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仕事ゲット

 この世界で魔物狩りをして生きたいのなら、冒険者ギルドの世話になる。


 魔石の換金だけじゃなく、魔物の出没情報や、各種依頼、賞金首リストなど、稼ぐために必要な情報が集まっている。


 入り口の掲示板に目を一通り通して、美味しい依頼を探すのが俺の日課だ。


 狙い目は低級魔物ではなくて危険な上級魔物だ。


 ゴブリンやオークといった低級魔物の討伐報酬はそこまで美味しくないし、魔石の換金率も悪い。

 逆にベテラン冒険者でも重傷を負ったり、死亡したりしやすいドラゴンやミノタウロスといった上級魔物は報酬が高い上に、取れる魔石の換金率がとても高い。

 しかも、冒険者があまり挑戦しないから、賞金首の横取りもほとんどなくて精神的にも穏やかでいられるオススメ案件だ。


「あれ? マグナ君だ。やっほー」


 新しい依頼が無いことにガッカリしていると、女の人に声をかけられた。

 眼鏡をかけた優しげな受付のお姉さんだ。隠れファンが多くて受付に彼女がいると、いつも以上に人が並ぶし、なかなかどこうとしない。


 アイドルの握手会場みたいな光景を作り出す力は、ある種の異能なんじゃないかと見る度に思う。


「アティさん。もっと美味しい依頼はある?」

「どっかの誰かさんが依頼票を貼った途端に終わらせてくるからね。普通に美味しい話はないわ。今朝貼ったミノタウロス討伐依頼もあっさり片付けてきたんでしょ?」

「うん、はい、これミノタウロスの魔石」

「わぁ、相変わらず仕事早いなぁ。さすがマグナ君だ。感心感心」


 アティはミノタウロスの魔石を受け取ると、感心したように何度も頷いた。


「うん、バッチリ。ミノタウロスの魔石、確かに確認しました。さすがマグナ君だね」

「大したこと無いよ。あんま強くなかったし」


「またまたー、謙遜しちゃってかわいいなー。お姉さん色々な冒険者見てるけど、一人でミノタウロスを倒しちゃうのはマグナ君くらいよ。A級冒険者だってパーティ組むんだけどなー」


 盾役の騎士、斬り込み役の剣士、前衛の傷を癒やす法術士、火力役の魔法使い、牽制と急所潰しの弓兵、バランスの良いパーティを組むのが対上級魔物の定石だ。


 でも、そんな定石を無視して俺はほとんどソロで狩りをしている。


「一人の方が効率良く稼げるからね。お金はたくさん必要だから」


 お金も山分けしなくて良いし、魔石から得られる経験値も独り占めできる。

 それに俺だけが持つ影属性スキルについて、変な嫉妬や詮索もされずに済む。


「それじゃいつも通り換金だけで良い?」

「うん。よろしく」


「余計なお世話かもしれないけどさー。貯まりに貯まったギルドポイントもそろそろつけても良いと思うなぁ。実績だけで言えば、もう十分最上位のA級冒険者なんだよ? このF級冒険者って書いてあるギルドカード見る度に、すっごく違和感あるのよ」

「目立つのは苦手だし、パーティ組むのは面倒なんだよ。低ランクで自由気ままに動きたい時に動ける方が良い。上位ランクになるとお誘いが多いみたいだし。今朝も二つのパーティが壁役の騎士の取り合いをしていたけど、あれにはなりたくないから」


「ふー、まぁ、仕方無いかなぁ。私としてもマグナ君を他所に取られたくないし。あー、でも、もったいないなぁ。マグナ君がポイントつけてくれれば私の実績と給料があがるのにー」

「さりげなく本音が出たね……」


 アティがもったいないと言っているのは、冒険者が依頼を達成する度に貰えるギルドポイントのことだ。ポイントが一定値を超えると階級がFから順番にAまで上がる。


 いわゆる経験値とレベルみたいな関係かな。FからAでそれぞれ1から100までのレベルがあって、100になると次の階級にランクアップ出来る。


 階級が上がれば上がるほど、ギルド以外からも美味しい依頼が舞い込んで来るし、ギルドでも優先的に高額報酬の裏依頼が通知される。

 A級まで上り詰めれば、知らない人の方が少ない有名人みたいな存在になれる。冒険者ギルドに姿を見せた途端に引っ張りだこになるくらいだ。


 ついでに何かカッコイイ二つ名も貰える。

 風の剣聖とか、紅蓮の賢者とか、そんな感じのやつ。


「みんなもったいないね。マグナ君も、学校の人達も」

「まぁ、俺の属性を教えられる人いないしさ。学校では評価されない項目、ってやつだよ」


「お仕事の都合上私はマグナ君の素性を知っちゃったけど、影属性なんて本当に珍しいよねぇ。マグナ君以外見たことないよ。でも、そんな理由で入学を拒否されるなんて――」

「アティさん、俺のお喋りはそこまで」


 アティの唇に人差し指で触れて、彼女の言葉を切った。聞いている人はいないだろうけど、聞かれたら面倒なことになる。

 色々な意味で俺は正規の道から外れて生きているからだ。

 魔法学校も行かず、騎士訓練も受けず、冒険者として生きるために人殺しの術を学んできた。


「そのおかげで暗殺技術を手に入れたから、今となっては良かったと思うよ」

「一流の受付お姉さんとしてお客さんの気配には敏感だったのに、私に一切気付かれずに唇を止めるなんて。相変わらずすごい技術だね」


 自分で一流の受付お姉さんって言ってどうする。なんて突っ込みはアティのどや顔を見る限り無粋っぽいから止めておこう。

 かわりに仕事を進めるために話を変える。


「気配を消すのは基本だからね。弱い振りをしておくのも暗殺者の基本。標的に狙われていたことすら気付かせない、暗殺者としての基本中の基本だよ」


 警戒している相手よりも、警戒を解いている相手の方が遙かに御しやすい。

 そういう意味で言えば、アティには己をさらけ出した方が警戒を解ける。


 冒険者として登録した時に知られている情報なら、隠すよりも秘密を共有した方が共犯心理も働いて、こちらが有利に話を進められる。


「マグナ君は可愛い顔して、さらりととんでもないこと言うよね」

「アティさんのことは一流の受付お姉さんとして信じているからね。隠し事無しで話せる貴重な相手だよ」


「あら? おだてても出せるのはお仕事くらいよ?」

「どっちの?」


「赤の方。場所を変えよっか」

「へぇ?」


 警戒を解いているからこその依頼が早速やってきた。

 赤の方。ギルドに所属する冒険者にとっては特別な意味がある隠語だ。

 赤いお仕事は賞金を賭けられた犯罪者の暗殺依頼を意味する。


 基本的にはB級以上の冒険者に極秘依頼がなされるが、低級冒険者でも依頼を受けられる例外的な職業が存在する。


 その職業が暗殺者だ。


 今では腕を見込まれて魔物退治で役立てている暗殺者が多いけど、最も技が輝く時はやはり対人戦だ。


 戦って勝つことではなく、戦いになる前に殺す。


 毒や罠、時には精神的な揺さぶりで自分に有利な状況を作り出し、相手に何もさせずに息の根を止める。不意打ちだまし討ちは当たり前、卑怯と言われようが、ありとあらゆる手段を用いて相手を殺す。それが暗殺者の戦い方だ。


 そういう戦い方は魔物よりも人間で効果的だから、俺みたいにF級で偽っている身にも極秘依頼がやってくる。


 逆にそのせいで、暗殺者自体がパーティにあまり歓迎されないけどね。いつ標的が自分に向けられるか分からない相手と組むのは確かに怖いからさ。


 隠し部屋をアティが開き、通された部屋で俺は暗殺任務用の情報を貰った。


「標的は?」

「これよ」


 アティが渡してきたカードには、賞金首の罪状と生死の条件が書かれている。

 盗賊ドラン、冒険者襲撃事件が五件、掠奪が八件。生死は問わない。能力はB+。

 賞金一千万ガルド。一年は遊んで暮らせそうな金額だ。よっぽどこの山賊は大暴れしたんだろう。


「B級冒険者が既に五人も返り討ちにあってる。B+って書いてあるけど恐らくA級の実力者。強い相手だよ。やれそう?」

「取り巻きの数と報酬は?」


「マグナ君はすごいねぇ。この説明を受けてもやる気満々じゃん。普通B級相手ってちょっとは躊躇があると思うんだけどなぁ。ま、それがマグナ君の良い所か。取り巻きは十人。一人当たり十万ガルドを支払うわ」

「合計一千百万ガルドか」


 悪くない臨時収入だ。

 手配カードを貰った俺はジャケットのポケットにしまうと、スキルウィンドウを呼び出した。

 ついでに感知スキルで周りにアティ以外いないことを確認して――。


「マグナ君、気を付けてね」

「行ってきます。影渡り」


 標的のいる砦の近くにあるカンタ村へと転移した。


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