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雨模様のふたり

   雨模様のふたり   ―――見守る曇り空―――


「そうちゃ~ん、みて~」

 寒さにも暑さにも、割合強いほうだと思う。その俺が肩をすくめそうになるほど、今日は寒いうえに朝から霙張りの悪天候だ。それでもいつも通りバイトに向かうべく、駅で玲を待っていると、玲が半泣きになりながら走ってきた。玲のお気に入りのコートは泥だらけ。

「また転んだの?」

「違うの!学校の前で車に泥水跳ねられたの!」

 かなりの飛沫量だったらしく、裾からぽたぽたと雨水が零れる。

「玲、こんなの着てたら余計寒いだろ」

 タイツの足元もすっかり濡れて、雨水の滴るコートを脱がせる。

「ほら、こっち着てな」

 自分のコートを脱いで玲を包む。俺がでかいおかげで玲は大人の服を着た子供みたいだけど、仕方ない。

「宗ちゃんが寒くなる」

 玲はそう言って首に巻いていたショールを俺の肩にかける。思いっきり女もののショールは全く俺に似合ってないけどこの際仕方ない。バイト先まで20分くらい。途中駅ナカのファンシーショップでタイツを買ってバイト先へと急いだ。


「派手に汚したわね」

 ホテルのランドリー係の花村さんが玲のコートを洗ってくれるというので預けることにした。

「でも、仕上がるの明日になっちゃうわ」

「よろしくお願いします」

「帰り、寒くない?」

「それ着て帰るわけにはいかないし、玲には俺の着せるんで大丈夫です」

「三井くん、ものすごくいい彼氏ね」

「あ、彼氏じゃないですけどね」

 玲がここにいなくてよかった。どんな反応するか見てみたい気はするけど、即否定だったらわかってても俺だって傷つくからね。

「そうなの?」

「幼馴染で家が隣ってだけで、妹みたいなもんですよ」

 そんなことを自分で言って、俺はラウンジに戻った。


「宗ちゃん、ごめんね」

「玲が悪いわけじゃないよ」

 バイトが終わってからの帰り道。雨は止んでいたけど、寒いことには変わりない。断ろうとする玲を俺のコートに包んで玲は自分のショールを俺に巻き付けて、ふたりして家路を急ぐ。

「風邪ひかないでね?」

「そんなにヤワじゃないよ」

 風邪どころか病気らしい病気なんて、ここ何年もしたことない。それに、玲の首元を温めていたショールをまかれているうえに、玲が寒さのあまり俺にぴったりとくっついてくるから俺は暑くて仕方なかった。

「玲、くっつきすぎて動きづらいよ」

「宗ちゃんを温めてるの」

 温められすぎて心臓が止まりそうだよ。

 腕に抱き付く玲を引きずるようにして家に着く。

「じゃあ、また明日ね」

 玄関前で玲がコートを脱ぎかける。

「明日でいいよ。おやすみ」

 玲が家に入ったのを見届けて、俺も家に入る。玲のショールを巻いたまま。


 凍えるほどの寒さでも、玲が隣にいるならいい。



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