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梅雨時のふたり

   梅雨時のふたり   ―――見守る、空模様―――


 どんな雨の日も、俺は結構幸せだけど・・・玲と一緒なら


「また雨・・・」

 朝家を出る時間が玲と一緒の日は一緒に駅まで歩くことにしている。俺の授業の関係でそれは大体火曜と木曜。今日は木曜日。梅雨入りから早1週間、今週は月曜から今日まで、まだ1日たりとも晴れの日がない。

「宗ちゃん行くよー」

「玲、水たまりに気を付けて、下よく見てよ」

 雨の日はお互いが傘を挿しているから、玲との距離が必要以上に開く。これが、俺が雨の日が嫌いな理由。

「ああん!靴下濡れちゃった!」

 まだ家を出てから10分しか経ってない。家から駅まで降りる山道は、今でこそコンクリートで舗装されているけれど、人がすれ違う時さえ譲り合わなければならないほど狭くて細い。まあ、少し行けば車が通れる広い道路があるから、あまりこの道を使っている人はいない。だから人とすれ違うこともほぼないからそれはいい。ただ、道幅が狭い上に水はけが悪いおかげで、ちょっと雨量が多いと、小川みたいになってしまう。

「だから気を付けなっていったのに」

 玲は毎日どこかしらの水たまりに足を入れては靴下浸水させている。

「だって・・・どこもかしこもお水がきてて・・・」

「じゃあ俺が先歩くから、俺と同じようにきてよ。そしたら濡れないから」

 狭い道で傘をぶつけて雨を滴らせながら俺は玲を抜かして先を歩く。道は凸凹しているから、上手く歩けば靴下は濡れない。その証拠に、俺は今季まだ一度も靴下浸水はしていない。

「ほら、濡れなかったでしょ?」

 山道をおりきって振り返ると、玲はまだはるか後ろだった。

「宗ちゃん待ってー」

「ちょっと、遅くない?」

 忘れていた。これだからいつも俺が玲の後ろを歩くことにしていたのだ。

「見て、びしょ濡れ」

 玲がやっとおりてきて足元を見る。紺の靴下は変色し、両足とも浸水している。

「俺が歩いたとおりに歩いてこれ?」

「・・・だって、宗ちゃんと脚の長さが違いすぎてできなかった・・・」

 うん、それは考えてなかったよ。ごめん玲、自分の脚が他の人より長いの忘れてた。

「もうさ、サンダルにするか、ロッカーに靴下10足くらいストックしといたら?」

 なんか玲の場合、浸水せずに学校までたどり着くのはたぶん無理だ。

「そっか!そうしよ!」


 それから数日、雨はまだ続いていて、晴れの日はほとんどない。玲はバイト先のロッカーに靴下を20足ストックしたけれど、それもそろそろ切れそうだ。部活の練習着もジャージも乾かないと母さんからはいわれるし、玲は毎日靴下浸水させてるし、外へ出も中にいてもジメジメするし・・・。

「いい加減に梅雨が明けてほしいわね」

 里佳さんの言葉にみんなが頷く。

 バイト先のホテルはさすがに快適な温度に保たれているけれど、雨のおかげでロビーの床は汚れるし、傘の忘れ物は10本たまった。食中毒が出やすい時期だから、俺も玲も細心の注意を払って食品管理をしている。

「なんか楽しいことないかな、雨が降っても楽しいこと」

 玲は湿気で髪の毛がぼさぼさになるからとここ数日はおさげの編み込みヘアになっていて、これはこれで新鮮でちょっと可愛い。可愛いからと里佳さんがリボンのヘアゴムを買ってくれて、それをつけてるから更に可愛い。

「玲、そろそろいくよ」

「はーい」

 支度万端でラウンジをひらく。ラウンジも天気に左右されているのかどうかわからないけれど、夏休み前のこの時期はお客さんもあまりないから、割合暇だ。

「アイスティーひとつお願いします」

 昨日今日と急に冷え込んだから、ホットの注文が続いていたから、アイスティーをちょっと意外に思って客席を覗くと、見慣れた女性が座っていた。

「あ、結衣さん」

「お仕事なんだって」

 フロントマンの藤堂さんと結婚した結衣さんに会うのは久しぶりだ。俺は小さな皿にチョコレートを乗せて、アイスティーを運んだ玲を追いかけた。

「結衣さん、良かったらどうぞ」

「あら三井くん、ありがとう。元気だった」

「まあまあです。雨で身体がなまりそうだし」

「三井くんバレー選手だから、屋内じゃないの?」

「そうなんですけど、普段はランニングしたりしてるんで、ここ20日走ってないんでちょっと身体重いです」

 他にお客さんもいないから、ちょっと3人で話して、結衣さんの待ち合わせのお客さんが来たので、俺たちは裏へ戻った。

「ご馳走様。三井くん、チョコレートありがとう」

「いえ、喜んでいただけて何よりです」

「今日の帰り路楽しみにしてて。ちょっとしたお礼ができるはずだから」

 結衣さんはにっこり笑って帰ってしまった。なんだろう・・・?

「玲、終わった?」

「うん、大丈夫」

 今日も無事に終業時間。片づけをして、ロッカーで着替えて、また傘を差して家に帰る。

「宗ちゃん待ってよ」

「ほら、早く傘さして。濡れるよ」

 従業員通用口で傘を差してまっていると玲がやっと追いついてくる。

「ささない」

「は?」

「今日は傘ささないの」

 そういう玲の手には来る時にさしてきた青い傘がちゃんと握られているし、通用口の外は当然雨が降っている。土砂降りというほどではないにしても、駅までささずに行くのは絶対嫌なレベルだ。

「傘壊れたの?」

「ううん」

「じゃあさっさとさして、早く帰りたいんだから」

 またわけの分からないことを言い始めた玲にため息を吐きつつ、背を向けると、玲が俺の隣にぴったりくっついてきた。

「え?」

「相合傘」

 アイアイガサ?

「さ、行こう宗ちゃん!早く帰りたいんでしょ?」

「相合傘って、狭いし濡れるよね」

 いや、この密着感は大歓迎だけど、さすがに俺の傘でも玲も俺も多少は濡れると思うよ。

「駅まですぐだから平気だよ」

 玲が離れそうもないので、俺はそのまま歩きだした。まあ、予想通り方が濡れるけど、とりあえず玲が濡れないように傘を傾ける。駅まで5分。

「なんで急に相合傘したの?」

 電車の中もムシムシして湿っている。

「結衣さんがさっき言ってたんだ。『雨が降っても楽しいことさがしてるんです』っていったら、『帰りに相合傘してみたら』って」

「これのことか」

 帰り際に結衣さんが言ったお礼の意味が分かった。


 これだけ密着できるなら、晴れより雨のほうが好きになれるかも



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