節分のふたり
節分のふたり ―――見守る立春―――
「じゃあ、豆まきしましょう!」
玲の一言にその場にいた全員が絶句した。全員と言っても、藤堂さん、田部井さん、主任、俺。
「玲ちゃん、ここで?」
いち早く声を取り戻したらしい藤堂さんが真剣な目をして玲に訊く。
「はい。ここならお客様にもご迷惑かかりませんよね」
まあ、ここは休憩室だから、従業員以外は立ち入り禁止だけど・・・。
「豆は?」
「あります」
玲がバックから豆まき用の豆を取り出す。
「玲、まいたら片づけなきゃいけないんだよ?」
俺は玲のとんでもない提案には慣れているから、とりあえずこのあたりで止めることにする。玲は頑固だから、なかなかいうこと聞かないし。
「うん、宗ちゃんも手伝って」
まくこと決定してないでしょ?っていうか、むしろ俺は反対。
「だからね、玲。豆まきは家に帰ってからやろう」
俺はとりあえず玲から豆を取り上げる。
「ああん!返して!」
「うん、家に帰ったらね」
玲がぴょんぴょん跳ねるけど、届かない。俺と玲の身長差はおよそ30センチ。俺が腕をあげれば玲は届かない。
「お願い!宗ちゃん!」
「みんなに迷惑かけないの」
「お願いお願い!ちょっとだけ!」
「だめだっ・・・」
『だめだって!』と言いかけた俺の手から豆の袋が取られる。後ろを振り向けば藤堂さんが立っていた。藤堂さんは俺よりも背が高い。
「三井くん、こんなにかわいいお願い事なんだから、きいてあげようよ」
ニコッと笑う藤堂さん。ホテルで“藤堂スマイル”と呼ばれている藤堂さんの必殺技(?)これに勝てる人がいたら会ってみたい。
「はあ・・・」
「藤堂さん大好き!」
玲は藤堂さんに抱き付きそうになる。藤堂さんはにっこり笑って玲の頭をなでる。
「じゃあ、いくよ」
ホテルの休憩室からのちょっとした中庭に面した扉を開けて、みんなで一握りずつ小さな声で『福は内、鬼は外』と言って豆をまいた。
「玲、気が済んだ?」
「うん!みなさんありがとうございました!」
そう言って玲はバックからもう一袋豆を出す。
「あとは歳の数だけ食べるだけです。主任、いくつですか?」
多分、年功序列で一番年上な主任から声をかけているんだろう。
「36だな」
玲がざらざらと主任の手の平に豆を落とす。
「田部井さんは?」
「31こ!」
女性に歳を訊くなんて・・・と思ったけど、田部井さんはたいして気にもしていないらしくて、豆をもらって玲にお礼を言っている。
「藤堂さんは?」
「これって数え年ってやつだよね?それなら30」
玲が藤堂さんの大きな掌に豆を数えながら落とした。
「はい、宗ちゃん」
言われて俺は手を出す。掌に落とされた豆は20。
「ありがとう」
玲は19個。みんな無言で豆を食べる。
「よし、これでみんな健康だ!」
こんな時の玲はものすごく嬉しそう。俺はそんな玲を見ているのがとても好きだ。
「宗ちゃんの分は私が巻いてあげる」
家に着いて俺は今日も神崎家へ先に帰宅。
「ねえ、玲」
玲はご機嫌でマキスの上に海苔、ご飯、厚焼き卵の細切り、きゅうり、かんぴょう、カニかまぼこ、ほうれん草のお浸し、サーモン、そしてなぜか焼肉まで乗せて巻き始める。
「もっといれたい?」
「いや、そんなに巻いたら、一口でかぶりつくの難しいし、食べ終わる前に窒息するよ」
「うん、全部入れたらおいしいよね。はい、できあがり。お願い事しながら食べてね」
顎が外れそうな気がするけど、玲の嬉しそうな顔を見たらそんなこと・・・。「玲、こんな太く巻いたら顎が外れるよ」
言えてしまう。
「うん、宗ちゃんなら大丈夫!」
「どっからくるの、その自信?」
俺はとりあえず持ち上げてみる。うん、すごい重量感。
「だって、宗ちゃんの今年一年の健康は初詣でのときに神様にお願いしておいたから」
玲の一言に、俺は一口目を口に入れたまま目を白黒させてしまう。初詣でで俺のこと願うなんて・・・それって、それって、どういう・・・?
「じゃあ、今度は“宗ちゃんの顎が外れませんように”にしようっと」
玲も自分の分にかぶりつく。
俺の願い事?
それはもちろん・・・玲がいつなんどきも幸せでありますように・・・できれば、俺の隣で。




