32話 やばいって!
私達は夜を待って行動することにした。
光も入らない建物の地下深くなのに、ラージには時間がわかるらしい。まあ部屋自体は魔方陣と、転移石の灯りで暗くはないんだけど。
お姉ちゃんがどうやったのか階段を作り出し、私たちは元の場所まで上ってきたのだ。
そして、やっぱりどうやったのかお姉ちゃんが外に繋がる扉を作り出し、その扉の隙間から、ラージが外の様子を伺っている。
時折、首に掛けた電話で誰かと話しているみたいだから、リン達と連絡でもしてるのかなと思う。
「あ、そういえばアレス、これあげる。私はもう1本あるから」
お姉ちゃんがブーツの横から取り出したのは、刃のない剣みたいな何かだ。
基本、お姉ちゃんに緊張感はないらしい。
私は私で、刃のない剣をいったい何に使えるのかなとクルクル見る。
「ちょっと魔力を通して使うんだよ」
というお姉ちゃんの言葉に、少しだけ魔力を通してみる。
と、薄っすらと光る複数の模様がぷっくりと現れて、なんとも美しい剣になった。
「これ、国の鬼畜賢者が本物を模倣して量産した剣なんだけど、ちゃんと効果があるんだよ。あのウネウネに触れるとちゃんとシュワッと消えるから」
ああ、それであの時お姉ちゃんがウネウネを退治できたんだ。
私は掴むこともできなかったもんね。
「むしろ本物のは間違えると人間ごと消し去っちゃうから、こっちの模倣剣の方が使い勝手がいいんだよね」
へえ、人間が消えちゃうんだ〜、って!おかしな不穏ワードが入ってるよ?!
「ちなみにこの剣、これ自体では物を切ることが出来ないから、魔力を流してパシパシ叩きつけるか、魔力を流しながら傷口にプスッと刺して使ってね」
う〜ん、それだけ聞くとなんかあんまり強そうな武器じゃないね。
いつも使っている武器と二刀流がよさそうかな?
「お姉ちゃんはあのウネウネが何か知ってるの?」
「あれはねえ、魔力を食べる虫みたいなものかなあ。魔力のある宿木に寄生して、そのうち意識を乗っ取っちゃうらしいよ」
確かに、乗っ取られる感すごかった。
じゃあマーダもそうなんだろうか。何かに乗っ取られてる?
でもちゃんと人として生活してたしなあ。あれは虫じゃなくてちゃんと人間だったよね。
「乗っ取られた人はどうなるの?」
「う~ん。権力に目覚める?偉い人になりたい、みたいな。あと、丈夫な身体が欲しいとか言ってたかなあ。私説明されても、害虫の言うことなんて理解できなかったんだよね。する気も起きないし〜」
確かに、虫なんかとお話する人なんて聞いたことない。
「私も1回乗っ取られかけて、ブチ切れた保護者が全部駆除したつもりだったんだけど、あの忌々しいGと一緒でいろんな所に隠れていてしぶといんだよ。まさかこっちの国まで来てるとか思わなかったね〜」
お姉ちゃんが酸っぱい顔をして手を振っている。
……忌々しいGって何のことだろう。害虫っていうくらいだから虫、かな?
「それにこっちの人って魔力持ち多いから、ドウシタンタ国よりも増えるの速そうかも。今気がついたけど、めちゃんこ大変じゃん!」
あわわわと目まぐるしく考えたらしいお姉ちゃんが、外の様子に集中していたラージを捕まえた。
バシバシ肩を叩いている。
「ラージ君も魔力持ちになったんだもんね?これあげる!」
もう片方のブーツの中から、私の貰った物と同じ剣を取り出した。
「アレスとお揃いだよ!」
お姉ちゃんは双剣使いだったのかな?
「おおおぉぉ揃い!」
ありがとうございます!がスッゴイ鼻息なんだけど!
ラージの声でかくね?
「因みにね、アレスとラージ君は結婚したばっかりじゃない?」
「そうですね!」
目がキラキラしてお姉ちゃんに尻尾を振りまくってるように見えるラージ。
お前はバウワウか!
そして声でかくね?
今、潜伏中じゃね?
「結婚して一番最初に夫婦でやる作業が入刀なんて、ものすごく縁起がいいよね!」
「縁起がいいんですか?!」
だから、声でかくね?
「おおおぉぉ俺!いっぱい刺します!な!アレス!」
ってだから、声でかくね?
ってええええええ!
「おやおや、こんな所に隠れてたんですね」
ほら!みつかっちゃったじゃん!




