表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/48

インフルエンザのふたり2

   インフルエンザのふたり   ―――見守る病状2―――


「・・・・・・」


 悪化してる。確実に悪化してる。

 一晩眠れば治ると過信していた俺は翌朝自分の浅はかさを思い知った。

「まずいな・・・」

 測ってはないけど、確実に熱がある。それも、尋常じゃないくらい。思考がまとまらなくて意識は朦朧・・・そんな中で俺の頭の大半を占めていたのは、夜までにはどうしたって熱を下げて、バイトに行かなければということだった。

 最悪バイトに行けないとしても、バイト終わりの玲を迎えに行かなくてはならない。それが玲のお父さんとの約束だからだ。

今日は19時から。

「夜までにはよくなる」

 ここ数年病気らしい病気なんてしたことがない。風邪をひいて熱が出るのだって、小学校4年生のときのインフルエンザ以来だ。あの時はクラスのほとんどがインフルエンザにかかって学級閉鎖になった。でも、どれくらい辛かったかはよく覚えていない。どちらかといえば病弱(?)だった俺はいち早くインフルエンザにかかり、治ったころに学級閉鎖になったから、一週間誰とも遊ぶこともできず、行くところもなく、退屈に過ごした記憶のほうが残っている。ただ、俺とお兄さんがインフルエンザにかかって、学級閉鎖のクラスが続出しても、玲は元気に登校していた。



 寝ているだけなのに、時間の流れはやけに早い。時刻は15時。

「まずいな・・・」

 19時からバイトだから18時45分にはホテルに着きたくて、そうなると18時過ぎくらいには玲を駅まで迎えに行かないといけなくて、そのためには17時半には家を出たくて、そのためには・・・。

 朦朧としつつ計画を立てていると、玄関のドアが開く音がした。母さんが帰ってくるにしては早すぎる。

「ただいま~」

 聞こえてきた声に俺は飛び起きた。

「玲?」

 痛む関節に悲鳴をあげさせながら上半身を起こすと、とんとんと軽快な足音を立てて階段を上がってきた玲がノックをして返事を待たずにドアを開けようとする。

「入るな!」

 風邪のウイルスに汚染されているこの部屋にはどうしたって入れたくない。からからに乾いた喉で怒鳴ると、開きかけたドアがピタリと閉まった。

「ごめん、なさい」

「玲、ごめん、ちょっと風邪気味なんだ。だから、部屋には入らないで。バイトにはいくから・・・」

 言っている間にドアが開いた。

「入るなって・・・」

 玲はマスクをしてこくこく頷いている。そして、俺のそばに寄ってきて小さな掌を俺の額にぴたりとくっつける。冷え性の玲の手の平は恐ろしく冷たい。

「宗ちゃん、着替えて」

 玲がクローゼットを勝手に開けて俺のジーパンとシャツ、セーターを取り出し壁に掛けてあったコートをハンガーから外して持ってきた。

「玲、ちょっと待って・・・もうちょっと時間あるでしょ・・・」

 意識が朦朧としつつもまだ時間はあるはずだ。玲を駅まで迎えに行く手間がない分、もう少しゆっくりしてもいいはずだ・・・この熱はたぶん、そんな悪あがきでは下がらないだろうけど・・・。

「ダメ!閉まっちゃうから」

「は?なにが?」

「病院」

 玲はもたもたしている俺にしびれを切らしたようで、あろうことかベッドによじ登ってきた。

「ちょっ!玲、着替えるから出てけ!」

 俺は今度こそ真剣に怒鳴った。




「インフルエンザだったなんてね」

 この高熱の正体はインフルエンザだったらしい。どうしてもっと早く来なかったのかと病院で怒られた俺は薬局で薬をもらい、玲に付き添われてまた部屋のベッドに戻った。

「じゃあ、宗ちゃんはいい子にしててね。今日は宗ちゃんの分まで働いてくるから」

 ベッドに寝かされて頭をポンポンと撫でられた俺は思わず声が裏返った。

「え?玲、バイト行くの?」

「だって、私インフルエンザじゃないもん」

 いや、そりゃそうだけど。

「何か買ってきてほしいものある?杏仁豆腐は冷蔵庫に入れといたからね」

 言いながら玲は大量のマシュマロとのど飴と葛湯入りのポットをベッドサイドのテーブルに置いた。これは玲が風邪のときの必須アイテム。玲の風邪は十中八九“喉から”だから。ちなみに俺の風邪は間違いなく“熱から”くる。つまり、マシュマロも杏仁豆腐ものど飴も葛湯も実際はあまり必要ない。

「玲、帰りのお迎えは・・・どうにか手配するから、絶対にひとりで帰ってこようなんて思わないでよ」

 子供を寝かしつけるように俺を寝かしつけてポンポンとして満足そうに部屋を出ていった玲のために、俺はこれ以上借りを作りたくない相手にメールをした。


―――ごめんなさい。インフルエンザで出れなくなりました。今日の22時に玲をバイト先まで迎えに行ってください―――


 数分して返ってきた返事は俺を絶望させた。


―――無理だな。今日追いコンだから、抜けらんねーわ―――

―――だいたいにして玲だって子供じゃねーんだから大丈夫だ―――


 実の兄なのに妹を夜道に放り出そうとするなんて・・・いや、わかってる。俺が過保護なだけだって。



   送り狼(?)の語りに続く・・・






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ