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影のスキル

「君はこの世界じゃ全然冴えないね」


 学校の帰り道で、女の人に声をかけられた。


「生まれる世界を間違えたせいだろうね。前を向かずに俯いてばかりじゃないか。そんな君にピッタリな世界と職業があるけど、君の生まれるべき世界へ行ってみる気はないかい?」


 何を言っているんだと思って俯いていた顔をあげると、トラックが真っ直ぐ俺の方に突っ込んで来るところだった。

 あ。

 声を出す間も無く俺の身体は吹き飛ばされた。

 生まれる世界を間違えた。結局何のことだったんだろうなぁ。



「綺麗に死んだねー。これで後腐れ無いって訳だ」


 目を開けるとプラネタリウムのような空間で、手をパンパンと叩いて大はしゃぎする女性がいた。


「お前はさっきの……」

「そうそう。君の知るところの神様だよ。いやー、実はさ大変なことに気がついちゃったのさ。君を産み落とす世界を間違えた。だから、一度こうして死んで貰った訳さ」


「は?」

「考えたことは無かったかい? 自分はもっと出来るはずの人間だって。特別な力があって、こんな退屈で苦しい世界じゃなくて、もっと自由な世界に生まれるべきだったって」


 中二の頃に考えたことはある。俺は特別な人間だって。

でも、それはいわゆる厨二病で男の子なら誰もがかかる麻疹みたいなもんだろ? それが本当だったなんてありえるのか?


「それがあり得るんだよね。君は君の思っている以上に特別な力をその魂に宿している」


 こいつ俺の心の声が聞こえている?


「うん聞こえているよ。さてと、十八年間違う世界でご苦労様でした。これからは自分の世界で生きておいで」


 自称神様はそう言うと子供のように手を振った。



 身体が重い。

 視界もボンヤリしている。

 あぁ、そっか車にはねられたんだから、そりゃ動けないし、頭もボーッとしていて当然だよな。

 さっきの自称神様は夢か何かだったのかな。


「おめでとう。可愛い男の子よ」


 ん? 俺のことか?


「よく頑張ったな。アイシャ。名前は前から決めていたマグナにしよう」


 若い女性が俺のすぐ側にいる。その女性の手を握る男性と、白い服を着た老婆が俺を見下ろしていた。

 ちょっと待て。俺赤ん坊になってる?

 自分の世界で生きておいでと神様に言われたけど、本当に生まれ変わったみたいだ。


 そうなると、引っかかる言葉がある。


 俺の生まれるべきだったもっと自由な世界があると、神様は言った。

 地球には無かった自由って一体なんだろう?


「見て、目元なんて君そっくりだ。きっと優秀な魔法使いになる」

「口元はあなたそっくりね。きっと強い子になる」


 さりげなく魔法って言ったか?


「ハハ。なら将来は魔法剣士かな。勇者になったりして」


 間違い無い。俺は剣と魔法の世界に生まれ変わった。

 神様の言った通り、生まれるべき世界に生まれたんだ。

 一体俺にはどんな力が秘められているのか。

 あぁ、早く知りたい。



 転生してから十六年、確かに俺の生まれる世界はこの世界だったと今では思う。


 特別だと言っていた神様の言葉は本当で、特別過ぎて俺自身ですら最初は能力に気がつかなかった。能力に気付くまでは無能力者だと思ったくらいだ。

 そんなあまりにも特殊過ぎた能力のせいで、十六歳になった俺は優秀な魔法使いにもなれなかったし、立派な魔法剣士にも勇者にもなれなかった。

 そもそも魔法科学校なんて入試を受けることすら出来なかった。

 俺はこの世界の基本的な六つの属性魔法が全く使えなかったからだ。


 その結果、俺は同じ歳に生まれた一流の連中が学校で魔法を学んでいる中、いち早く魔物を狩る冒険者となった。

 今日は森に現れる巨大なミノタウロスが討伐対象だ。


「ブォオオオオ!」


 三メートルぐらいはありそうな二足歩行をする巨牛。

 手にはとんでもない大きさのハンマーを持っている。

 当たったら簡単に肉体がミンチになりそうだ。

 だから、当たる当たらない以前に、敵が攻撃出来ないようにスキルで動きを止める。


「影縫い」


 俺がスキルの名前を口にしながらナイフをミノタウロスの影に向けて投げると、ミノタウロスの動きが止まった。


「ブォオオオオ!」


 うなり声をあげてもがいても、巨体は一向に動かない。

 俺は新しいナイフを一本握り締めてミノタウロスの影に入ると影に向かってナイフを振り抜いた。


「影断ち」

「ブォッ!?」


 俺のナイフはミノタウロスの皮膚にかすってもいない。それでも、断末魔とともにミノタウロスが地面に落ちる。


「ふぅ、いっちょあがり」


 普通なら何十回と剣で切りつけ、強力な魔法を打ち込んで倒せるはずのミノタウロスを、ナイフの一振りで倒せる訳がない。


 でも、俺には出来る。どんなに強い敵だろうと、巨大な敵だろうと、ナイフの一振りで殺せる。


 このチートみたいな攻撃の仕組みは影だ。

 剣と魔法の世界に生まれた新しい属性「影」。


 火、水、風、地、光、闇の六属性とは違った新たな力で、影を操ることで実体を操る力とでも言おうか。

 スキル影縫いのようにナイフで影を縫い付ければ本体は動けないし、スキル影断ちで影と実体を繋ぐ線を断ち切れば、影と実体が切り離されて本体が死ぬ。


 実体があれば影がある。逆に言えば、影があれば実体がある。実体と影は表裏一体の関係で、俺のスキルによって影を失えば、実体も存在を失って死ぬという訳だ。


 人も魔物も物質にすらある実体と影に干渉出来るこの力は、ありとあらゆる物質の死を簡単に引き起こすことが出来る。

 この影を操る力を持った結果、俺は剣士でも魔法使いでも無く、暗殺者として冒険者をやっていた。


「さてと、魔石を回収して帰るか」


 ミノタウロスの身体が砕けて、中から茶色い宝石が現れた。

 この世界では魔物から取れる魔石を売って、十分に生きていけるだけの金が手に入る。

 魔物が強ければ強いほど魔石は高く売れるし、討伐依頼が出ていれば賞金も貰える。


 今倒したミノタウロスも三ヶ月くらいは遊んでくらせる賞金がかけられていた。

 報奨金三百万ガルド、ありがたいことにお金の価値は日本円と大して変わらない。おかげで計算しやすかった。


「確かにサラリーマンよりもよっぽど向いてるなぁ。こんな石一つで金が手に入るんだから」


 拳大の魔石を持ち上げて、ぽいっと袋の中に入れる。

 そして、仕事帰りは歩かずにスキルを使ってパパッと帰る。


「影渡り」


 そのスキルを使った瞬間、俺は森を抜けて自宅の部屋に戻っていた。

 足下にある扉の影は他よりも一段暗い。

 これも第七属性である影を応用したスキルの影響だ。


「本当に便利なスキルばっかりだ」


 影と実体を操る技は他人だけじゃなくて、自分と物質にも使える。

 自宅の扉の影と、自分の影を結びつけて一気に移動してきた。

 一種の瞬間移動みたいな技で、事前に影の扉を打ち込んでおけばいつでも移動出来る。

 どこでも○○みたいな物だ。

 さすがに街中で使うと目立つから使わないけどね。

 目立ちたくないし。

 というか、職業暗殺者って時点で、目立つとめんどうくさいことになること間違い無し。


「さて、換金してくるか」


 扉を開ければ、エルフに獣人、ホビットと人間以外にも沢山の種族が集まる大都市ロマンドの景色が広がっていた。

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