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早速の面倒事

 村の外れにある木の陰に作った転移門を抜けると、あまりのタイミングの良さに俺は頭を押さえた。

 いきなりか。ドランとかいうのはよっぽどこの一帯で暴れ回ってるんだなぁ。


「オルァ! 金目のモンを寄こせや!」

「寄こせや!」


 汚い怒鳴り声で黒髪の少女に当たり散らす男二人組がいる。


「ドランファミリーをなめんじゃねぇぞ!」

「ねぇぞ!」


 革の鎧を着た豚のような肉ダルマとヒョロヒョロなネズミみたいな腰巾着の二人組だ。見た目といい、喋り方といい、すごい三下感が溢れている。


 アティさんに見せて貰った人相書きとは違うし、ドランの部下みたいだな。


 あれが一人十万ガルドか。あんなんでも魔物であるオークやゴブリンの千倍くらいの値段がつくあたり、魔物が少し可愛そうに思えてくる。

 ゴブリンの魔石とか一匹百ガルドだぞ。


「止めて下さい! お金はこの前渡したじゃないですか!?」


「あぁん!? この前はこの前、今日は今日だ! 死にたくなければ金を払え! それとも今ここで身体で払うか!?」

「払うか!?」


 出来れば標的であるドランの居場所をを突き止めるまで目立ちたくないんだけど、ここで放置しても目覚めが悪いよな。仕方無いやるか。

 足音を消して、フードで顔を隠してと。


「ぐへへ。姉ちゃん良いおっぱいしてんじゃねぇか。気持ち良いことして、金も払わなくてすむんだぜぇ」

「お願いです! 止めて下さい!」


 げすいなぁ。ドランとかいうヤツに群れなければ一人で何も出来ない屑のくせに。

 どうしてこうもでかい態度が取れるんだろう?

 肉ダルマが少女の肩に触れようと手を伸ばしている。


 その手を切り落としても良いんだけど、汚れるからもっと別の方法を使おう。


「ん? 何だよネズ!? 良い所なんだよ!」


 俺は肉ダルマの左側から右肩をつつくと、肉ダルマは俺のいない右側を向いた。


「あれ? 誰もいねぇ――ガッ!?」


 露出した首筋に向かってナイフの鞘を瞬時に叩き込み、肉ダルマを失神させる。

 これで一人、もう一人もパパッと無力化しよう。


「あ、兄貴!? なっ!? カハッ!? ぐ、苦じい……」


 腰巾着のネズミ男が泡を吹いて倒れた肉ダルマの方に顔を向けると、俺はネズミ男の後ろに回り込んで、左手で目を覆って視界を奪いつつ右腕で首を絞めた。


 影を使わなくても、このぐらいなら簡単に出来るよう仕込まれた。

 肉ダルマは打撃の衝撃で脳震盪を起こして、ネズミ男は動脈を止めて脳みそに酸欠を引き起こさせて気絶させる。


 気絶じゃなくて殺しても良かったんだけど、アジトの情報を手に入れるためには生きていないと聞けないからね。残念ながらね。


「ふぅ、これで二十万ガルド」


 ものの数秒で盗賊を気絶させた俺は、怯える少女の無事を確認するために近づいた。


「君、怪我はない?」

「は、はい。おかげで助かりました。すごいですね。こんな怖い人達を一瞬で倒しちゃうなんて」


「大したことはしてないよ。俺より他の村人に迷惑がかからないよう助けを我慢した君の方が強い」

「あの……あなたは一体」


「ただの冒険者だよ」


 暗殺者の名前が売れても仕方無いしなぁ。

 それに今からこの下っ端達にすることは見せられない。

 女の子に見せて良い光景じゃないし、罪の無い子にトラウマを植え付けるつもりはないからね。


「せめて名前だけでも」

「えーっと……、あぁ、タカシって名前なんだ」

「タカシ様ですか。素敵な名前ですね」


 さすがに今の名前であるマグナを広める訳にはいかないから、前世の名前を使ってみた。嘘はついていないし、間違いでもない。でも、その名前じゃ、俺は捕まえられない。

 ギリギリの上手い所ってやつだね。


「ど、どうかお礼をさせてください」

「別に良いよ。たまたま通りかかっただけだから。それに大したことはしてない。大事なのはこの二人を気絶させても、またこいつらの仲間が襲ってくるだろうからそっちの対処をすること。だから、俺にお礼をしたいのなら、かわりに他の村人に家の中に隠れるよう伝えて欲しいな」


「タカシ様はどうなさるのですか?」

「俺はとりあえずこの盗賊二人を隠しておくよ。盗賊が目を覚ましたら危ないから、あの倉庫に誰も近づけさせないようにみんなに伝えて欲しいな」


「分かりました。みんなに伝えてきます。タカシ様、本当にありがとうございます!」


 小走りで立ち去る少女の背中を見送って、俺は倉庫に盗賊二人を持ち込んだ。

 目が覚めても逃げ出せないように、うつぶせにした状態で麻縄を使って身体を縛り付けておく。


 さぁて、ここからはR15指定だ。お互い無法者同士、遠慮はいらない。

 他人から何かを奪うヤツは他人から奪われる覚悟を持つべきだ。


 盗賊の動きを封じた俺は二人の頭を蹴って、無理矢理目を覚まさせた。


「うっ……一体なにがあった? ネズ、お前なにしてんだ?」

「あれ、兄貴……? 身体が動かねえっす兄貴!?」


 良かった。二人とも元気に驚ける程度には生きている。ある程度厳しい尋問でも死にはしないな。

 そんな二人を見下ろしながら、俺は早速本題に切り込んだ。


「聞きたいことがある。ドランはどこだ?」

「なんだてめぇは!? ガッ!?」


「質問しているのは俺だ。もう一度聞く。ドランはどこだ?」


 肉ダルマが反抗的だったので、大人しくするために顎をブーツで蹴飛ばした。

 手加減したつもりが、肉ダルマは口を切ったようで結構な血が出た。あ、歯も抜けてる。汚いなぁ。


「てめえ! ふざけんなよ! 俺達をこんな目に遭わせてドランさんがタダで済ますと思うなよ!?」

「まだ立場が分かんないのか。その頭と耳は飾りか? 俺はドランがどこにいるかを聞いたんだ」


「顔を隠してんじゃねぇよ! グアアアアア!?」

「これで立場が分からないのなら魔物以下だな。そんな頭なら首と繋がっている必要はないよな?」


 反抗的な目でこちらを見上げてくるので、今度は頭を足でぐりぐりと踏みつけ、肉ダルマの額を床にこすりつけさせた。

 床は石で出来ているし、痛いだろうなぁ。擦り傷が沢山出来そうだ。


「あ、兄貴ぃぃぃぃ!?」

「あぁ、そっちのネズミ男の方が話通じそうだなぁ。ドランの居場所を教えてくれないかな?」


「だ、誰がお前なんかに! 兄貴を解放しろ!」

「うん、解放しても良いよ。ただし、お前がドランの居場所を話してくれたらだ」


 交渉はアメとムチ。どうやらネズミ男は肉ダルマにすがっているみたいだし、肉ダルマが助かる希望をちらつかせて、口を割りに行こう。

 その狙い通り、早速効果があったのか、ネズミ男がプルプルと震えている。とりあえず、落ちたかな?


 と思ったら、意外と肉ダルマの方がしぶとかった。


「止めろネズ! ボスを裏切る訳にはいかねぇ!」

「でも兄貴!?」


「ろくでなしの俺達を拾って貰った恩を忘れたのか!? ガハッ!?」


 情を持ち出されると面倒だな。

 仕方無い。汚れるのは嫌だけどネズミ男をもっと揺さぶるか。

 肉ダルマの頭を足で押さえ付けたまま、勢いよく彼の腹を蹴って黙らせる。


「あー……うるさいなぁ。腕の一本くらいなくさないと立場も分からない?」


 マントの中から直刀を一本取りだして、肉ダルマの左肩を地面に縫い付けた。


「ウガアアアアア!?」

「兄貴ぃぃぃ!?」

「分かってくれないなら、分かってくれるまでとことんつきあうよ。魔物ってさ、痛めつけていくと段々立場を理解して俺にへりくだるんだよ。五秒過ぎるごとに刺す場所を増やせば、頑固者のお前でも今の状況を分かってくれるよね。次は右腕、その次は左足、右足、腹で最後は首でどうかな。いーち、にー、さーん、しー」


 肉ダルマの肩から血が滴り落ちる。

 カウントとともに血だまりが広がるにつれて、ネズミ男の顔色が悪くなっていた。


「止めてくれ! お願いだ! 兄貴を刺さないでくれええ!」


 うんうん、良い感じに焦りだしたぞ。さて、ここでもう一押し。

 甘い甘いアメを用意しよう。


「あ、そうだ一つ条件を言い忘れていた。ネズだっけ? 君への言葉に嘘は無い。ドランの居場所を教えてくれたら刺すのを止めるよ。命だけじゃなくて身体も全部繋がったまま返す」


 俺の甘い言葉で、ネズは震える目で何度も俺と肉ダルマを交互に見た。

 これでトドメをさそうか。


「ごー。残念だ。二人とも俺の言葉を分かってくれないのなら、右腕を奪うしかないか」

「待ってくれ! 話す! ドラン兄貴はこの村の西側にある廃城にいる!」


「へぇ、本当に?」

「本当だ! だから兄貴を痛めつけないでくれ……」


 悔しそうに俯くネズミ男を見て、その懇願だけは本物なのだと見抜いた。

 後は村の人達からドラン達が本当に西側から来ているか、西側に帰っていくかを聞けば真偽はハッキリするだろう。

 もし違っていたら、またこいつらから聞き出せば良い。


「村人に確認してくる。お前の言葉が偽りだったら、今度は容赦なくこの男の首を落とす」

「ヒッ!?」


 短い悲鳴をあげたネズミ男の首を掴んで持ち上げると、ナイフの柄で顎を撃ち抜き一撃で気絶させた。

 次起きる時は牢屋の中か、首だけになった肉ダルマとご対面だろう。


「ネズゥゥゥ!? お、お前は一体何モンだ!?」

「ただの冒険者だよ。お前に教える名前は無い」


 結局最後まで心が折れなかった肉ダルマの後頭部にもナイフの柄をお見舞いして気絶させる。これで村もとりあえず安全だ。


「さてと、西側の砦か」


 ナイフについた血をぬぐい取って、俺は倉庫に影の扉を残して盗賊達を密封すると外に出た。


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