表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/53

5話 ご対面

門から村の中に入ると、そこは森だったよ。

……おかしくない?なんでこんなところに門作ったのかな。

しかもさっきより険しくなってる気すらする。


岩場を飛び越えて、木の上によじ登る。

もうさ、枝から枝に飛び移るのとか、風を使って軽く浮きながらやってるわ。

けど、同じルートを進むラージからは魔力の流れが見えない。つまり、生身の身体能力だけでこんなことをやっているってことだよね、すごくない?


先導しているラージが、時々振り返りながら私がついてきているか確認しているんだけど、余裕を感じるよね。

と、うなじの辺りに警戒の気配を感じた。


周りにいるのは2、いや3人、かな?

1人は気配を感じられない瞬間があるから、相当の手練れっぽい。


ラージは気づいてる?


足場になっていた枝を拝借して、魔力で硬化する。


靄を纏い、自分の周りを消音の空間に作り上げると、1番近くにいた相手が足を踏み入れたのを感知した。

そっと後ろにまわり、重さを増した硬化枝を首に叩き付ける。

野生の動物を捕まえる時に使う方法だ。


ドサッ。


よし、まず1人。


音がしないように地面に飛び降りたところで、小石を2つ手にする。

気配の分かりやすいもう1人に狙いを定めると、風に乗せて思いっきり振りかぶった。


小石が敵の太ももにヒットして蹲った瞬間、黒い靄がぶわっと広がる。

その瞬間、意識を乗っ取られて寝てしまった。

野生の動物を捕まえる時に使う方法だよ。


さて、2人目っと。


かくれんぼの上手なもう1人を探し出すために、広範囲に薄っすらと魔力を張り巡らせる。


やばいな。

私がついてきていないことに気がついたラージが戻ってきてる。時間をかけ過ぎたか。

それにしても、ラージってどのくらい腕が立つんだろう。

わからない以上、私に引き付けておく方がいいか。


私がわざと足音をさせて木陰から飛び出すと、間髪入れず小さな黒いものが飛んできた。

足元を正確に狙ってくる。

でも、そのおかげで君の居場所がわかったよ。


もう1つの小石を硬化。投げつける。

ぎりぎりで躱された小石が当たって、木がミシミシと倒れた。

む、野生動物の確保失敗したっぽい。


まあ、だけど対面できたね。黒装束の小柄なお相手に。


じりじりと距離を詰めながら剣を抜こうとした瞬間だった。

「やめろ、リン!そいつは俺の命の恩人だ!」

ラージの声に、相手が殺気を引いて動きを止めた。


黒装束の顔の覆いを取り払うと、現れたのは美少女だ。

勝気な瞳のポニーテール。

「なんだ。お兄の後をつけている人がいると思ったら、客人だったの?珍しいわね」


「え、ラージの妹?」

「そうよ」

上から下まで観察されてるね。

「それにしても、私より強い人って、お兄以外ではじめて会ったわ」

「別に強くないよ」

なんて言ったって、最後までばあばには勝てなかったし。私なんて大したことないんだ。

魔力なしだと戦えないしさ。


「バカなこと言わないでよ。あんなことできる人、そうそういるもんですか」

あんなの?


「まあ、なんていうか……アレス、普通の人間は手で木を倒したりできないからな」

「何かを投げて木を一撃で倒すこともできないわよ」

え、そうなの?



しばらく走り続けると、やっと開けた場所に出た。町の人、何人かが何かしらの作業をしているのが見える。

人がたくさんいる。家も、たくさん建っている。

私は物珍し気に周囲を見回した。

と、足を緩めたラージが口を開いた。


「リン、いつ帰ってきたんだ?」

「昨日よ。お兄、家にいないんだもん」

答えたリンが、いつの間にか他の町の人と同じ出で立ちのスカート衣装に変わっている。

すごい。町に溶け込んで、違和感ない。


「狩りに出てたからな。いつまでいるんだ」

「用事が終わればすぐにでも帰るわよ。その話はあとで」

「わかった」

ラージは面倒事だな、とため息をついた。

おそらく、私に聞かれたら困る話なんだと思う。

私、兄弟の団欒を邪魔しちゃったかなあ。


「アレス、こっちだ」

ラージの後をついて行くと、緑色の建物に入った。水の音と水蒸気が流れてくる。

「風呂屋をしているから、夕方になると人がたくさん出入りするんだ」


家族が住むだけにしては広いなと感心していたら、人の集まる施設だったらしい。

「こっちの手伝いは人を雇っているから、アレスには食事当番だけ頼むよ」

「わかった」

ってことは、それなりに暇があるってことだよね。


「アレスの部屋はこっち。ここを好きに使ってくれ」

ベッドが1つと2人がけのテーブルがある、こじんまりとした部屋だ。そして、キッチンから一番近いらしい。

「ありがと」

「まあ、まずはお礼も兼ねて、風呂に入ってゆっくりしてくれ」

言うと、リンと一緒に下の階へ降りて行った。


お風呂にむかうと、入口が2つに分けられていて男女別になっているんだろうと推測する。

どっちが女用だろ。

「ジェリー、どっちにいく?」

『こっち!誰もいない』

誰もいないならどっちでもいっか。


中に入って脱衣所を抜けると、湯気の充満した空間が広がっていた。

しかし、真っ白で前が見にくい。

ふむ、ここで身体を洗うのかな。

こんなに湯気が充満しているところに入ったことがないから、なんか楽しいね。連れてきたジェリーも私の肩の上でプルプル揺れている。


身体を泡で包んで洗うのも好きだけど、ジェリーに洗ってもらうのも好き。

サバイバル前や戦闘前は、ジェリーに洗ってもらうと産毛までなくなって、風の抵抗が少なくなるから戦いやすくなる。水の中で対戦する時には効果がてきめんにわかるからね。

それにしてもこの中にいると、ものすごく汗をかくわ。


『ぷかぷかしたいんだけど。ぷかぷかないんだけど~』

ジェリーがぴょんぴょんウロウロしている。

「お風呂屋さんっていうくらいだから、どこかに湯船はあると思うよ」

『どこ~?』

ジェリーを乗せて、白い空間の中足を進めると、光が強いところがある。

「あそこから外に出られるみたいだね」


『おお~』

出ると、涼しい風が一気に吹いてくる。

景色も緑がいっぱいで、気持ちいい。

出てすぐの足元が湯船だった。

ジェリーがぷかぷかを楽しんで、どんどん進んでいってしまうのを追いかける。


「ちょっと!あんたなんで裸なのよ!」

急に大声が聞こえたかと思ったら何か飛んできた。

フッとよける。

「よけるんじゃないわよ!……ってあんた女だったの?」

「あ、リンだ」

白いワンピースを着て、仁王立ちのリンがいた。


「あ、リンだ、じゃないわよ。なんで裸なのよ。入浴着が置いてあったでしょう。ここ、混浴ゾーンなのよ」

入浴着なんてあったかなあ?

「気づかなかったね」

なにしろ、真っ白だったもんね。


「もしかして、だけど、あんたあっちから来たわよね」

リンの声がなんか震えてる。

「黒い暖簾は男風呂って知ってるわよね?」

黒い暖簾……あったね。

「ってことは、白い暖簾が女風呂なのかあ。勉強になったよ」

「もう!どんなど田舎から来たら、そんな風に育つのよ!」

私、むっちゃ怒られてる。

うん、ごめんってば。


それにしても、いい景色でいい湯だなあ。

ゆったり。


「いつまで入ってるつもりなのよ、その格好で!出るわよ、早く!誰か来ちゃうでしょ、バカ!」

腕をつかまれて引っ張られる。

もっとゆっくり入ってたいのに~。

ラージだってゆっくりしてこいって言ってたじゃん。


リンってこわくない?ぐすん。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ