3話 ベア肉
『アレス~、アレ食べちゃってもいい?』
どれどれ?
あ~、さっきのベアモンかな。
「そのまま食べたらおいしくなかったんじゃないんだっけ?」
『アレス、料理する~』
「はいはい。じゃあ待っててね」
こんな時1人じゃないんだって思う。会話ができるって幸せ。
よし、気合入れて料理するか。
まず、今倒したばかりのベアモンを切ってバッグに突っ込んでは取り出す。
どうやって食べようかな。
かたい肉かもしれないし、薄く切ってしゃぶしゃぶして食べようか。
薄く切るためにまず凍らせてっと。
左手から冷気が出始めた。
程よく固まったところで、包丁を入れ薄くサクサク切っていく。
隣のコンロに鍋を置くと、空中から水を注ぐ。コンロの魔石を作動させて、お湯を沸かすと肉を入れ始めた。
肉に火が通ったところで、取り出したものを1枚食べてみる。
「ん~、少し癖があるか」
『あ~、アレスばっかりずるい!』
お、みつかっちゃった。
「ごめんごめん。味見しただけだからさ」
ほいっと、ジェリーの上に肉を落としてやる。
「タレにカンミーネを混ぜようか悩むなあ」
『魔力足りないから、アレスの作ったタレかけたい』
相変わらず、ジェリーの味覚は含有魔力量に左右されるなあ。
『アレスの料理を食べると強くなるんだよ』
「そうなの?」
そんなこと言われても、ジェリーが戦っているの見たことないからわかんないね。
「じゃあ、手の込んだゴロッとシチューとしゃぶしゃぶサラダにしようか。あ、主食がない」
パンを保存食でカバンに詰めてこればよかったかも。
ん~、まあお酒のおつまみだと思えばいっか。
「ん~、む~ん」
向こうの部屋から声がする。
「ラージ起きたのかな。ジェリー!ご飯だって教えてきて~」
『は~い。ごはん~』
ベアモン2匹の内、1匹はラージが倒したんだし、全部ジェリーに食べさせるのは気が引けるもんね。
「うぎゃわああああ!」
ラージの叫び声が響き渡った。
「!!どうかした!?」
慌てて部屋に飛び込む。
「ス、スライムが顔に」
な~んだあ。ラージの声震えてるし。
「ははは!この子はジェリー。友達なんだ」
スライムって魔物だったね。
ばあばも魔物を怖がらなかったからピンと来ないけど、商隊の人達は怖がっていた。世の中には魔物を怖がる人の方が多いって教えてくれたのは彼等だ。
「な、なんだ。少年の使役魔だったか。顔が溶けたかと思ったよ、はは」
ん?少年?
もしかして男と思われてるの?私。
ヤバイ、ラージおもしろすぎる。まあ、短い付き合いだし、誤解されたままでいいよね。
「食事の支度ができてるんだけど」
言いながら、ドアの向こうに見えているテーブルを指差す。
「なんだか悪いな。危ない所を助けてもらった上に、食事まで」
「1人だと味気ないしね~」
棚からお酒の瓶を取り出すとグラスを並べる。
「ア、アレスって何歳?」
お。
「何歳に見える?」
何歳って言っとくと違和感ないかな。私16なんだけど。
「12~3歳くらいかな」
そうしとくか。
商隊の人やラージに比べると、私って小さい。外の人って大きいよね。
「まあ、そんなとこ」
「じゃあ酒はダメだろ」
は?まじ?16って訂正する?
っていうか
「じゃあお酒はしまっておこうかな」
誰もいないときに飲めばいいんだわ。
「ま、まあ待て。たまにはいいさ、男だもんな!」
いいのかよ!さては飲みたいだけだな。
けど、そんなこと言わないよ。私も飲みたいもん。
「しっかし、アレスはすごい魔法を使えるんだな~」
モグモグ。ガチャガチャ。
「ま、まあね」
ラージ、すごい食べるな。人間ってこんなに食べられるもん?
口の中すごい入ってるし。げ、お酒で流して食べるのかよ。
っていうか、両手にフォークなの!?
『ラージ食べ過ぎ!ジェリーのなくなる!』
ジェリーが対抗してお皿ごと食べようとしてる!
お皿は困るよ。
「ジェリー、足りなかったらまだ作ってあげるから」
落ち着いて!
「私のあげるからね」
ジェリーの頭の上に、肉を1枚落としてあげる。
「アレス、たくさん食わないと大きくなれんぞ。せっかくうまいのに」
ちょ!そう言いながら私の食べないでくれる?
『それジェリーのだし!ラージのバカ!』
……なんで食戦争みたいになってるの、も~。
仕方ないなあ。私はキッチンに移動して、森で最初に出会った肉をスライスする。
もうこの際、何の肉でもよくない?
「こっちのこってりしたのなくなったぞ~」
「シチューはもうないよ!」
それはそこそこ時間がかかるんだよ、作るのに。スパイスを集めるところから始まるからね。
しゃぶしゃぶサラダよりもシチューの方が好きなのかなあ。
あっさりしすぎ?
鍋の中に空間から水を足しながら考える。
ん~、薄い肉を炒めてみようか。ちょっとはこってりするかな。
塩コッション、と。
「そういう魔法だってさ、俺んとこの村に使える奴はいないしな~」
食べながらラージが私を観察している。
「ちょっと水を出したり、火をつけたりできる奴はいるけどな」
そっか。この程度でも目立っちゃうのか。
っていうか、目立たないの無理じゃない?
いやいや、ばあばと約束したんだし、ちゃんと地味目にがんばるよ、うん。
「木を手で倒すなんてのも、普通の奴にはできないしな。昔話に出てくる女神様みたいだよな。まあ、アレスは男だけど」
ははは、女なんだけどね~。
ばあばの目立たないようにっていうのは、みんなに合わせるようにってことでしょう?
だからラージに合わせておけばいいんだよね。
ラージの生活が気になる~。
お酒を飲ませて酔わせて聞き出す?酔っぱらっていれば何を聞いたか覚えていないよね。
酔わせてたくさんしゃべってもらおう。
はい、飲んで。ほい、飲んで~。それ、飲んで~。
2人ともヘベレケですね~って、ダメじゃん!