7話 え?え?え?
飲み過ぎた。
いつもなら、夜が明ける前に目覚め、指令が届いているのを確認に行くのだが、今日は無理だ。
もう少し寝ていたい。
どのみち俺が現れなければ、あいつらも帰る。別に毎日くるわけではないしな。よほどの急用ならば、店に客としてくるからいいだろう、放っておけば。
頭が痛いのと気分がすぐれないのとで、横にある布団の塊を足の間に抱え込んだ。
いい匂いがする。すべすべしていて気持ちいい。
あまりにも気持ちのいい触感に、あちこち撫でていて気がついた。
あれ、俺昨日、女を買ったかな?
記憶にない。でもこれ、布団じゃなくて女だ。人間だ。
近くに人がいるのに、気がつかないで寝ているとか滅多にない失敗だ。
舌打ちしたい気持ちで目を開く。
「って、え?」
半身を起こして、胸の中にいる人物をまじまじ見つめた。
「え?え?アレス?」
間違いない。銀の髪のやつなんて、この村にいないからな。
「……ん」
足の間で、腕の上で、アレスが身じろぐ。俺の心臓が痛いくらい鳴り、臍の下あたりからキュッと悪寒が走った。
「あ、ラージおはよう」
「お、おおおはようございます」
アレスが目をこすりながら、身体の向きをかえ俺を見上げる。
「私、人がいるのに熟睡できたのはじめてだ」
私ぃぃぃ!? やっぱり女ぁ!?
い、いやそこじゃない。
「人がいると眠れないのか?」
「うん。落ち着かないんだよね。ばあばはすぐ攻撃してくるからさ」
……アレスが女。
「っていうか、重いからどいてもらってもいい?」
「うぇぇ?あ、はいぃぃ!すんませんっっ!」
俺は今、猛烈に反省している。
「ラージ、ご飯できたよ~」
「あ、はい」
アレスの銀の髪が、朝の光に照らされてきらきらしている。
「ちょ、ラージ大丈夫?口に入ってないけど」
し、しまった。かっこ悪いと思われたか?
「だ、大丈夫だ。その、あ~、ジェリーも食べたいかと思ってだな」
『わ~い』
「わ、バカ!皿の中は俺のだ!」
おいしい飯は貴重なんだぞ!
「あ、ラージ」
「な、なんだ!」
食いつくように返事をすると、アレスがのけ反った。
「いや、あの、お客さんじゃない?」
アレスの指が差す方に視線を向けると、窓の外に見えるのはリンの部下達だ。
「あの人たち面白いね~」
「何がだ?」
アレスの気を引くような、何かあるのか?
「ほら、1人は首が曲がってるし、もう1人は足が真っ赤だよ」
「あ、うん。そうだな」
あれは、あれだ。
昨日アレスが攻撃したからだ。
でも、あいつらの名誉のために言わない方がいい気がする。
トントンとドアをたたく音が響く。
「おう、入れ」
あいつらが、リン抜きで来るなんて珍しいよな。
「失礼しま~す、げ」
アカーシがドアを開けざまにアレスの顔を確認すると、その場で固まった。
「おいアカーシ。邪魔だぞ、げ」
クビカッタも入口で止まった。
アレスの姿をみとめて、変な汗が出始めてるな。
俺の嗅覚は各段いいわけではないけれど、変化には敏感だ。人の気配を感じられないと、命がいくつあってもたりないからな。
「何かあったか?」
「あ、はい。えっと、リンさんのことでご相談に」
ああ、本当。
思わず頭を抱え込みたくなる。
男勝りになりすぎたあいつを心配して、隣町に行儀見習いに出してみれば、用心棒になっちまいやがった。絶対トラブルに巻き込まれてるんだよ。
自分の手に負えなくなったから、この間帰ってきたんだしな。
「昨夜リンが一部始終しゃべっていったから、状況は理解している。が、今は手出ししない」
「なんでですか!」
お前ら、ほんっと、リンのこと好きだな~。
「俺を動かしたかったら、確かな証拠か依頼人を連れてこい」
安易な命令で、大事な仲間を危険にさらせないんだよ、俺は。
それに、ここに部外者がいる以上、これ以上の話はできないだろうが。
「姉御!ラージさんがリンさんに冷た過ぎると思いませんか!?」
姉御!?
「お前ら、アレスが女だってわかるのかよ!」
わかんねえだろ?普通。
「え、ラージさんわかんなかったんすか?」
「私のこと、いつ女だって気がついたの?」
って、え?え?え?