インフルエンザのふたり おまけの帰宅譚
インフルエンザのふたり ―――おまけの帰宅譚―――
「宗ちゃん、入るよ」
藤堂さんからのメールの後に玲が部屋を訪ねてきた。
「うん、マスクしてる?」
小さな顔に大きなマスクの玲が顔をのぞかせた。
「具合、どう?」
「良くなってるよ。おかえり。無事に帰ってきたんだね」
そばに来た玲に頭をなでられて、俺はその小さな手を握った。
「ただいま。ねえ、宗ちゃん、藤堂さんに私を送ってくれるようにお願いしたって本当?」
「そうだよ。それ以外にお願いできる人が見当たらなかったからね」
「ひとりでも大丈夫なのに」
玲がぷくんとほおを膨らませた。
「ダメだよ。それがお父さんとの約束だからね」
「お父さんなんて、1日くらい気づかないよ」
玲が帰ってくるまで心配で横になっていても眠れないままごろごろしていた。だから、だんだんと瞼が重たくなってきた。
「・・・それは建前で、本当は俺が玲のことが心配だったからだよ・・・ひとりで歩かせたくないんだ・・・こんな暗い中・・・でも、他の男に送られるのも充分心配だけど・・・藤堂さんは、結衣さんが・・・いるから・・・」
もうだめだ。薬のせいか、ものすごく眠たい。
「宗ちゃん?」
「玲・・・ありがとう・・・」
玲の冷たい掌が俺の額に当てられる。とても気持ちいい。
「宗ちゃん、大丈夫?」
「うん、少し眠るよ・・・ありがとう、玲・・・大好きだよ・・・おやすみ」
玲に何と言ったのか、玲が何と答えたのか、記憶に残らないまま、俺は瞼を閉じて眠りに落ちた。
「宗ちゃん、私も大好きだよ」
玲、いつかその答えをもう一度聞かせて。
できれば、俺の意識がはっきりしているときに。




