インフルエンザのふたり
インフルエンザのふたり ―――見守る病状1―――
物凄く嫌な予感がする。眠る前からだるい気はしていたけど、真夜中になってぎしぎしと痛み始めた関節、真冬なのに熱くて布団から抜け出したいと思う。
「宗、いつまで寝てるの?」
もうずいぶん前から、土日も関係なく朝早くに目覚める。毎日ではないけど、走りに行って、高校時代は部活の朝練があって、そんな俺がこの時間まで起きてこないことを不審に思った母さんが部屋を覗きに来た。
「・・・大丈夫、いま起きる」
「私もう出かけるから。戸締りしてってよ」
「・・・わかった」
布団から出ないまま返事だけして、それを聞くと、母さんはさっさと仕事に行った。ただ、俺の生存を確認しただけらしい。
「参ったな・・・」
パジャマの上にパーカーを羽織ってリビングに降りる。食欲がないからとりあえず口をゆすいだ後スポーツドリンクを流し込んだ。
大学はいけないならいけないでまあ、いい。今日はバイトもないからこれも別にいい。
「明日までには戻るだろう」
食欲がないながらも薬を飲むべく、残りごはんで卵雑炊を作りつつ、ここ最近の何がいけなかったのかを冷静に振り返る。
1番疑わしいのは・・・というか、ほぼ確実に昨日コートびしょ濡れの玲に自分のコートを貸したとき。玲が代わりに自分のショールを俺に巻いてくれからそこまで寒いとは思っていなかったけど、その熱さは俺の心理的なもので本当は寒かった、とか?
とりあえず液状の葛根湯を飲み乾して眠ることにした。
「・・・・・・」
次に目覚めると、日が傾きかけていた。16時。
「うっ・・・」
起き上がるときの関節の痛みが眠る前よりも増している気がする。ぎしぎしと悲鳴を上げるこの感じ。昔体験した成長痛にも似ているが、この身長で、この歳で、これ以上成長するはずもない。
ふと見れば、玲から連絡があったらしい。
―――今日のご飯はビーフシチュー♪帰りにうちに寄ってね☆―――
うん、無理だ。
―――ごめん、今日はいけない―――
とりあえず返信して、もはや眠くもないからシャワーを浴びることにした。真冬なのに汗ばんだ服を洗濯機に放り込む。
「ふぅ・・・」
一息ついて、リビングのソファーに座っていると、電話が鳴る。俺のiPhoneじゃなくて、家電。
「はい」
セールスだったら面倒だから、名前は名乗らない。
「あ!いた!」
電話の相手は驚くことに玲だった。げっ!出なきゃよかった。
「なに?」
「宗ちゃん、家で何してるの?」
玲の疑うような声。
「なにって、特に何も」
本当に何もしていない。だって、具合が悪いんだから。
「・・・家にいるのにどうして来れないの?」
今度は咎めるような玲の声。
なんか俺、疑われてる?疑うって、何を?いやいや、やましいことなんかなんもないんだから。
「ちょっと・・・」
風邪ひいて具合が悪くて。なんていったら、玲は確実に押しかけてくる。それは困る。玲に風邪がうつるじゃないか。
「ちょっと?」
「この後大学の友達と出かけるんだ」
大学の友達なら玲を一緒に連れていけない理由にもなってちょうどいい。玲相手でも、俺は平気でうそを吐けるらしい。
「・・・それって、女の子?」
「は?」
玲の思いがけない質問に、俺は思わず間抜けな声が出た。
「出かけるって、どこに?」
なんだか玲に責められているらしい。俺はやましいことはない。別に浮気をしているわけではない。というかそもそも、俺は別に玲の彼氏じゃない。玲は別に俺の彼女じゃない(残念なことに)。
「友達は男で夕食食べに行くだけ」
どうして俺が責められなければならないんだ。とか思って、俺は思いがけず冷たい声が出た。もう電話を切りたい。
「・・・気を付けてね」
ちょっとの間の後、玲からの返事が聞こえた。冷たくしてごめん、でも、ちょっと今はそこまで気が回りそうにない。
「うん、支度があるから、じゃあね」
最後はいつもの玲に戻って電話は切れた。
「さて、薬でも飲んでやっぱり横になろうか・・・」
まだそれほど熱があるとかいうわけではない俺は、翌日今以上の体調不良に見舞われるなんて、夢にも思っていなかった。
明日に続く・・・




