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インフルエンザのふたり3

   インフルエンザのふたり  ―――見守る病状3 語り、藤堂彰―――


「では、お先に失礼します」

 ラウンジの玲ちゃんが従業員通用口から帰ろうとする。

「あ、ちょっと待って」

 そんな玲ちゃんを呼び止めた。21時あがりの俺がどうして今まで休憩室で待っていたかといえば、夕方の三井くんからの電話によるものだった。


『藤堂さん、いま大丈夫ですか?』

「うん、ちょうど休憩中。どうしたの?っていうか、ひどい声だね。風邪?」

『インフルエンザです・・・』

「えっ?まじ?大丈夫?」

『ええ、一応。で、大変申し訳ないお願いがあるんですが、藤堂さん、今日、何時あがりですか?』

「えっと、21時だったかな?」

『そのあと予定あります?』

「いや、特にないけど」

『本当に申し訳ないんですけど、玲、22時あがりなんです。で・・・』


「今日、三井くんいないんでしょ?」

「宗ちゃん、インフルエンザになっちゃって」

 知ってるよ。だから俺が玲ちゃんを送るように頼まれてるんだ。

「そっか。じゃあ、駅まで一緒に行こうよ」

「はい」

 最寄りの地下鉄駅からは反対方向。でも、俺は今日、玲ちゃんと一緒の電車に乗った。

「藤堂さん、電車、こっちじゃないですよね?」

 玲ちゃんがそれに気づいた時はすでにドアが閉まっていた。

「うん、こんな暗いと危ないからね、今日は玲ちゃんを送ってあげる」

「え?いいですよ、そんな!」

「前に三井くんに聞いたよ、玲ちゃんがバイトをしていい条件って、三井くんが毎日家まで送ることなんでしょ?」

 玲ちゃんはとても焦って、でも、駅から家まで20分歩くし、そんなに真っ暗じゃないから大丈夫です、何ならタクシーに乗るんで・・・なんて言っていたのを聞き流している間に駅についた。

「藤堂さん、本当に・・・」

 尚もついていくのを断ろうとする玲ちゃんを、改札の向こうで男の声が呼んだ。

「玲!」

 声の先をたどれば、短髪できりっとした感じの気が強そうな男の人が立っていた。

「玲ちゃん、彼氏・・・?」

 訊いた俺を遮って玲ちゃんが相手に手を振る。相手も軽く手をあげた。とても親しげで、しかも相手の男は三井くんとはおよそ正反対な荒削りのちょっと不良っぽい(失礼)いい男って感じだ。俺は心底三井くんに同情した。

「迎えにきてくれたの?」

 言いながら、取り敢えず改札を抜けて彼のもとにかけ寄る玲ちゃんについていく。

「ったく、追いコン抜けてきたんだぞ」

 彼氏のわりに相手はちょっと不機嫌そう。玲ちゃんより、というか、三井くんよりも多分年上なのだろう。俺はこんな可愛いついこの前まで女子高生だった玲ちゃんにこんな大人っぽい彼氏がいたことに多少のショックを受けて、しばし呆然と玲ちゃんの隣に立ち尽くした。玲ちゃんに恋してるわけでもない俺ですらこんなショック受けてるっていうのに、三井くんが知ったら・・・というか、三井くんはこの人の存在を知ってるんだろうか?

 なんて、俺が一人ぐるぐると考えていると、急に視線を感じた。

「で、こちらの方は?」

「藤堂さん。送ってくれるって言ってくれて・・・でも、家まで割と歩くから、って思って・・・。お兄ちゃんが迎えに来てくれてよかった」

 玲ちゃんはニコッと笑った。

「えっ?お兄ちゃん?」

 驚く俺をよそに、玲ちゃんが紹介してくれた。

「こっちはうちの兄で、こっちはホテルのフロントの藤堂さん」

「妹たちがお世話になっております・・・この辺りにお住まいですか?」

 がっしりとしたがたいの良い、いかにもスポーツマンっていうタイプ。玲ちゃんとは・・・あまり似ていない。

「ううん、宗ちゃんがいないから送ってくれるって・・・電車も反対方向なの」

「申し訳ありません。宗の奴、どこまで人に迷惑かける気だ」

「ええっ!藤堂さん、まさか宗ちゃんに頼まれて・・・?」

「決まってんだろ!」

 玲ちゃんは本人が気づいてないだけで、いつでもどこでも三井くんに守られてるんだけどな・・・本当に気づかないなんて、三井くんの恋も前途多難だな。

「本当に、玲と宗がご迷惑をおかけしまして」

 お兄さんに頭を下げられる。

「いえいえ、ふたりがバイトにきてくれてから、とても楽しいので、こっちこそ感謝してます」

 これは俺の本音。というか多分、あのホテルの従業員ほとんど全員の本音だと思う。若いふたりは俺たちに底知れないパワーをくれるし、特に玲ちゃんの明るさにはみんな1度は救われたことがあるはずだ。

「そう言っていただけると、少し安心できます」

 見かけによらず(失礼)とても礼儀正しいお兄さんと玲ちゃんは、ひとしきりお礼を言って、俺を見送ってくれた。


―――具合はどう?玲ちゃんは、家の近くの駅まで送ってきたら、お兄さんがお迎えにきてたからここでバトンタッチしたよ。無理せずゆっくり休養してね―――


―――さっき怒りの電話がありました。ご迷惑をおかけしました。ありがとうございました―――


 三井くん、頑張って!


 俺はそう返信しかけて止めた。

 人を励ましてる場合じゃない。俺とゆいちゃんの距離は三井くんと玲ちゃんよりも遠いんだから。





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