早朝ランニングのふたり
早朝ランニングのふたり ―――更におまけの12日―――
「玲、起きてよ」
『ん~・・・そうちゃ~ん・・・』
「俺、もうすぐ家でれるよ」
『待って~・・・そうちゃ~ん・・・』
だめだ。これじゃあ全然起きない。俺は一向に起きそうにない寝ぼけた玲との電話を切ってパーカーを羽織ってランニングシューズを履いて、神崎家の鍵穴にそっと鍵を差し込んだ。
「おはようございます」
多分、全員寝ているだろうから、小さく声をかけて家に入る。鍵は子供の頃から持たされている。こんな時のために。
「玲、はいるよ?」
返事なし。二度寝したな?
「玲、走るって言ったろ?」
部屋の壁側のベッドの丸まった羽根布団をゆする。
「起きろ!行くぞ!」
「う~ん・・・宗ちゃん・・・宗ちゃん・・・」
起きているのか起きていないのかわからないけど、俺の名前を呼んでいる。そして、更にきゅっと羽根布団に包まってさらに小さくなる。
「玲、走るよ!」
これ以上時間使ってたら、人通りが多くなって走りづらくなる。
「・・・宗ちゃん・・・待って・・・」
「もう待てない」
玲から布団を引きはがそうと力を入れる。
「・・・宗ちゃん・・・行っちゃヤダ・・・」
「!」
寝ぼけた玲の一言に、全身の力が抜けた。無意識だとしても。
「・・・ねむい・・・宗ちゃん・・・」
その一言で、玲は再び深い夢の中に戻っていった。
「・・・今日走れないのは玲のせいだからな」
仕方なくベッドを背もたれに床に座り込み雑誌を手に取ると、背後で玲が動く気配がした。
「玲?」
「あっち向いてて・・・もうちょっとだから」
振り向きかけた頭を押される。
「起きたの?」
「今着替えてる」
・・・ねえ、本当に俺が男だって忘れてない?
「ほら!さ、いこういこう!」
玲は起きるとなったら覚醒するのがものすごく早い。気づけば俺とおそろいのパーカーを着て俺の腕を引っ張る。
「はいはい。途中で転ばないでよ。今の玲じゃあ、重くておぶれないんだから」
「転ばないしそんなに重くない!」
玲は怒りながらランニングシューズを履いて、俺たちは玄関前で軽く体をほぐす。
「さあ、はりきっていこー。でね、帰ったら大盛りでビビンバ食べるの!」
「・・・玲、俺たち、何のために走るわけ?」
「美味しくご飯食べるため♪」
この笑顔にはかなわないよ。
そして多分、大盛りのビビンバにも、いまの俺はかなわない。