表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/48

卒業式のふたり

   卒業式のふたり   ―――見守る門出―――


 今日は卒業式。


 俺のじゃなくて、玲の。玲は今日、俺の母校でもある高校を卒業する。俺は講義が一コマしかない日だったから、サボる覚悟でスーツを着て玲の卒業式へ向かう。

「宗ちゃん、授業はよかったの?」

 玲のお母さんとふたりで懐かしい通学路を歩く。玲のお父さんはこういう行事にはほとんど参加しない人だ。

「ええ、今日の講義は出席取らないんで」

 レポートさえ出しておけば単位は取れる。

「はやいわねぇ・・・玲が高校を卒業しちゃうなんて」

 お母さんは少し寂しげに言うけど、俺は正直うれしかった。なぜなら、4月から玲は俺と同じ大学に通うことが決まっているからだ。今よりももう少し一緒にいられる時間が増えるかもしれない。


「玲、卒業おめでとう」

 今朝駅前の花屋で買った真っ赤なミニバラとカスミソウの花束を差し出す。本当は、玲のことだから、花より団子かなっと思いはしたけど、写真に写るには花のほうがいいだろうと思って花を買った。ケーキは予約してあるから、帰りに受け取って帰ればいい。

「わぁ!宗ちゃんありがと!」

 花束を持った玲とお母さんを撮る。

「ねえ、みんなとも写真撮るから来て!」

 今日の俺はカメラマン。玲のお父さんからカメラを預かっている。

「みんな、写真撮ろうよ!」

 玲があちこちから友達を引っ張ってくる。

「宗ちゃんお願い!」

「はい、いくよ」

 写真を撮り終わると、女の子たちはきゃあきゃあ騒いで俺と玲に質問を浴びせ始める。

「三井先輩ですよね?」

「玲、三井先輩と付き合ってるの?」

 女子高生パワーってすごい。玲ひとりでも結構にぎやかなのに、こんな5人も6人もいたら、それはそれは、すでに“にぎやか”は通り越した。

「幼馴染だって、何度も言ったでしょ!」

「じゃあ、三井先輩、いま彼女いるんですか?」

「いや、いないよ」

 俺もあっという間に女の子に取り囲まれる。そんな中、ひとりの男子生徒が近づいてくる。んー・・・うろ覚えだけど、俺がいたころサッカー部の次期エースって言われてた奴かな?

「あ、水島くん!よかったら写真一緒に・・・」

「いや、それより、神崎、ちょっと、いい?」

「?」

 写真を撮ろうと言いかけた玲を遮って、相手は(水島?)玲をどこかに連れ去るらしい。

「玲!」

 牽制も込めて呼んでみたが、玲は俺を見てにこりと笑った。

「ちょっと行ってくるね!」

 どこにだよ?玲、気づけ!今日このタイミングで呼ばれるなんて、告白以外の何物でもない!

「ちょっと、玲・・・」

「三井先輩、一緒に写真撮ってください」

「は、え、あ・・・」

 俺は玲の友達の女の子に取り囲まれて、玲を追いかけられない。


「俺、神崎のことが好きなんだ!」

「・・・・・・」

 はっきりと聞こえた声。玲は驚いて相手を見上げている。そして、口を開きかけたとき、俺のほうが先に玲の名前を呼んでしまった。

「玲!」

 連れていかれた場所は見当がついた。第二体育館裏の有名な告白スポット。ここで告白して付き合ったカップルは長続きする・・・つまり、結婚する確率が高いって。誰だよ?そんな噂流したの!ちなみに俺は高校在学時代、ここで3度告白を受けてそのうち2度は付き合ったけれど、その彼女との付き合いはとっくの昔に終わってる。

「!」

「宗ちゃん・・・!」

 玲と、相手の男が驚いて俺を見つめる。

「・・・玲・・・」

 こんな形で告白するつもりなんてもちろんなかった。というか、俺はそもそも、玲に告白する気なんか、あったのだろうか?でも、玲が目の前で別の男から告白されているのを見て、俺の口から出たのはこれだった。


「・・・何してるんだよ、俺がいるのに」

 

 玲、この俺に、なんて答えてくれる・・・?


 玲、今度こそ俺の気持ちに気づいた?


「・・・神崎、やっぱり三井先輩と付き合ってたんだな」

 しばらく絶句した後、水島のほうが先に口を開いた。

「え、あ、そ・・・」

 玲は目を白黒させて俺と相手の男を交互に見る。

「玲は俺のだから、悪いけど、諦めてくれ」

 玲が戸惑って否定の言葉を出せないのをいいことに俺は玲の手を引いた。

「勝ち目ないな・・・せっかく1年先にいなくなったと思ったんだけど・・・」

 ってことは相手は俺のことを知っていて、俺の在学中から玲を狙ってたっていうことか。気づかなかったなんて、俺も結構迂闊だな。

「神崎、呼び止めて悪かった」

「あ、う、ううん・・・」

 玲は結局戸惑ったまま、俺に手を握られたまま、相手の男を見送った。




 俺は玲の手を引いたまま体育館裏を後にし、先に帰ってしまった玲のお母さんの後を追うようにまっすぐ家路をたどる。

「・・・宗ちゃん」

 いつもより早足に歩く俺の後ろを、玲は少し走るように付いてきて、家まであと10分というところで玲がようやく口を開いた。

「なに?」

「・・・ありがと」

「は?」

 俺は玲の口から出た感謝の言葉に驚いて足を止めて振り向いた。いつかのように玲がボスンッというような音を立てて俺の胸にぶつかった。

「痛っ!」

「あ、ごめん」

 顔を抑えて俺を見上げる。

「・・・急に立ち止まらないで」

「あ、うん・・・で、なに?今のお礼」

 それがさっきの俺の告白への返事だとしたら・・・。

「水島くんいい人だから、どうしていいのかちょっと困ってた・・・でも、宗ちゃんが上手に助けてくれたから」

 ああ・・・伝わってない!

「うん、玲どうせ、うまく断れないと思ったから」

 我ながら、自分のひねくれ具合にあきれそうになる。

「宗ちゃんがいてくれてよかった」

 玲はとてもうれしそうに笑って今度は俺を追い越して歩く。でも、すぐに立ち止まった。

「宗ちゃん、大変!」

「なに?」

 玲が茶色のマスカラで縁取られた大きな瞳をますます大きくして俺を見つめる・・・が、その瞳は俺の背後に何かをとらえ、すぐにうれしそうな表情に変わった。

「宗が付いてて忘れるとはな」

 言われて振り向くと、釣り目がちの瞳がくいっと不敵に微笑んで俺を見上げ、受け取り忘れたケーキの箱を押し付けられた。

「さすがお兄ちゃん!」

「どうして・・・?」

 ケーキを予約した時は玲も一緒にいた。ふたりして、卒業式の帰りに受け取って帰ればいいね。なんて言っていたのに、玲への告白事件で、俺の中でケーキのことなんか吹っ飛んでいた。

「駅で降りたらお前らの後姿が見えたんだよ。で、ケーキ受け取って帰るだのなんだの言ってたはずなのにケーキ屋通り過ぎてるしよ。で、一応訊いてみれば、受け取ってねーときたもんだ」

 3人並んで歩くのは久しぶり。

「で、代わりに受け取ってきてくれたんだ♪」

「まぁな」

 子供の頃と変わらずに俺と玲はお兄さんの後をついて歩く。家に着いて、お兄さんが玄関ドアを開けて、玲がそれに続く。今夜は家族で卒業祝いをするはずだ。だから俺は玄関の外でケーキの箱を玲に渡そうとする。

「玲、卒業おめでとう」

「ありがと」

 さて、今日の俺の役目はこれでおしまい・・・少し寂しいけど、まだ家族じゃないから仕方ないな。

「宗、早く入ってドア閉めろ、寒ぃじゃねーか」

「あ、すみません」

 俺は玄関から出てドアを閉めようとする。

「誰が出ろっつったよ?」

「あ、でも、やっぱり外に出て!」

 お兄さんに引き止められ、玲には外に押し出される。

「お兄ちゃんもきて!」

 玲がお兄さんも引っ張って俺たち3人はまた玄関の外に出ることになった。

「玲、ふざけんな。今帰ったばっかじゃねーか」

「うん、はい」

 玲は俺の手からカメラとって、それをそのままお兄さんに渡す。

「宗ちゃんと写真撮ってないもん」

 玲は俺のあげた花束。俺はケーキの箱を持ったまま立ちすくんだ。

「早く並べ。1枚しか撮らねーぞ」

 不機嫌な声のわりに嬉しそうな顔で押されたシャッター間際に玲が俺の腕に抱き付いて、俺はいままでで1番驚いた顔で記念写真に写った。


 玲、俺以外の男にはこんなことしないでね。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ