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大晦日のふたり

   大晦日のふたり   ―――見守る年越し―――



「玲、帰るよ?」

 大晦日。

「待って、宗ちゃん!」

 今日も俺たちはバイトだったが、年明けのイベントに備えてバイトは21時まで。いつもよりも1時間早い電車で俺たちは帰ることに。

「明日は初詣で行こうね」

「混んでるからやだよ」

 バイトがなければ『除夜の鐘突きに行こうね』と言い出すであろう玲のお願いだけど、俺は人混みが嫌いだ。

「お願いお願い!今日の年越しそば茹でてあげるから」

「なにそれ?」


 休日ダイヤの電車は空いていて、俺たちはいつも通りの駅で降りて歩いて20分で我が家へ到着。

「ただいま!」

「お邪魔します」

 今日は玲と同じドアから家に入る。

「おかえりなさい。ふたりとも大晦日までお疲れ様。さあ、着替えていらっしゃい。おそば茹でるわね」

 玲のお母さんが出迎えてくれる。うちの両親は無情にも大晦日までバイトだった俺を置いて旅行に行ってしまった為、俺は玲の家に泊まることになった。家は隣だし、19だし、そこまで心配される必要もあまりないのだが、これにはわけがある。

「すみません、ご迷惑をおかけしまして」

 俺は二階で着替えさせてもらい、リビングにおりた。

「いいのよ。バイトは玲のせいなんだから」

 俺がどうして玲と一緒にバイトをしているのかといえば、高校になってバイトをしたいと言い出した玲に、帰りが危ないからと玲のお父さんが猛反対。その結果、俺が毎回バイト終わりの玲を迎えに行くという約束でお許しを得た。ちなみに、俺の高校在学中は部活があったため、部活帰りに玲を迎えに行っていた。今だって部活は続けているけど、講義の空き時間をうまく利用して練習しているので、バイトと掛け持ちができるようになった。

「でも、やっぱり夕飯ご馳走になったら帰ります」

 泊めてもらうのはさすがに玲の部屋じゃなくて、玲のお兄さんの部屋。

「気にすんな。隣っつっても帰んのが面倒だろ。大晦日に一人ってのも寂しいぞ」

「いや、でも・・・」

 布団やらなにやら用意してもらうのも申し訳ない。

「何なら、玲の部屋で寝るか?」

「は?」

 お兄さんは俺の玲への気持ちに気づいているのか、毎回くれる提案や助言はものすごくきわどい。きわどすぎて困る。

「いいよ!寝るまで宗ちゃんと話してられるね!」

「いや、玲ずっとしゃべってるから、それじゃあ俺、寝れないし」

 お父さんとお兄さんと玲が紅白を見ながら団欒している中でお母さんが料理を準備してくれて、俺はキッチンとテーブルを往復してみんな分のそばを運ぶ。

「ありがと、宗ちゃん」

 俺は玲の隣に座る。

「玲、重いから気を付けてよ」

「うん、こんなにいっぱい食べきれないよ」

「食べなさい。それじゃなくても玲の分は少し宗ちゃんに分けてるんだから」

 玲が文句を言うもお母さんは取り合わない。

「玲、とりあえず食べられるだけ食べな。残したら俺が食べるから」

 子供の頃からいつもこうだ。玲はなんでも食べたがるけど、いつも途中で食べきれないと残す。それを引き受けるのが俺の役目。これからもずっとそうであればいいと俺はいつも思っている。

「うん!」

 結局、みんなが食べ終わって器や箸を片付けて食後のデザートが出されても、玲はまだそばを食べていた。

「宗ちゃん、もう無理・・・」

 玲が俺の腕を引いてお腹が苦しいと訴える。でも、たぶん・・・。

「玲、俺にそば押し付けてケーキ食べる気でしょ?」

「うん」

 玲は正直。

「じゃあ、だめ」

「ええっ?」

「ケーキ食べれるなら残りのそばもいけるでしょ?」

 玲が可愛いからちょっと意地悪してみる。

「ケーキは別腹なの!宗ちゃんお願い!」

 玲が俺に抱き付く勢いで言う。

「・・・どれ、かしてごらん」

 結局俺は玲が残したそばを食べることに。そして玲は幸せそうにケーキを食べる。

「ありがと」

「どういたしまして」

 冷め切った残りのそばをすする。そばを食べ終わると、ちょうど年が明ける。

「あけましておめでとうございます」

 家のあちこちでそんな声が飛び交う。

「宗ちゃん、今年もよろしくお願いします」

 玲が俺に頭を下げる。

「こちらこそよろしくお願いします」



 今年だけじゃなくてずっとその先も、俺に残り物を引き受けさせてくれる?



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