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19歳と29歳のふたり

   29歳と19歳のふたり   ―――1月4日 男同士の後日譚―――



「おはようございます」



 年末年始にパワーを使い果たした玲は今朝、38度5分。仕方なく俺は新年初バイトに一人で来ることになった。

「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

 着替えてラウンジに向かう途中で藤堂さんに会う。

「あけましておめでとう。こちらこそよろしく・・・あれ?玲ちゃんは?」

 藤堂さんが俺の後ろを覗き込む。

「熱出してて足引っ張られそうなんで置いてきました」

 しれっといえば藤堂さんは苦笑い。

「珍しいね。玲ちゃんは元気印かと思ってたのに」

「意外とよく風邪ひくし、脆いんです」

「じゃあ、お大事にって伝えて」

「ありがとうございます」



 初バイトだからと言っても、そうたいした仕事はなくて、いつも通りにクローズの準備をして、ロッカーで着替えて帰ろうとすると、同じ時間にあがりだったらしい藤堂さんと出会う。

「三井くん、近くに旨い店があるんだ。おごるから、ラーメン食べて帰らない?」

 藤堂さんにこんな風に誘われたのは初めてで、俺はちょっと驚いた。

「あ、でも今日は玲ちゃんが心配だから、早く帰りたい?」

「いえ、とくにそんなことはないので、ご一緒します」



「ふたりは付き合ってどれくらい?」

 まさかラーメン屋に入って注文を終えた後の第一声がこれだと思わなかった俺は、飲みかけた水を盛大に吹き出しそうになった。

「あ、やっぱり付き合ってないんだ」

「付き合ってないですよ。大体にして、あんなわがままで気分屋で頑固な玲が彼女だったら、俺、大変ですよ」

 なぜかラーメンよりも先に運ばれてきた餃子を頬張りながら、藤堂さんがうんうん頷いている。

「でも、三井くんは玲ちゃんのことが好きです。と」

「は?」

 どこでばれた?

「実はなんでもうまくこなしそうな三井くんに恋愛相談。彼女が喜ぶプレゼントって何だと思う?」

「誕生日か何かですか?」

 俺も勧められて餃子を頬張る。うーん・・・まあ、美味しいけど、玲が作る餃子のほうが好きだな。

「ううん。クリスマスプレゼント」

「クリスマスって、もう過ぎましたよね?っていうか、デートだったのにクリスマスプレゼントもなしですか?自分はマフラーもらったのに?」

 俺が訊けば、藤堂さんは笑い出した。

「さすが三井くんだね。あのマフラーが結衣ちゃんからのクリスマスプレゼントだってわかっちゃうなんて」

「いや、だって、ゆいさん、藤堂さんのマフラーしてたし、藤堂さんはあの日マフラーしてなくて、翌日からはそれしてたから、普通に考えたら、そうかなって」

「やっぱり鋭いな。じゃあ、もしかして、もう俺と結衣ちゃんの関係とかも、わかっちゃってる?」

 運ばれてきたラーメンをすする。確かにおいしい。

「あ、それは田部井さんに聞きました。“彼女”じゃなくて、“口説いてる最中の相手”だって」

「相変わらずおしゃべりだな、あの人」

 困ったように笑う藤堂さん。

「俺の予想ではゆいさんは藤堂さんの“元カノ”なんですけど、どうです?」

 今度は飲みかけた汁を吹きそうになる藤堂さん。

「三井くんマジで凄っ!」

 でも、理由は簡単。彼女の藤堂さんの“あきら”という呼び捨て具合と、藤堂さんが彼女に訊かずに紅茶の銘柄を指定したからだ。

「で、クリスマスプレゼントなんだけど、三井くんだったら、玲ちゃんに何あげる?っていうか、何あげた?」

「どうしてそこで玲が出てくるんですか?」

「あれ?俺と三井くんって立場は同じだと思ってたんだけど」

「立場って?」

「片想いってとこで」

「でも、ゆいさん的には藤堂さんのマフラーとプレゼントのマフラーで相殺だからいいんじゃないですか?」

「あ、話すり替えた」

 藤堂さんがカウンターにお勘定を置いて、ふたりで店を出る。

「ご馳走様でした。女性へのプレゼントなら、俺より玲に相談してください」

「そうだね。ありがとう。じゃあ、お疲れ」

「お疲れ様でした」

 方向が反対だから、俺たちは地下鉄のホームで別れた。



―――帰りに杏仁豆腐買ってきて―――



 玲からのメールに従って俺はコンビニに寄った。玲が喜ぶのは“俺”がお見舞いに行くからじゃなくて、“杏仁豆腐”買っていくから。



 いつか“杏仁豆腐”にも勝ってみせる。




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