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42話 もっと早く

昨日と似たような。

ラージ視点です。

『連れて行くよ』

『帰さないよ』


足元から声でない声が聞こえてくる。


少し前から。



アレスは俺を他より特別にみてくれる。

……少しだけ。


そのことにイラつく。俺は、それでは足りないから。


でも、わかっている。

アレスは極端に人と接することの少なかった特殊な環境で生活していた。

そのせいで、俺なんかみたいのでも好意を持つ対象になったんだろう、なんてことは。


でも今更、どうして手放せるだろう。


そういう意味で、アレスのお姉さんには感謝している。

唯一無二の存在にしてくれたからだ。

無理矢理感は否めなかったが。

あの一瞬は『これで大丈夫だ』と思えたのにな。

なのに。


その後から、聞こえるようになった。

『連れて行くよ』と。



今、アレスの目に俺は映っていない。前を見据えて、もう俺の声も届いてないかのようだ。


『連れて行くよ』


ああわかっている。

アレスの心まで縛れないことなんて。


『帰さないよ』


それでも手放せない。


だから、このままではいけない。

わけのわからない焦りが湧き上がる。

このままだと、彼女は永遠に戻ってこられなくなるんだぞ。


俺が、力不足だから?


なんでだろう。こんなに近くにいるのに、すごく遠い気がするのは。


アレスが俺以外をその瞳に映すのが、不快で仕方ない。

お前は俺のものだろう?

そうでないと、いけないのに。

もう時間もないのに。

確かな絆を繋がないと、いけなかったのに。


大きく開けた穴の中から、ボコボコと何かが湧き出てきて足元で広がっていく。


『連れて行くよ』

『帰さないよ』


あの時あんなにも落ちた場所にあった、あの石碑と魔法陣までゆっくりと上がってきて、何故だかこんな近くまで移動してきた。


そしてそれが『早くしろ』と俺を急かすのだ。


わかっている。

行くのは止められない。

彼女の大切な人が呼んでいるから。

連れて行かれるのは仕方ない。


特に執着するものも持たない彼女が、俺のために戻ろうなんて思わないことが。

彼女はそうなってしまっても、多分それでいいんだろう。

そんなことはわかっている。


でも、俺は?


このまま失っても?


そうなってしまったら、どうやって生きていけばいいんだろうか。

帰してほしい。

帰ってきてほしい。俺のところに。


そのための努力と時間が足りなかった。


キラキラと光る魔力の欠片が、アレス達を呼んでいる。

行かないといけない。

でも、俺はアレスとまだ繋げられていない。


俺のアレスを愛しいという気持ちだけでは、アレスのこちらで生きる執着まで育てられなかった。

そして俺は、そっちに行く資格を得られなかった。


だから、まだ、ダメだ。


少しずつ足元が埋まっていくアレス。


「何がなんだかわからないけど、俺、アレスに会えなくなったら死ぬ。生きてる意味がなくなるぐらい、アレスのことが好きだから」


こんな言葉でしか引き止められない、なんて。

酷く滑稽で笑える。

こんな卑怯な言葉でしか、引き止められない自分が。

それでも


「俺!アレスが帰ってこなかったら、死んじまうからな。寂しくて」


アレスに追いすがって、触れて、その存在感の無さにもう時間がないことを知る。

無理矢理唇を塞いだ。言葉にならない、全てを込めて。


「なんか、好かれてるって感じがする」


もっと早く、伝えればよかった。

照れたりなんかしないで。



「好きに決まってるだろ。愛してんだから。

待ってる、から、帰ってこい。必ず」





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