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お花見のふたり 後篇

お花見のふたり   ―――見守る桜前線 後篇―――


 玲、たまには花より団子より俺を優先してみない?


「もうすっかり葉桜になっちゃったね」

 結局いけなかった先週の鎌倉。そして今週は雨が降ったりやんだりの昨日の天気に、俺たちは出かけることを断念した。そして今日はバイトに向かうべく大学の並木通りを歩いている。俺たちの大学には並木通りが二本あって、桜並木と銀杏並木だ。時期になればどちらも壮観で、カップルでにぎわっている。

「玲、悪かったよ」

 残念そうに葉桜を眺めながら歩く玲を見ていると、仕方なかったこととはいえ、罪悪感が沸いてくる。

「宗ちゃんのせいじゃないもの」

「まあね」

 桜並木の通りを抜けると、大学の裏通りから駅前に続く坂道に出る。昔からありそうな小さなレストランとか鉄板焼き屋さん、個人ギャラリー&喫茶みたいな店の並びにお団子屋さんが軒を連ねている。

「玲、ちょっと待って」

 数歩先を行く例を止めて、俺は初めてその店に入る。からからと乾いた引き戸の音。

「こんにちはー」

「いらっしゃいませ」

 ガラスケースの中には和菓子が並べられている。この店もきっと、ずっとここにあって、もしかしたら・・・もしかしなくても俺たちよりも年上なのだろう。

「三色団子1本と桜餅ひとつください」

 お花見に行くと玲が必ず食べたがる、あんこも何もついてなくて、ただ三色なだけのお団子。桜餅は玲の大好きな道明寺。

「他はいい?」

「買ってくれるの?」

「俺が食べると思ってたの?」

 基本的にあまり甘いものは食べない。嫌いというわけじゃないけど、別に好きでもない。甘いものは食べている玲を見ているだけで充分糖分を摂取した気になる。

「350円になります」

「はい」

「ありがとうございました」

 店を出て、駅までの坂道を降りつつ、玲はお団子を頬張っている。

「宗ちゃん‼」

「なに?」

 三色団子の最後の一つを頬張った玲が目を大きく見開いていう。

「これ、本物の草団子!」

スーパーで買うと緑色はただの着色だけど、ここのはちゃんと蓬生らしい。

「よかったね」

 そんなことでこんだけ喜べる玲が可愛い。

お団子に続いて桜餅も食べて、駅から電車に乗る。

「ねえ、宗ちゃん」

「うん?」

 車窓からの景色も葉桜が目立つ。

「来年とは言わないから」

「うん?」

「いつか連れてってね。鎌倉のお花見」

 玲が窓の外を見たまま言う。ガラスに映るその表情は少し切なげで、でも、ちゃんと次があることを知っているらしい。

「この先何十回かの中のいつかでいいから」

 振り向いて俺を見上げた玲に俺は黙って頷いた。

「ね?」

「約束するよ」

「約束ね」

 玲が子供のように小さな小指を俺の小指に絡めた。


 この先何十回もの春を、玲の隣で迎えられたらいい。










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