28話 秘密基地
ジェリーと少年が光ったかと思ったら床が抜けた。
「うそおおお!?」
急に放り出されて、来るべき衝撃に備えて身構える。
魔力があれば落下の衝撃は避けられるだろうけど、今の私には無理だ。
私に張り付いている透明のコレも、風圧で引きはがされて落下し始める。
なるべく衝突の被害を小さくすることを考えなければ、とは思うのだけど落下時間が長すぎる。
速度が増して、普通に死んじゃうかもしれないな。
そんなことが頭をよぎった時、ラージに抱え込まれた。腕を伸ばしてしがみつく。
それだけで、安心できるから不思議だ。
ラージが紐を出し投げると、少年に巻き付いた。そのまま力強く引っ張ると、少年も一緒に担ぎ上げる。
のんきにイビキをかいてる場合じゃないよ、少年。
いや、もしも死んじゃうなら、気がつかないうちに死んだ方が怖くなくていいのか?
ジェリーやトカゲンは私の服にくっつく。
これで全員の命運がラージに託されることになった。
まあ、ダメならダメで、うん。
落下地点が見えてくると、ラージが両脇に私たちを抱え直し、身体に回転を加える。両足で衝撃を受けるのと同時に、前傾を取らず背中で私たちの体重を引き受けた。
「ラージ!大丈夫!?」
「つうぅぅっ!」
ああ!血が出てるし背中が破れてる。
「いや、平気だ」
いや、痛そうだよ!
私達が着地したあと、ボタボタと透明のが落ちてくる。
地面についたソレは薄く発光し、ラージの目にも見えるようになったようだ。
私の身体にも、まだいくつかくっついているソレが光っている。
「う、アレスの言ってたのこれか。くそ、取れないな」
ラージが払い落そうとしてくれるけど、しがみついたソレははがれない。
その上、高い所から落ちたソレは、小さくちぎれても死ぬことはなかったようで、私に向かってのっそりと動き出した。
「むうう。ここどこだ?」
私とラージが警戒の気配を強くする中、少年の目が覚めた。
『あ、やっぱりゴンだ!』
ジェリーが飛び出すと、ゴンの肩に乗る。
「む?お主、ジェリーか?ジェリー初代ではないか。久しいな」
あの気持ち悪い物がじりじりと近づく中、何のんきに再会を喜んでいるんだ、お前ら。
「それにしても初代がいるということは、銀のがいるのか?どれだ?」
『アレスだよ』
ジェリーがぴょんと私のところにやって来る。
「お主、銀の気配はするけど銀ではないのだな。それにここはケイミーが作った秘密基地ではないか。ちょっと来い、アレスとやら」
私の手を引っ張って、部屋?の中心に向かっていく。
いやそっち、透明のがいっぱいいるんだけど!
いやだな~、行きたくないな~の気持ちを込めてのろのろと進むのだけど、ゴンには伝わってないらしい。
警戒するようにラージもついてくる。
中央にある四角い碑のような石に近づくと、上の部分に何か書いてあるのが見える。
何かの文字かな?読めないけど。
「ほれ見よ。ここにこうしてな、こうするのだ。ケイミーがよくやっていたからな」
石碑の上にゴンに手を押し付けられると『登録サレマシタ』と頭の中を言葉が通り抜けた。
『登録者本体ノ魔力レベル未到達ノタメ、起動スルト生命活動ガ停止スルオソレアリ。実行シマスカ』
続いて脳内に流れてくる文字列。
生命活動中止ってどういうこと?
死んじゃうってこと?
しない、しないよ。どうやって止めたらいいの?
石碑から手が外れない。
「アレス、どうした?」
「手が外れなくて」
私の焦りを感じて私の手を石碑から外そうと、ラージが手を重ねた時だった。
石碑から白い紐がにょ~んと伸びたかと思ったら2人の手を貫いた。
「いったああ……く、ない、ね」
ラージを見上げる。
「あ、ああ。驚いたけどな」
心臓がバックンバックンいってるよ。
『五ノ姫、護り人トノ繋ガリヲ登録シマシタ。五ノ姫、パワーセーブリミッター解除シマス。護リ人起動ノタメノ魔力ガ足リマセン。五ノ姫カラ供給開始シマス』
「ぐっ」
ラージが苦しそうに跪く。
「ラージ?」
どうしたの?
「くっ、身体の中に何か入ってきた。嫌な感じではないが、熱、い」
「ふむ。ラージとやらがアレスと繋がって、魔力持ちになったのだな」
へ?繋がったって、何?
さっきの紐みたいなののせい?
っていうか、もちっと説明がほしいけど!
あ、でも本当だ。
透明のウネウネが、私だけでなく、ラージにも絡みつき始めたもん。
仲間増えた〜って喜べんわ!
『基地起動ノタメノ魔力ガ足リマセン。生命活動ヲ停止シ供給ニアテマスカ。現在敷地内ニ魔力保有者アリ。協力者カラ供給ヲ得マスカ』
「生命活動の停止は困るけど、協力者からの供給ってどうするの?」
協力者から供給ってどういうことで、そもそも誰のこと?
ゴン君とか、魔力保有者っぽいかも?
『了解シマシタ』
いや、聞いただけで、決定じゃないんだけど!
立っていられないくらいの揺れを感じて膝をつくと、さっきまで呻いていたラージに引き寄せられる。
脂汗が額にびっしりだよ。
回復飴、回復飴!
と、床に模様が浮かびあがった。
地面が強く光を放ち、私は眩しさにラージの腕の中できつく目を閉じた。




