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盗賊団暗殺任務

 村人に確認を取ってみたら確かに盗賊は西辺りから来ていて、魔物退治のために作られた砦があるらしい。

 最近は近くの魔物がほとんどいないから、砦に兵士はいなかったようで、盗賊が根城にするにはピッタリだったとか。


 ネズミ男の言葉は一応真実だった。気に入った殺すのは最後にしておこう。


 村人に言われた通り西へと行ってみると、確かに石で作られた城壁のある砦が現れた。

 残念ながら城壁が高すぎて、外から中の様子はうかがえない。

 入り口である城門には剣をぶらさげた半裸の男達が二人立っている。


 おそらく見張りだろう。油断しきっているのかポリポリと尻をかきながら雑談していた。


 さっさと無力化しても良いんだけど、人違いでしたテヘペロ。なんてことがないように、ターゲットのドランが中にいることを確認しよう。


 まずは騒ぎを起こさずに潜入だ。


「スキル、影歩き」


 スキルが発動すると自分の影が濃くなる代わりに、自分の身体が透明になった。

 実体を影に移すことによって、他人から見えなくする影使いの隠密スキルだ。

 闇魔法にも似たような魔法があるそうだけど、自分の周りを暗くして姿を隠すだけだから昼間には使えない。


 その点、影はいつだって実体があれば出来るから、真っ昼間だろうが夜だろうが好きに使える。

 使用制限の無いステルス迷彩ってやつだね。

 足音さえ立てないように歩けば、気付かれることは無い。

 魔力を検知する探索魔法も魔力がない俺には引っかからない。

 だから、堂々と真正面から城門から入ろう。


「ミギーとネズのヤツ遅いな」

「あのデブとチビ、道中で一発ヤってんじゃねぇのか?」


「へへへ。ありえるな」


 ミギーは知らないけど、ネズはさっき捕まえたネズミ男か。となると、ミギーはあの肉ダルマだな。

 間違い無い。ここだ。


 前言撤回。騒ぎを起こさないように一人一人確実に殺す。

 俺はナイフを両手に構えると、二人の影に刃を振った。


「影断ち」

「カハッ……」


 二人が咳のような短い悲鳴を出すと、白目を剥いてそのまま前のめりに倒れた。

 存在そのものを断ち切るスキルで影を切られた見張り達は、肉体では無く魂が死ぬ。

 普通に切るのと違って、血が出ないのもクリーンで使い勝手が良い。

 ぱっと見寝ているようにしか見えないだろう。


「まずは二人」


 情報では手下が十人。既に倉庫にぶちこんだヤツも含めれば、残りは六人だ。

 敷地内に入ると堅牢そうな石と煉瓦で作られた城が現れた。

 中庭に盗賊の姿は無い。


 見張り塔になるような高い場所を探すと、城のバルコニーで突っ立っている男を見つけた。

 距離は四十メートルくらいだろうか。投げナイフでは届かない距離だ。


「なら、こいつの出番か」


 懐からクロスボウを取り出して、矢を取り付ける。

 狙いをつけて発射した矢は見張りの頭に突き刺さり、前のめりに倒れた。

 ナイフだけが暗殺術じゃないってね。武器は一通り扱えるんだ。


「三人目。これで目は潰した。中に入るか」


 砦の中に突入して、耳を研ぎ澄ませてみる。

 ペタペタと歩く足音が一つ。

 特に警戒している様子は無い。まだ仲間の死体には誰も気付いていないみたいだ。


 ならば、その油断を使って情報もついでに頂こう。

 喉の調子をちょっと変えて、ネズミ男の真似をしてと。


「ボスは今どこにいる? 良い女を捕まえてきたんだ」

「いつも通り上の司令室でお楽しみ中。あれ? 誰もいない? ァッ!?」


「よし、これで四人」


 ネズミ男の声を真似してみたら、あっさりボスの居場所を吐いた。

 男が振り返った瞬間に、俺がナイフで男の影を断ちきった。

 すると、男はその場に崩れ落ちて、ぴくりとも動かなかった。


 さすがに廊下に倒れているとまずいので、死体を近くの部屋に放り込んで、俺は階段を上がった。

 そのついでに残っていた手下を全員切り捨てておいて、俺は司令室とやらに辿り着く。


 司令室というだけあって、他の部屋より扉が大きい。

 その扉の奥から女性の悲鳴と、下卑た笑い声が聞こえてきた。


「あぁっ!」

「いいねぇ。その泣き声。泣けよもっと泣け! 俺のアソコがおっ勃ってきたぞ!」


 扉を開けて中を見ると、がたいの良い半裸の男ドランが小綺麗な服を着た少女にムチを振るってビシッと乾いた音が響いた。

 お楽しみと聞かされて、ドランが女を犯しているかと思いきや、暴力を振るって傷つける方のお楽しみだったらしい。


 部屋の隅には既に痛めつけられて、あざだらけになった少女達が転がっている。

 気絶するまで殴っていたようで、転がっている少女達はピクリとも動いていない。


 まったくもって趣味が悪いな。


「豚のようになけ! そうしたらあいつらみたいにはしねぇぞ!」

「ぶ、ぶううう!」


「ハハハ! 豚の悲鳴の真似がうまいな! 雌豚ぁ! そうだそのまま豚のように泣き叫べ!」

「お願いです……もう止めて下さい……神様助けてください」


「黙れ雌豚! 家畜に神はいねぇよ! せっかく勃った俺の息子が萎えちまったじゃねぇか! 豚は死ね!」


 ドランがあざ笑いながらムチを振りかぶった。

 だが、そのムチからは音が鳴ることはなかった。

 代わりにキィンと壁にナイフが突き刺さる音が響く。


「誰だ!?」


 あーぁ、気付かれたか。

 でも、仕方無いかな。ナイフを投げないと間に合わなかっただろうし。


 まぁ、ばれてもいいか。どうせこいつは死んで良い奴だ。俺の事はすぐに分からなくなる。


「何だお前は? 誰の許可があってここまで来やがった?」

「あー、許可が必要なら、許可を取れって城門にでも掲げてくれ。ここまで来たのに全然知らなかった」


「ふざけやがってえええ! 野郎ども出てこい!」


 砦中に響き渡りそうなドランの大音声が轟く。

 でも、その声に応じる人は一人もいなかった。


「おい野郎ども!?」

「お前の部下なら死んでるよ」

「てめえっ!?」


 ようやく自分の身に迫った危険を察知したのか、ドランが剣に手をかけた。


「さっき家畜に神はいないって言ってたけどさ」


 ドランが剣を抜くよりも速く、俺はドランの言葉を口にしながら一気に距離を詰めた。そして、ドランの影を踏みつけると、ドランが動きをピタリと止めた。


 影踏み。影をふみつけて影を固めることによって、身体の動きを固める近接用の影縫いだ。影使いである俺が踏むことで、ナイフで止めるよりも遙かに重い力で押さえ付けることが出来る。


「神様は確かにいるよ。俺は会ってきた。だからきっと神様もお前を今見てる。死神だけどね」

「一体何を言ってんだ!? いや、俺様に何をした!?」


「何もしてないさ。ただ、影を踏んでるだけ」

「バカな!? A級魔法による肉体強化だぞ!? お前みたいなヒョロイのに押さえられる訳が無い! お前より強そうな冒険者をひねり潰した俺様がああああ!」


 一応強いのは確かだったらしい。

 A級の肉体強化魔法が使えれば、B級冒険者は確かに敵わないだろう。

 100レベル上がる毎に階級が上がるから、B級冒険者とドランのレベル差は100くらい離れている。

 こんなやつにB級冒険者送りつけるとか、ギルドも適当な仕事してるなぁ。おかげで俺の所に来る頃には報酬額上がるんだけどさ。


「言いたいことはそれだけ? 今からお前は殺される訳だけど」

「なっ!? そうか! てめえギルドの雇った暗殺者!?」


「正解。記念に一撃で仕留めないであげるよ。お前の好きないたぶりをたっぷり味合わせてやる。影刃カゲハ


 ナイフを取り出して影に向かって投げると、ドランの腕から血が飛び散った。

 両手にも大きな傷が入り、ドランの手が血まみれとなって力無くうなだれる。

それに続いて、太もも、両足と下半身に切り傷が現れて、ドランは力無く崩れ落ちた。


 影断ちの前に覚えたスキルで、影に攻撃すると本体にもダメージが与えられるスキルだ。このスキルも影を斬っているので相手の防御力や装備関係無くダメージを与えられる便利技だ。


「て……てめぇ何をした……。俺の鋼の肉体を切れる訳がねぇ……。まさか! てめぇが犯罪者殺クリミナルキラー!? 聞いた事があるぞ。近づいただけで殺されるとか、どんな防具も意味をなさないとか、目をつけられたらすぐ逃げろってのはお前のことだったんだな……」


 おかしいな。目立たないように偽名を使っていたのに、仕事のやり過ぎで手口が有名になったか。まぁ、いいや。こいつが俺のことを知っていようが、どうせすぐに消える記憶だ。


「安心して欲しい。痛みは終わりだ。ナイフも残り一本しかないし、次でトドメを刺す」

「ま、待ってくれ!」


 ドランの目から見れば俺は床にナイフを投げていただけに過ぎない。

 何にも触れていないのに身体中が切り刻まれる恐怖に、ドランはついに恐怖の色を表情に浮かび上がらせた。


「頼む! 待ってくれ! 金はやる! 女も返す! だから見逃してくれ!」

「へぇ」


 ドランの賞金は一千万ガルドだ。それ以上を出せるのなら、生きたまま衛兵に突き出しても良い。


「いくら出す?」

「三千万ガルド! ここの城に貯め込んだ分をお前にやる!」


「そうか。なら、豚の真似をしてみろよ」

「えっ!?」


「真似が出来ないか。なら、仕方無いな。このナイフを突き刺すしかない」

「わ、分かった! ぶひっ! ぶひぶひ!」


「へぇ、豚の真似をしろって強要するだけあって、上手だね。本物の豚にしか見えなかったよ」

「へへ……これでいいかい?」


「家畜に神はいない。豚は死ねだったっけ? おや? こんなところに豚がいるじゃないか。なら、死んで貰わないと」

「なっ!? 話が違――」


 ドランの影にナイフを刺すと、ドランは胸を押さえて吐血した。


「ぐ……あ……」

「金に目が眩んで生かしてやる。なんて言うと思ったか? お前がいなくても財産くらい探せば出てくるさ」


 ドランの死亡を確認した俺は次の仕事にとりかかるために短く息を吐いた。

 一味の頭領を始末し、手下も全滅させた。でも、ここからが一番大変なんだよなぁ。


 部屋には傷ついた少女達が倒れているから介抱しないといけない。

 ドランの相手だけで五人もいたし、他の部屋に囚われていた子達を合わせると三十人くらいの女性がいたはずだ。


 帰る場所がある人達は連れて帰る必要があるけれど、一人でも置いていったら大変なことになる。


 こういう人さらい系の案件はアフターサービスが大変だ。


 まずは意識のある子にこの部屋はこれで全員か確認しないと。


「あの……助けてくれてありがとう……」


 腕や足に赤いアザをつけられた銀髪の少女が弱々しくお礼を言ってきた。

 歳は十五歳くらいか。

 きれいな銀の髪の毛がごわごわだし、劣悪な環境で過ごしてきたのが良く分かる。

 この子だけでも痛みで気を失う前に助けられて良かったかもしれない。


「痛む?」

「私は大丈夫……でも……他のみんなが……」


「君は優しいね。ちょっと待ってて」


 少女の頭に手をのせて、自分の影を少女に重ねる。


転傷影てんしょうえい


 スキルの名前を口にした途端、少女の身体についていたアザが影に吸い取られるように移動して消えた。


「あれ? 痛みが消えた? あなた何したの!?」

「大したことはしてないよ。もう半分の君が痛みを引き受けているだけ。だから、あんまり無理しないで」


「すごい魔法……。神様が天使様を呼んでくれたみたい」

「そんな凄い人間じゃ無いよ。たまたま、変わった力が使えるだけさ」


 痛みや傷を影に移して、実体の傷を治すスキルを使った。

 治療の代償としてはちょっとだけ影が薄くなる程度で、一日寝てれば治る。


 こうやって影の力は人を殺すことも出来るし、人を癒やすことも出来た。

 教えてくれる人がいないから試行錯誤していたら出来るようになっていたんだ。

 力は結局のところ使い方次第ということも学べた点では、学校に行って変な先入観が植え付けられなくて良かったかも知れない。


「今から他の人も治すから、目を覚まして怯えている子のケアをお願いしてもいいかな? 後はこの子達以外にも捕まった子がいれば教えて欲しいな」

「はい、分かりました」


 倒れていた少女達の傷を治すと、予想通り最初はみんな俺がドランの配下だと勘違いして逃げようとした。


 でも、俺が助けに来たと言って、銀髪の少女が帰ろうと言った途端に、みんな泣き崩れた。


 そして泣き止むまで待つこと数分間、ようやく静かになった女達を連れて、俺は近くの村に帰った。


 合計三十五人。さらわれた人は無事にみんな生かして村に返せた。


「本当にありがとうございました。このご恩一生忘れません」

「タカシ様、村にまた来ることがあったら何でも言って下さい。みんなで歓迎いたします」


 助けた少女達だけでなく村長を始めとする村人全員が俺に深々と頭を下げて、感謝の言葉を連ねる。


「そんな大げさだよ。俺は俺の仕事をしただけだから。みなさん酷い目にあっても耐え抜いたことの方が、よっぽどすごいですよ」


「ご謙遜を。あなたは身寄りをなくした孤児まで引き受けてくれると言って下さった。受け入れてやれないワシらが情けない」


「村長さん、俺は慣れているから気にしないでください」


 村長の言った通り、俺は両親を殺されて、頼る親戚もいない身寄りを無くしてしまった子供を預かった。ドレンのムチから助けた銀髪の少女だ。歳を聞いたら十五歳だそうで、いきなり一人で放り出されても仕事なんて限られている。


 だから、ちゃんと独り立ち出来るまで預かることにした。


「それじゃ、盗賊団の生き残りを連れて帰ります。また何かあったらギルドにご連絡を」


 そう言い残して俺は気絶させた盗賊団員二人を紐で引きずりつつ、村を出た。


「タカシ様、ロマンドまでどれくらいかかるの?」

「すぐつくよ。と、その前に。ブランには本当の名前を教えておかないとな」


「え? タカシ様って偽名なの?」

「そそ。本当はマグナって名前。あぁ、後、様付けも止めて欲しいな。別に貴族でもなんでもない、ただの冒険者だし」


 俺はギルドカードを取り出して、俺がただの冒険者で職業は剣士だと説明した。


「あんまり有名になると顔を見られただけで警戒されちゃうからさ。出来れば目立ちたくないんだよ」

「フード被ってたのもそのせい?」


「そういうこと。それじゃ、今からちょっと転移するからちょっと目を瞑っててね」


 村からある程度離れたので、そろそろ影の魔法を使っても大丈夫だろう。

 そう判断して俺はブランの目を手で覆うと、影の扉に彼女を落とした。

 ただ単に助けられただけでなく、本当の名前や身分を隠す理由を共有してもらったおかげで、ブランは俺の手に怯えること無く素直に受け入れてくれた。当面の信頼は何とか勝ち取れたようだ。

 そんなブランの後を追うように俺も影の扉に飛び込み転移した。

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