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期末試験のふたり

   期末試験のふたり  ―――見守る最終成績⁉―――


 玲、もう少しやる気出さないと、いい加減、俺も怒るよ?


「で・・・つまり?」

 三井家のリビング。21時。

 すでに風呂を済ませて部屋着のワンピースで我が家にきている玲が、マスカラをとっても長いまつげをぱさぱささせて上目づかいで俺を見上げる。

「つまり?って、さっきの公式と同じだよ」

「さっきの・・・って?」

 さらにもう一度問題集に目を落として、それからまた俺を見上げる。

「ここ!問3と同じ公式使ってあてはめて計算すれば答えが出るんだよ!」

 再三同じことを説明しているおかげでだんだん俺もイライラしてきた。赤ペンでぐるぐると印をつけながら、つい15分前に説明したばかりのことをもう一度繰り返す。この説明だってもう3度目。

「・・・・・・」

 玲が黙り込んで黙々と計算し始めるが、眺めていると、途中で間違っている。

「玲、そこ計算間違ってるよ」

「・・・・・・」

 俺が赤ペンで指したところに戻って玲がもう一度計算する。

「・・・お腹空いた・・・」

「それができたらね」

 普段の玲の夕食時刻は19時。今日はすでに2時間絶食状態。

「・・・・・・」

 玲が一生懸命計算している間に、俺は暇だから腹筋することにした。

「ちょっと!」

 俺が玲から離れたのを見て、キッチンにいた母さんに呼ばれた。

「なに?」

「あんた、いい加減玲ちゃんに夕食くらい食べさせてあげなさいよ。あれじゃあ集中力も続かないわよ」

「いま解いてるのが正解だったら食べさせるよ」

「間違ってたらどうすんのよ?」

「もう1問」

 言ったところで母さんに頬をつねられた。

「馬鹿!かわいそうでしょ?」

「このままじゃ明日の試験で赤点決定だよ?大学が決まってるとはいえ、赤点はないよ」

 玲は思い切り得意科目が文系に偏っているせいで数学・化学・物理は毎回全滅だ。だから毎回俺は自分が高校生でテスト期間がかぶっていたころから玲の苦手科目だけは見てあげている。

 そんな言い合いをしていると、鍵が開く音がして父さんが帰ってきた。

「あ、お帰りなさい。お邪魔しています」

 玲が玄関までかけていって出迎えている。

「お、玲ちゃんが来てるってことは、高校最後の期末テストだな?」

「はい、明日数学なんです。でも、いつも通りできなくて、宗ちゃんに叱られっぱなしです」

 玲と父さんが一緒にリビングに入ってくる。

「どれ、お、これはちゃんと解けてるんじゃないか?」

 玲のノートを見ながら父さんが採点し始める。玲の先生役は俺の専売特許なのにな。

「宗一郎、採点して夕食にしなさい」

 俺は言われて玲のノートを採点する。途中の公式にもミスがないかよくチェックして・・・。

「玲」

「はい・・・」

 そばに立っていた玲が不安そうに俺を見つめる。

「夕食にしようか」

「わぁい!」

 玲は大喜びで母さんを手伝って、俺は勉強道具を片付けて4人でダイニングテーブルを囲む。

「宗ちゃんのお母さんのシチュー大好き」

「たくさん作ったからおかわりしてね」

「はい!」

 我が家は3人家族だけど、玲が来るだけで食卓はぐっと華やかになる。小さい頃は玲とお兄さんが羨ましくて俺も二人と兄妹だったらいいのに・・・なんて、考えたこともあったけど、今はそう思わなくなった・・・というか、兄妹じゃないことがいっそ幸せ。

「玲、あと1問解けたら終わりにしていいよ」

「うん、そしたらコンビニまで一緒に行ってくれる?」

「コンビニ?何買うの?」

「アイス」

 玲はお菓子とデザートがないと生きていけない。ついでに俺もいないと生きていけないんだといいんだけど、どうも俺はいまだアイスやケーキに負ける傾向にある。ついでにっていうか、いっそ玲の人生のメインになりたいくらいだけど。

「寒いし面倒だからやだ」

「ええっ!頑張ったんだからご褒美にコンビニくらい付き合ってよ」

「コンビニくらい行ってあげなさいよ」

「若いのに寒いなんてだらしない」

「やだよ。若くても寒い」

 父さんも母さんも玲の味方をするけど、俺は断固拒否。

「宗ちゃんの意地悪・・・」

「そんなこと言うなよ。その代わり、玲の大好きなチョコレートプリン買ってあるから、あと1問解けたらプリン食べて、帰って寝ていいよ」

 そう言えば、玲は瞳をきらきらさせて大喜び。

「宗ちゃん大好き!」



 兄妹じゃなくてよかったと思えるのは、玲がいつか俺のお嫁さんになってくれるはずだからってことだからね。




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