クリスマス準備のふたり 買い物編
クリスマス準備のふたり ―――見守る、聖夜の支度・買い物編―――
あと3回だけだからね?どう譲っても3回!
「宗ちゃん早く!」
「大丈夫だよ、急がなくても売り切れないって」
玲に引っ張ってこられた横浜そごう。目的はスターウォーズ展・・・じゃなくて、大義名分はクリスマスの買い物だ。スターウォーズ展はあくまでおまけ。
「じゃあ、まずスターウォーズ展みて、ランチして、それからお買い物を・・・」
俺の勘違いで、メインがスターウォーズ展だったようだ。
「うん、やっぱりオビワンが一番かっこいいね」
「そう?俺はマスター・クワイ=ガンのほうが好きだよ」
昔からだけど、俺と玲は映画や漫画の登場人物の好みがどうも合わない。話している間に玲がヒートアップして口論になるから、取り敢えずやんわりというだけにとどめておく。
「あ!宗ちゃんのクリスマスプレゼントこれにしよーっと」
「え?」
玲が眺めているのはダースベーダ―のマグカップ。うん、顔の形の、真っ黒いあれのこと。
「いいでしょ?」
「よくないね」
「むー」
毎年クリスマスの買い物は天皇誕生日の前の週末と決まっている。家族全員分を買って、イブの日に交換し合う。よって、俺と玲の11月分のすべてのバイト代は家族のクリスマスプレゼントに消える。買うのも大量だけど、もらうのも同じ数だから、楽しいといえば楽しい。俺にとっては何より、この“玲とふたりでクリスマスの買い物にくる”こと自体が最も楽しいのだけど。
「ダースベーダ―よりマスターヨーダがいいの?」
「そういう問題でもないね」
「うーん」
いつもはもっと家の近くで済ませるんだけど、今年はスターウォーズ展見たさに横浜まできてしまった。
「じゃあ、これは?」
今度はライトセーバー。
「いいけど、値段見た?」
「うわっ!」
限りなくリアルなそれは、どう考えても予算オーバー。買ってもらっても俺も若干困るし。というか、クリスマスプレゼントの買い物自体もこのスターウォーズ特設会場で行われるっていう設定の買い物だったの?家族全員分スターウォーズグッズだらけのクリスマスプレゼント?家の中、すごいことになるけど、いい?
「これは?」
ジェダイの衣装のバスローブ?いいけど、バスローブ着る習慣自体がないよ。俺には。
「玲、取り敢えず、スターウォーズ展見て、ランチにしようよ」
そう、横浜ついてこれだけ時間たってるのに、まだ肝心のスターウォーズ展見てない。先にグッズコーナーに入ってしまったのが、そもそもの間違いなんだと、いまさら気づいた。
「うーん」
「ランチの後でまたここ戻ってきてもいいから」
「わかった」
グッズと展示とどっちが本命だったのかわからない玲にとりあえず目的を達成させるべく、俺はエスカレーターに乗った。
「すごかったね!今夜から連日シアターしようね!」
玲の見た目は割ときれいな美人系。中身はふわふわの小学生。趣味はスターウォーズ鑑賞。もう、何もかもアンバランスだ。統一性がない。
「バイト入ってるから連日は無理だよ」
バイトから帰ってきてスターウォーズ見てたら余裕で午前2時くらいにはなる。無理無理、俺、割と規則正しく生活したい人だから、徹夜とか、できないタイプ・・・っていうか、それ以前に、玲、12時過ぎまで起きてた試しないよね?バイト終わりのシアターだったら、ハン・ソロの登場前に寝る可能性すらある。
「ええー」
「で、結局何買うか決めたの?」
「うん!」
ランチの後、予定通り(?)俺は玲にグッズ売り場に連れ戻され、玲がほしいというから、ダースベーダ―のパネルを買い(玲のクリスマスプレゼント用)、本当は相手のこと考えながらサプライズ的に用意するのが好きなのに・・・。それからようやく家族の分のプレゼント探しを始めた。
「よし、買い忘れもなしっと!」
あれこれ悩みながら家族全員分のプレゼントを買い終えたころには、日がとっくに落ちて、外は真っ暗。混み合う横浜駅の構内を両手いっぱいの紙袋を持って東海道線の乗り場まで行くのだって一苦労だ。
「帰りにコンビニでアイス買っていい?」
「ダメ。疲れたし荷物多いから駅からタクシーで帰る」
「ええー」
今のは冗談。せっかくの玲とふたりきりの時間に、たとえタクシーの運転手であっても入られたら困る。しかも、タクシーなんか乗ったら家まで5分で着いちゃうし、玲といる時間が余計短くなる。
「昨日作ったティラミス冷蔵庫に残ってるだろ?」
「今朝食べちゃったもん」
「・・・・・・」
玲の食欲には底がない。そして胃袋はふたつある(普通の食事用とデザート用に別れてる)。
「わかったよ」
「わぁい!」
アイスひとつで大喜び。
「その代わり、俺が用意したクリスマスプレゼント絶対活用するって約束してね」
「うん!」
玲は嬉しそうにうなずいた。
甘いね、玲。ダースベーダ―のパネルだと思ってるだろ?
俺は玲がスターウォーズグッズに夢中で暇な間にネットで注文したレイア姫のコスプレ衣装を思いだして口角が上がる。
「宗ちゃん嬉しそうだね」
「まぁね」
別にコスプレとか好きじゃないけど、玲が俺のためだけに着てくれるなら、それだけは別ってことで。




