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クリスマスのふたり 

   クリスマスのふたり   ―――見守る聖夜―――



 いつかあんなふうに、俺たちもなれたらいいな。なんて、そう思っているのは、俺だけ?




「玲、何してるの?」

 ケーキのガラスケースと傍の観葉植物の間に隠れるようにしゃがんでいる後ろ姿に声をかければ、玲は心底驚いたらしく、豪快にしりもちをついて俺を見上げた。

「びっくりした・・・おどかさないでよ」

「声かけただけでそんな驚くようなことしてる玲が悪いんだろ」

 眉をしかめた俺を、玲は立ち上がってスカートのお尻をはたきながらにらんだ。

「勝手なことしたら、またマスターに叱られるよ」



 ここは俺たちの家から近くはないけど遠くもない、とあるホテルのラウンジ。今日は12月25日(木)でクリスマス当日だけど、俺と玲はデートをしているわけじゃない。いわゆる、バイト中。



「だって・・・もったいないんだもん」

「もったいなくっても玲のじゃないでだろ。勝手なことしないの」

 不満そうな玲からケーキ皿を取り上げる。

ガラスケースに並んだキラキラの宝石みたいなケーキ。今日はいつもよりだいぶ売れ残っている。クリスマス当日にホテルのラウンジでカットケーキを食べる人も、そうそういないってことなんだろう。

「どうせあと1時間でクローズだよ?そしたらこれ全部、さよならするんだよ?だったら!」

「だったら?」

「一切れくらい、今日最後のお客さんにサービスしてもいいかなって・・・」

 玲の視線の先には2時間ほど前から座ってフロントを眺めている一人の女性。ものすごい高さのピンヒールを履いて、フロントの藤堂さんに案内されてあの席に座った。

「玲、親切のつもりだろうけど、余計なお世話だよ」

「どうして?甘いもの嫌いなの?」

 さっき初めて見たばかりの女性の好き嫌いなんて、俺が知るわけないだろう?

 藤堂さんが女の人を連れているのなんて初めて見たけど、案内されてきた彼女がしていたグレーのマフラーは、まぎれもなく3日前には藤堂さんの首に巻かれていたもので、そのマフラーを見ただけで、二人の関係なんて、聞かなくてもわかってしまう。

「考えてごらんよ。この後、藤堂さんとクリスマスデートなんだよ?おしゃれなレストランで食事して、当然クリスマスのデザートなんだからケーキくらいつくでしょ」

 だから今、ここでケーキなんか食べてもらったら、藤堂さんのデートが台無しになる。

「そっか・・・」

 落ち込む玲に俺はちょうどよく抽出された紅茶の入ったティーポットを持たせた。

「お茶のお代わりだけサービスしてあげて」

「うん!」

 玲は嬉しそうに彼女のそばへ行って、一言二言かわして戻ってきた。



「あ、お迎えが来た」

 バイトが終わるまであと30分。

 仕事を終えたらしい藤堂さんがコート片手に俺たちににこりと微笑みかけて、彼女のもとへ向かう。一度座った藤堂さんにもお茶を出そうか迷ったが、そんな間もなくふたりがレジに向かってくる。

「ありがとうございました」

 お金は先に藤堂さんにもらっていたから、彼女には伝票を渡していない。

「ご馳走様でした。美味しかったわ」

 ここでバイトをし始めて”美味しかった”と言われたのは初めてだった。

「ふたりは、何時まで?」

 腕時計を覗く何でもないしぐささえ、この人はかっこいいんだ。

「10時なんで、あと30分です」

「そうか。じゃあ、お先。気を付けて帰れよ」

「ありがとうございます。お疲れ様でした」

 玲がテーブルを片付けている間、俺は藤堂さんとその彼女に挨拶をして、ラストオーダーが過ぎたのを確認して、レジを閉めた。



「三井くん、神崎さん」

 マスターにあがりの報告をしに行くと、ふと呼び止められた。

「よかったら、持って帰りなよ」

 俺たちの返事を聞かず、マスターはガラスケースに残っていたカットケーキを種類のバランスを見ながら二つの箱に詰めて俺と玲に差し出した。

「今日はさすがに売れなかったね」

「まあ、クリスマスですから」

「わぁい!マスター、サンタさんだったんですね!」

 ケーキをもらって子供のようにはしゃぐ玲にマスターが笑う。

「喜んでくれてよかったよ。じゃあ、お疲れさん」

「「ありがとうございました」」

 声をそろえてお礼を言って、俺たちは従業員通用口から外に出た。



「それにしても美人だったね、藤堂さんの彼女」

 玲が振り回しそうだから、なぜか俺がふたつのケーキの箱を持って、玲はぴょんぴょんと飛び跳ねているように楽しげに俺の少し前を歩く。

「そうだね」

「羨ましいなー」

 玲だってあれくらいの歳になったら結構美人になるんじゃない?と思ったけど、自分では気づいてないみたいだったから、教えないことにした。

「本当に羨ましい・・・藤堂さん」

「え?」

「だって、自分もあんだけかっこよくて、そのうえあんな美人な彼女がいるんだよ?やっぱり美男には美女がついてくるんだなー」

 俺はおかしくて吹き出してしまった。

「玲の考えって、ずれてるよね」

「なんで?」

「俺が藤堂さんを羨ましいって思うならまだしも・・・」

「え?やっぱり宗ちゃんもあんな美人と付き合いたい?」

「そんなこと一言も言ってないだろ」

 玲は何にもわかってない。こんなに長く一緒にいるのに、わかってなすぎてがっかりする。

 ため息をつきつつ電車に乗って、いつもどおり駅から20分ほどの道のりを歩いてようやく家に着く。

「あ、ちょっと待ってて」

 家に着くなり玲は俺からケーキを受け取るのも忘れてさっさと家に入ってしまう。仕方なく待っていると、ばたばたと階段を駆け上がって駆け下りて、玲が玄関に戻ってきた。

「はい、クリスマスプレゼント!」

 ケーキの箱と自分の荷物で手いっぱいだった俺の背に回り、玲は俺の右肩につかまり、ものすごい背伸びをして、なぜかプレゼントをコートのフードに入れた。

「ひとりのときに開けてね」

 毎年通りの念を押され、俺はとりあえず玲にケーキの箱を返す。それから、バイトに行くときから持ち歩いていたグリーンの紙袋も渡す。

「俺からもクリスマスプレゼント」

「わぁい!」

「中身は手袋。この前片っぽなくしたろ?」

「ありがと!」

「じゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい。いい夢見てね!」

 お互いに軽く手を振って、玲が玄関に入ったのを確認して、俺も隣の家の玄関を開ける。薄情な両親がとっくに自室に引き上げた後の真っ暗なリビングでランプの灯りだけをつけて俺は玲からのクリスマスプレゼントを開けた。編み目の若干不揃いなグレーのマフラーは顔を埋めると玲の部屋と同じ匂いがする。編み物が苦手だといったのに、俺に隠れて編み上げるなんて、なかなかやるね。




 玲からもらう、バレンタインチョコレート以外の手作りのプレゼントはこれで30個め。最初にもらった折り紙の鶴すらとってあるなんて、玲はきっと思ってもいない。





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