38話 sideジルベイダ
私はナンテコッタ国の次期国王だ。
けれど、初めからそうであったわけではない。アンフル姉上が家族を守るためその身を亡くし、私がその座についたのだ。
その事実に誰もが落胆したのを知っている。
姉上は天災をも引き起こす程の魔力を有した人物だった。その神がかった力は何度も人々を救い、そして愛されていた。
それに引き換え私は。
私だって銀の色持ちなのに。
何度、そんなことを思っただろう。
私のお祖母様に当たるリーナ様は、この国を造り替えた創造の女神と呼ばれている。
私は会ったことはないが、相当な力の持ち主だったらしい。
現代に残る生活に欠かせない全ての物を生み出した、慈愛の女神なのだ。
そのお祖母様から生まれた一人娘の母ケイミーも、リーナ様の意思を継ぎ、さらに国を豊かにした。
リーナ様と違い、全ての人に平等に施しを与えるということはないが、医者ではどうにもならない怪我人や病人の治療は神がかっていると言っていい。
我が国では、寿命以外で死ぬことがほぼないという安心感はお祖母様のなせる技だ。
そして父上は、おそらく妻ケイミーの加護により、この国特有の髪色でありながら(銀色を持っていないのにも関わらず)常人ではあり得ない力の保有者なのだ。
母を害したり、父と母の間に入ろうとした者達が膨れ上がったり腐ったりしながら、長く苦しみながら死んでいくのを幾度も見てきた。
その恐ろしい力は他国を威圧し、長くこの国を平和に保つのに役立っている。
だから私もそういう圧倒的な力をいずれ持つものと思っていた。
しかも銀色持ちだ、父上よりも強い力をと思って何がおかしい。
けれど、そういうことにはならなかった。
もちろん私の力は常人とは比べるべくもない。
けれど、父上母上や姉上と比べると劣っていることがよくわかる。
そんな腐る気持ちを持て余している時に生まれたのが、アレスティーナだった。
先に生まれたラメルは、姉上よりも強い力を持っているようだった。さすが、銀の娘。
ところがアレスティーナは違った。
時折隔離された屋敷まで訪ねて行っても、アレスティーナが飛び抜けて魔力があるように見えることはなかった。
だからアレスティーナの良き理解者になれると思ったのだ。
「王族の権威を保つために、アレスティーナは私の息子と一緒になる方がいいんですよ」
「はあ?王族の権威って何よ」
戦闘センスなど皆無の小娘に、いいように蹴り転がされると、手に硬い金属が触れた。
誰かの剣だ。
全体ではないが、ミスリルの輝きがある。これはいい。
俺は心の中でニヤリと笑った。
「なんとしてでも、アレスティーナを取り込んでみせる」
最初の剣を折られてから、魔力を凍らせた剣で相対していたが、魔力の量・質共にラメルに劣るのだからかなうはずもない。普通の剣では太刀打ちできない。
だがこれを元にすれば。
ガチャッと握りしめた剣を魔力で覆っていく。
「アレスの邪魔をするやつを、生かしたまま帰れないわね」
ラメルの振り下ろした剣を受け止め、っえ?
ガチッと音が鳴った後、剣がホロホロと崩れ落ちた。
はっ?
この女、化け物か?
踏みつけられ、蹴りあげられる。
くそ、私に力さえあれば!
ドォッガガがガーン!!!
ってええ?
足元が立っていられないほど揺れた。
振り返ると本殿が崩れ落ちて、底がわからないくらい大穴があいている。
いや、私だって建物を瞬時に全壊するくらいできるよ?
でも、その穴、何?
底見えないんですけど。
なんか黒いのが這いずりまわってるんですけど。
しかも人が球体に包まれて浮いている。
な、何があったんだ?
え?あれはアレスティーナの仕業なの?
え?あの子、たいしたことできない子じゃないの?
ちょっと速く移動できたり、ジャンプできたりできるだけの子だよね?
あれ?大したことないの、私だけ?




