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待ち合わせのふたり

   待ち合わせのふたり   見守る⁉校内迷子?


「・・・・・・」

 遅い。本当に遅い。


 今日は午後の講義がないから、俺は玲に軽く校内案内をする予定で第一図書館近くの2号館のカフェテリアで玲と待ち合わせをしているけれど、待ち合わせ時間から10分経過しても、俺はまだコーヒー片手にひとりで椅子に座っている。

「あれ、三井じゃん?」

 同じ授業をとっている女の子(名前は覚えてない)。おしゃべりで、うるさくて、化粧が濃くて、俺の嫌いなタイプ。

「なになに?彼女待ち?」

「え、でも、30分前からここにひとりでいるよね?」

 ついでに詮索好きで、その友達も同じタイプらしい。

「別に、相手がちょっと待ち合わせに遅れてるだけ」

 もう駄目。もう無理。

 俺は空になったカップをカウンターに戻すべく立ち上がって彼女たちから逃れることにした。玲にはメールして待ち合わせ場所を変えてもらおう・・・っていうかさ、玲は何してるんだよ?

「ちょっとちょっと三井~」

「すっぽかされたんなら遊んであげよっか~?」

「いまからカラオケ行くんだけど~」

 あのさ、見た目から判断して、俺がカラオケで熱唱してる姿とか、想像できるわけ?

「悪いけど、人と約束してるから」

 そっけなく返しても、なかなかあきらめない彼女たちにはうんざりする。

「三井ってさ、いまフリーってほんと?」

 悪いんだけど俺、もうこの先“彼女”とか作る気ないんだよね。

「まじでー?私立候補するー!超好みなんだけどー!」

 俺は全然好みじゃない。

「ちょっとさー、私が先に声かけたんだけどー」

 やばい、キレそう。

「いいか・・・」

「三井ー」

 もはやキレかけた俺に声をかけてきたのは、待ち合わせ相手の玲ではなくて、小橋だった。

「体育館で待ち合わせだと勘違いしててー」

 小橋は彼女たちを完全無視で俺を連行し始めた。

「ごめんねー、三井忙しいからー」

 唖然とする彼女たちから離れたところで小橋は立ち止まってほっと息をついた。

「焦った。久しぶりにマジで焦ったわ、俺」

 大げさに胸をなでおろす小橋。

「ありがとう」

「三井さ、キレる寸前だったでしょ?」

「まぁね」

 小橋とは高校で部活が一緒になって仲良くなった。俺たちの学年で1年のときからチームレギュラーだったのは俺と小橋だけだったし、小橋はたぶん、割と俺のことをよく理解してくれている。

「それより、本当の待ち合わせの相手は?」

「あ、玲なんだけど、来ないんだよ」

「何かトラブルかな?」

「多分、校内で道に迷ってるだけだと思う」

 普通はありえないけど、玲ならありえる。なんたって、高校のとき、学校内で一つしかない図書室までの道に迷って初めての委員会活動に遅刻した実績がある。

「そっか、まあ、そのうちくるだろ。じゃあ、俺、授業があるから」

「おう、またな」

 小橋と別れて数分、俺は意外な人物と玲が歩いてくるのに出会った。


「宗ちゃん!」

 玲は俺を見て駆けてきて、一緒に着た彼女も、少しだけ早足になった。

「玲!・・・直井?」

 玲と一緒にやってきたのは(なお)井深(いしん)。バレンタインの日に、俺に本命チョコレートを持ってきてくれたゼミのクラスメイトだ。

「よかった・・・じゃあ、私はこれで」

 俺と玲が出会えたのを見届けて、直井はにこりと笑って俺たちに手を振った。

「あ、深先輩、よかったら一緒・・・」

 直井をお茶に誘いかけた玲の口を俺は少し焦ってふさいだ。

「直井は確か、午後も講義だよ」

「・・・そう、なの?」

「だから一緒に校内探検は無理だよ」

「・・・せっかく仲良くなれると思ったのに」

 玲、頼むから、直井をこれ以上傷つけたくないから、これ以上直井に近づかないで。直井は俺の好きな相手を唯一知っている。なぜなら、俺自身が直井に話したから。そして多分、ここまでくる間に玲は自分と俺との関係を直井に話してしまっている。つまり、直井は最も酷な案内役を引き受けたといってもいい。自惚れかもしれないけど、彼女が今も、俺を好きなら。

「じゃあ、いこっか」

「うん。とりあえず、玲が講義で使う場所から回っていこう。そうじゃないと、またすぐ迷子になるしな」

 俺は玲の予定表を見ながら道順を考える。

「そしたらまた誰かに道聞くから平気」

「大学なんて、知らないやつばっかりなんだ。みんながみんな、直井みたいに親切なわけじゃないよ」

 今日の午前中の講義の他愛もない話をしながら玲とふたりで校内散策に繰り出した。



 直井、いつか、ちゃんと話をしたいと思ってるから。




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