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卒業旅行のふたり 前篇

 ―――見守る⁈旅の行方⁈―――


 ねえ、玲、この対応は、俺に対してだけだよね?


「宗ちゃん」

「そうちゃーん」

「そうちゃ~~ん」

 今日は珍しくバイトがない。玲が夕食を食べにきてというので、俺は神崎家で夕食を食べて、そのあと玲と洗い物をして、そして今、玲の部屋。

「宗ちゃんってば!」

 ベッドを背もたれに雑誌を読んでいた俺の肩をベッドの上でころころしていた玲が揺する。さんざん無視してみたけど、ついにしびれを切らせたらしい。

「宗ちゃん!」

 ベッドの上から俺が呼んでいた雑誌を取り上げる。

「なに?」

 振り返ると、ぷくんと頬を膨らませて怒っている。

「どこか連れってってよ」

「は?」

 どこかって、どこ?もう夜だよ。寒いし暗いしめんどくさいよ。

「何か食べたいの?」

「どうしてそう言うことになるの?」

 てっきり、コンビニにでも行ってお菓子買おうってことかと・・・。

「どこかって、どこ?」

「USJかディズニーランドか温泉」

 なに?そのチョイス?

「連れてって!連れてって!連れてって!」

 玲が小さい子供みたいに足をバタバタさせて暴れはじめた。

「玲、埃まうよ」

 俺は片手で玲の両足首を押さえつけた。

「ああん!」

「急にどうしたんだよ?」

「だって・・・友達はみんな卒業旅行に行ったのに・・・」

 また頬をぷくんと膨らませてちょっと泣きそうな顔になる玲。そう言えば、俺も卒業した時に部活の仲間と広島にいったっけ。

「玲は誘われなかったの?」

 卒業式のあの感じでもわかる通り、玲は友達が多い。にもかかわらず、だれにも誘われなかったのか?

「だってみんなは・・・」

「?」

「・・・部活の人といったんだもん・・・」

 なるほど。俺がそうであったように、玲の友達はみんな部活仲間同士で卒業旅行に行ったために、部活に入っていない玲には声がかからなかった、というわけか。

「だからって、俺と行くの?」

「だって・・・」

 次に続く言葉はなんとなく予想できる。

「だって、私が部活に入ってないのは宗ちゃんのせいでもあるんだよ?だから、だから宗ちゃんが責任取って」

 玲は抱き枕に抱き付いて顔をうずめてしまった。


 そう、確かに玲が部活に入っていないのは俺のせいかもしれない。というか、確実に俺のせい。

 玲は中学時代、俺と同じ部活でマネージャーをしていた。もちろん、それは俺の勧めであり、少しでも長い時間玲と一緒にいたいという俺の浅はかな考えからそうなった。そして、高校にあがり、玲はまた俺と同じ部活でマネージャーになるつもりでいたし、俺もそのつもりだった。

『見たか?今年の1年生にものすごく可愛い子がいたって!』

『見たよ!』

『何部希望かな?』

『ああいうマネージャーほしいよなー』

 入学式翌日から部活中にそんな噂が飛び交い始め、ある日、休日の部活で弁当を忘れた俺に玲がそれを届けに来たことで噂の“ものすごく可愛い1年生”が玲だと発覚した。

『三井!おまえ!知り合いか?』

『っていうか、彼女か?』

『マネージャーに勧誘しろ!』

 責めたてる先輩や同級生たち・・・そこで俺は気づいた。このまま玲をマネージャーにしたら“傍に置いておけて安心”どころか“狙われすぎて危険”だということに。

 そこで、俺はマネージャーとして入部届けを出そうとした玲を止めた。

『どうして?』

『今のキャプテンものすごく厳しいんだ。練習も中学のときとは桁違いに厳しいし、マネージャーだって忙しいよ』

『宗ちゃんも頑張ってるんだから、私も頑張る』

 そういう玲をなんとか言いくるめて(かなりひどいことを言った)俺は入部をあきらめさせた。そして、暇を持て余した玲は学校近くのカフェでバイトをすることに。その責任もあり、俺は玲の帰りのお迎えを買って出たわけだが。


「ね?心当たりあるでしょ?」

 玲が抱き枕に顔を埋めたままくぐもった声で言う。

「わかったよ。でも、大学と部活とバイトがあるからUSJは無理。ディズニーランドか箱根の日帰りくらいならいいよ」

 日帰りならいいけど、泊りは無理だ。うん、いろいろと無理。

「本当?」

「うん。でも、バイトのシフトがない日は明日か木曜だけだよ?」

「じゃあ明日!」

 ぱっと起き上がった玲がベッドの下に座っていた俺の首に抱き付いて俺は驚いて後ろ手に手をついた。



 心臓とかその他もろもろが持たないかもしれない。




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