31話 結婚の意味が重すぎる
「そのためにまず、状況を把握しましょう」
ラージが話の輪に入ると、お姉ちゃんが頷いた。
「それもそうね。あのウネウネがたくさんいたところを見ると、何かのトラブルに巻き込まれたのはわかるけど、何が起きてるのかさっぱりわからないもの」
いきなり呼ばれちゃったんだもん、と頬に手を当てる。
「お姉ちゃん、私は人を探すためにここに来たの」
知らない子だけどね。
「そうしたら、このお屋敷から出られなくなっちゃったんだよ」
屋敷内を探索する分には全く支障はなかったけど。
「どうやらここは、魔力を比較的多く所有する人たちを集めて閉じ込めているらしいんですよ。魔力を溜めておける施設でもあるのかもしれないですね」
ラージがおおよその出来事とそこから導かれる答えを推測する。
「ふむ。魔力を集めようってことは、きっと魔石がたくさんあるんでしょうね。そして、それを密輸するとすれば、ドウシタンタ国はうってつけの相手よね。慢性的な魔力不足だもの。でもそんな動きなんてあったかしら」
確かに魔力で動く機械は多いから、あり過ぎて困ることはないと思われる。
ドウシタンタ国は魔力持ちの人が極端に少ないという話だし。
でも
「魔石が必要なだけなら、別に攫うようにして人を集めなくてもいいと思う」
ただ魔石を売るためだけに、金儲けをするためだけにこんな手の込んだ犯罪みたいなことするかなあ。
こんなにお金をもらえるなら、すすんで働く人なんてたくさんいると思うんだけど。
つまり、それだけが目的ではない、とか?
「そういえば、あいつは私とゴン君に子作りしてほしいって言ってたような」
あんまり覚えてないけど、って!
「ほおぉぉぉお?その話、俺は聞いてないんだがあ?」
何気なく呟いた一言に、ラージが食いついた。
ラージの背中からなんか黒い気配が漂ってるんだけど!
今までこんなことなかったよね?何、この黒いの、怖っ!
ガッチリと掴まれた肩が痛い。うう、私余計なこと言ったっぽい。
「ま、待て。ワレはアレスと子作りなどしないぞ!ワレらの種族に生殖機能はないからな!その黒いのを抑えるのだ。昔の恐ろしいあやつを思い出すであろうが?!」
お姉ちゃんとゴンまで引くようにこっちを見てる。
ラージはゴンの一言に落ち着きを取り戻したようだ。
「そうですか、安心しました。アレスは自分のなんで」
いつラージのものになったの?!なんて言えない空気だ。
「そ、そそうよね。アレスは愛されてるな〜。ラブラブだな〜」
目が泳いでいたお姉ちゃんが、ポンッと手を打った。
何か思いついたらしい。
「お姉ちゃん、大奮発しちゃう!さあさ、2人とも並んで、並んで!」
お姉ちゃんに促され、2人で並んで床に座ると私たちに向かい合うように腰を下ろした。
「え〜、コホン。悩める時も〜、困難の立ち塞がる時も〜、幸せが溢れ健やかな時も〜、どんな時も〜手を取り合って支え合うことを誓いますか?」
って物語の結婚式の文句みたいだ。
なるほど、結婚式ごっこでご機嫌とりかな?
ほらご機嫌直してってラージに話しかけようと横を見たら、ラージが真っ赤になっている。
おお、かわゆい。そして、ちょろい。
「も、もももももちろんです!」
お姉さんに認めてもらえた!とか言ってるけど、そんなに嬉しいもんかなあ。
「アレスは?」
そりゃ私だって、一緒になるなら今のところラージが1番いいからね。
「うん」
こんなことで、ラージの怒りがとけてご機嫌になるなら安いもんだ。
「では」
返事を聞いたお姉ちゃんが立ち上がると、キラキラと輝やきだした。
って、え?何が起きるの?
ラージの怒りを抑えるための、結婚式ごっこなんだよね?
「愛する2人に、大巫女ラメル様より特大の祝福を!お母さん、頼んだ!」
とたん、私とラージの身体が眩いくらいに光り、粉々に散って混ざり合った気がした。
ぐわんぐわんする意識が、大きなものに包まれて護られている感じがする。
『わかってるわ。アレスティーナは私にとっても大切な子なのよ、ふふ。不完全な身体を作り変える機会があるなんて思わなかったもの。1から作り変えたから、あとは私の大き過ぎる力を、ラメル、貴女の力で調節して2人に与えてね』
ああ、懐かしい声だ。
……いや待て。かつて、ばあばがまともなことをしてくれたことなんてあっただろうか、いやない。
どのくらいの時間が経ったのか、気がつくと元の通り、床に座っていた。
何が起きたんだろう。
不安と不安と不安で、目を瞬いてお姉ちゃんを見る。
「これでラージ君がアレス以外に反応することはなくなったし、アレスもラージ君以外を受け入れないといけないような危機に陥っても、相手のナニが女性化しちゃうようになったよ。お母さん物作りの神様だから!」
って、え?え?
「それはもう祝福ではなくて、呪いの域じゃな」
ゴンが遠い目をした。
 




