このおっさんは誰なんだ

目の前に知らない人間

そんな状況に慣れすぎたせいか、全く違和感を感じていなかった

俺の父親? 違う

俺の母親? ありえない

俺の記憶にはない顔だ


そしてここはどこだ?

俺の部屋? 違う

学校? 学生だったかどうかも定かではない

こんな初歩的な疑問すら浮かばないほど、俺は転生というものを経験しすぎたのだ


どれだけ考えても疑問は晴れない

記憶が曖昧すぎて何一つ確証が得られない

せっかく現実に帰ってきたのに、これじゃあ転生を繰り返してた時より“自分”がおぼつかないじゃないか……


「分からない、んだね?」


「……はい」


「そうか……怖いかい?自分が一番よく知っているはずの“自分”が、誰か他人のように感じてしまう感覚は」


そうだ、違和感の正体はそれだ

俺は、俺という人間が分からない

知識はある

幾千回もの転生を繰り返し、得た知識の一つ一つが新鮮で、壮大で、貴重で、一つとして忘れたことは無い


だけど、本当の……つまり“現実世界”の俺

いや、“現実世界”それ自体が、この記憶のうちのどの世界なのかすら分からない

さらには、その一つ一つの“知識”の中の主人公たる

【俺】すら、他人のような気分だ


怖い


俺はどこにいる?

俺は……現実世界の俺は、どれだ?


「無理に思い出さなくてもいいよ、君は“巡り”すぎたんだ」



怖い



たしかに自分が迷子なのも怖いが、

ここまでずっと、顔を俺の鼻先まで近づけたまま、離れようとしないこのおっさんが怖い……


「あの……ち、近いんですけど」


「ん? あぁ!!ごめんね!距離感が掴めなくて! いろんな意味で!」


やっと離れてくれた

そうすると、今俺がいる場所がよく分かるようになった

ここは……なんだ?

何も無い、一面真っ白な部屋

真ん中にポツンと置かれたベッド

ベッドに寝た俺

そして一緒に寝てるおっさん


……これは、おかしいんだよな?

おっさんと添い寝って、おかしいんだよな?


分からない

何がおかしくて何が普通なのかも分からない

けど、


嫌悪感が異常だ


「なに一緒に寝てんですか!?ってかあんた誰!?」


ようやく疑問が言葉になった

本当の疑問より、この理解し難い、理解したくない状況の説明を求める気持ちが勝った


「んー……まあ強いて言うなら、君に人生を託した男 かな?」



……どうやら俺は間違いを犯したらしい

死のう


「ちょっ!なんでベッドの角に頭を打ち付け始めるの!? 突拍子がなさすぎるよ!行動に!」


痛いのには慣れっこだ

けど心の痛みには強くないんだ




ーー冷静になろう

俺はノンケだ

もし、アッチだったとしても、このおっさんは趣味が悪い


服装こそ白衣だが、七三の髪に眼鏡の顔面と

その下に伸びる筋肉隆々の身体があまりにもミスマッチだ

やっとベッドから降りてくれたおっさんに、俺は今の疑問のすべてをぶつける覚悟をした


「質問をしてもいいですか?」


「……ああ、僕に答えられる限りすべてに答えよう」




「プロレスラーの方ですか?」


「科学者でしょどう考えても!?」


俺は白衣のボタンが、筋肉で弾けそうになっている科学者を見たことがなかった





ーー「気を取り直して、何か聞きたい事はあるかい? 何でも答えよう」


「どうやって鍛えたんですか?」


「……自分がどんな状況に置かれてるのか、疑問だろう?知りたいだろう?」


「もしかしてドーピングとかですか?」


「いい加減にしろよ!? いいだろその話は!?」


「そんな身体してるのが悪いんでしょ!!」


「それは理不尽じゃない!?」



ーーしかし、いい加減このイカれた状況に説明を求めたいのも確かだ

この人が何者なのかという疑問はひとまず置いておこう


「では、まず俺は誰なんですか?」


「……急に真面目な質問するね? 僕も気持ちを切り替えないとね!」


真面目な顔をする科学者(自称)

始めっからそうしろよ


「君は、いや、君たちは僕らの研究チームに任された“病人”なんだ」


「病人…? というか君たち……ってことは、俺の他にもこんな状況の人が?」


「あぁ、君は最後に目覚めた、11番目だ」


「11人?なんでそんな少数の病人をこんな広い施設で治療してるんですか?」


「それは……君たちが2016年の7月、全く同じ日の全く同じタイミングで昏倒したからなんだ」


「……たしかにそれは珍しいかも知れませんね?

けど、ただそれだけで?」


「珍しい?確かにそれですむかもしれないな

様々な国の、近い年齢の少年少女が、たまたま、同じ船で、全員誰かに倒れる瞬間を見られていた なんて共通点がなければね?」


……なかなかありえることではなさそうだ


「さらに目撃者全員が、その直前に時計をチェックしていて、倒れた時間もピッタリだという証言が取れた

こんな偶然あり得るかい?

……僕はなんらかの天啓のようなものだったんだと考えているよ」


「天啓って……そんな馬鹿な?」


「最初はそう考える人ばかりだった、けどね、君たちの身体の解析が進むうちに分かったんだ

君たちの身体は、眠っている間も、動いていたんだ」


「それは寝相がわるいって、暗に文句を言ってるんですか?」


「このタイミングで言わないよねれ?こんな文句!?

……意識はなかった

けど、意識がないとおかしい数値が出た、反応があった

君たちの意識だけが、どこかに飛んでいってしまったかのように」


「そんな? ありえないですよ」


と、言うにはあまりにも不釣り合いな考えを持っている自分がいる

なにしろ幾度も経験してきたのだ

人智を超えた世界を

冷静になった今ならわかる



あれ“も”現実だ



「……異世界に、行っていました」


おっさんが押し黙る


「何度も何度も死んでは生き返り、死んでは生き返り ……地獄のような日々でした

正直、これが本当に現実なのかどうかも、確信がありません」


「やはり……そうなのか」


「やはり?信じるんですか? こんなリアリティのない話」


「信じざるを得ない……かな?

厳密に言うと、そこは異世界ではない

……そこも、現実なんだ」


それは直感でわかっていた、けど、どういうことなのか理解ができた訳では無い


「説明、してもらえますか?」


「あぁ、何でも答えよう

それが、この世界の望みなのだろうしね」


おっさんの真面目な顔は

やっぱり首から下とはミスマッチだった


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