エイプリルフールのふたり
エイプリルフールのふたり ―――見守る嘘の行方⁈―――
玲、俺を騙そうなんて、100年早いよ?
「宗ちゃん、宗ちゃん、大ニュース!」
「ん?」
「私、彼氏ができたの!」
玲がきらっきらの笑顔で俺にそんなことを言ってきたのは今朝のこと。
「ふーん、よかったね」
俺が興味なさげに返せば、玲はちょっと傷ついたような、むきになったような顔をして、更にまくしたてる。
「相手がだれか訊かないの?」
俺は大学に行くために、玲はお菓子教室に行くために、一緒に駅まで歩いている。
「別に、玲の彼氏に興味ないしな」
「・・・どこで知り合ったとかも?」
玲は尚も俺が食いつくのを待っている。
「ほとんど興味ないけど、玲が話したいなら話しなよ」
「むっ!」
玲がちょっと怒って俺の袖を掴む。
「なに?」
「高校のときの先輩で、この前再会して・・・」
それって伊藤さんのこと?
「うん、わかったよ。じゃあ、今度は俺と彼女の馴れ初めも聞く?」
俺が返すと、玲が立ち止った。
「なに、それ?」
数歩歩いたところで振り返れば、茶色のマスカラに縁どられた大きな瞳がさらに大きく見開かれている。
「なにって、俺と彼女の馴れ初め?」
「・・・だって、宗ちゃん・・・彼女はいないって・・・」
「何カ月前の話題だよ、それ?」
「・・・2カ月くらい・・・」
「いつまでもそんなわけないだろ?」
俺が言い返せば、玲は大きな瞳いっぱいに涙をためたままうつむいたから、宝石みたいにきれいな涙がぽろっと地面に落ちた。
「玲、俺いま、最高に幸せだよ」
ゆっくりと玲に近づく。
「・・・よかったね・・・」
消え入るような玲の声。
俺はこれ以上玲の涙を地面に取られないように、玲を引き寄せてその小さな後頭部に掌を当てて、自分の胸にその顔を埋めさせた。道行く人に見られてるけど、そんなことはどうでもいい。
「・・・宗ちゃん・・・?」
くぐもった玲の声。
「今の、嘘」
「・・・今の、って?」
「彼女がいるって話」
「“最高に幸せ”っていうのも?」
玲がやっと顔をあげた。
「いや、そっちは本当」
「?」
玲が不思議そうな顔で首を傾げる。
だって、玲が俺のために泣いてくれるなんて、俺は本当に最高に幸せだよ。
そんなこと言ったら、玲は怒るから口に出しては言わないけどね。
「ほら、化粧崩れたよ。駅で直してから行きな」
「うん」
喜びも悲しみも、玲が流すすべての涙が一生俺のためのものであればいい。
「今年も宗ちゃん騙せなかったうえに宗ちゃんに騙されたんです!」
「まあまあ、いくらエイプリルフールだって、相手が傷つく嘘はやっぱりよくないよ」
「藤堂さんは結衣さんに嘘つかなかったんですか?」
「嘘なんかついたら捨てられちゃうからね。俺はいつだって全身全霊で結衣ちゃんを愛するだけだよ」
「やっぱり、藤堂さんって素敵」
その一言こそ、本当に嘘であってほしい。




