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先代のチートな記憶を引継ぎました  作者: 桜狐
第一章 幼年期
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第六話 ずるして噂話

五話書き直したので、その点で生まれた誤差を修正しました

大きくは変わっていないです

 マグノリアに叱られた次の日、アトラは起きると同時に全身がだるいことを感じた。

 普段ならば割りとあっさり起きられるはずなのに妙に体が重たいのは、まず間違いなく昨日魔力を使いすぎたことが原因だ。

 基本的に魔力は一晩眠れば回復するが、魔力を通している体への負担と言うのは、一晩では治らない事も多い。

 その為魔力を使いすぎた翌日などは、筋肉痛や、筋痙攣、だるさなどが現れることがあり、まさしく今のアトラはその状態だった。

 意志の力を振り絞ってベッドから起き上がれば、思い出したようにきゅるきゅるとお腹が空腹を訴える。


「うぅ……体が食べ物を欲している」


 常にない情けない声を上げて、アトラは腹をさすった。

 肉体の回復には睡眠もそうだが、やはり食事は欠かせない。

 とは言え食料庫にある食材は、全て孤児院皆の物だ。決して裕福なわけでもないし、勝手に食べるわけにも行かなかった。


「とりあえず菜園のお陰で魔法薬の材料代とかは多少軽減できるし、上手くすればちょっと位は野菜も作れるだろうからこのまま進めるとして……お腹空いたなぁ」


 普段なら稽古のことを考える為の思考が完全に食料事情の方にシフトしているのは、ある意味仕方ないことだろう。

 なんだかんだと言ってアトラの体はまだ八歳で、食べ盛り真っ最中だ。

 ぶつぶつと誰に言うでも無く食事がどれだけ大事かを訴え、二言目には腹が空いたと呻いて、アトラはゾンビのようにふらふらと菜園前に出た。

 そこで既に待っていたミリルの姿を見つけて、アトラは呻き声をあげるのを止めた。


「おはようございます、兄さま」

「……うん、おはようミリル」


 いつもと変わらない表情を浮かべるミリルに、アトラは心底ほっとした。

 もしも目の周りが腫れてでもいようものなら、居た堪れなさから全力で回復魔法を連発していたかもしれない。それこそどこかの片乳首を出した父親のように。

 とにかくミリルに心配をかけないようにしよう、とアトラは自らの優先事項を変更した。


「そ、それじゃいつも通り街の外まで走ったら、軽く打ち合おうか」

「わかりました。兄さまは今日、何を使うんですか?」

「んー、そうだなぁ。双剣、かなぁ」

「わかりました」


 今話しているのは朝稽古でどの武器を使用するのかだ。

 元々アトラは武術を修めているわけではなく、記憶にある達人たちの動きをひたすらに模倣しているだけに過ぎない。

 基本の型、とでも言うべき武器の振り方は大体一通り記憶から掘り返したが、応用や技などと言ったものに関しては戦闘時に使っているのを見ただけであり、習得の仕方も練習方法も記憶されていなかった。

 その為アトラは基本的な武器の振り方を覚えたら、後はひたすらに打ち合いを重ねて記憶の中にある技や動きに近づいていくことしか出来なかった。

 体力づくりのためのランニングを終え、軽いストレッチと素振りの後、十分一セットで三セット打ち合いを行う。

 終わればそのまま走って孤児院まで戻り、汗を流す。

 これがアトラとミリルの一日の始まりだ。

 この日も問題なくいつも通りの訓練を終え、まずは汗を流すために風呂場に向かった。もちろん入るのは別々で、順番はミリルが先だ。


「あ、アトラ、ミリル、ちょっと」


 脱衣所の前に着いた時、後ろから声が掛かった。

 振り向けばエルミアが髪を弄りながら困り顔で立っていた。


「どうしました?」

「いやね、本当は昨日伝えようと思ってたんだけど、実は今風呂場の魔導具の調子悪くてさ。上手く動かないんだよね、これが」

「……本当に今更って感じだなぁ」

「悪かったって。でもほら、元々昨日はアトラが遅くなった所為でゴタゴタしてたからな。お互い様だろ?」


 などと悪びれもせずに言われれば、アトラは口を噤まざるを得ない。


「はぁ、仕方ない。ミリル、水魔法で汗だけ流しちゃおう」

「わかりました」

「いやー、すまんね。そんなわけでアトラ、後で魔導具みてやってくんない?」


 とりあえず水浴びして服を着替えるだけでも大分違うだろうと、ミリルを脱衣所に送り込む際、後ろからエルミアがそんなことをのたまった。

 そのまま話を続けるべきか、入るべきか迷ってしまっていたミリルに先に入るように指示してアトラは脱衣所から離れた。

 壁に寄りかかると、気を利かせたエルミアがコップに注いだ水を差し出してくる。


「ありがと。でもエルミア姉さん、俺、魔導具なんて弄ったことないですよ?」

「いやー、そうは思ったんだけどさ。ほら、アトラって書庫とかにあるなんか難しい本色々読んでたじゃない? わかるんじゃないかなぁって」

「……確かにあそこの蔵書には魔導具や魔導機関に関するものもあったけど、素人が下手に手を出すものじゃないと思うんですけど」

「まぁ、そりゃそうなんだけど、もし解って直せるんならお金も浮くじゃない?」


 からからと笑うエルミアにアトラは眉間を押さえた。

 魔導具というのは魔法薬と一緒でそれ相応の専門知識が必要になってくる。間違っても本をちょっと読んだくらいでどうにかなるものではない。

 とは言え、実際のところそこらへんの知識も網羅している辺り、先代の節操のなさは流石と言えるだろう。


「……了解。一応後で見てみるよ。ただ、先にご飯食べさせて貰ってもいいかな?」


 言うと同時に盛大に腹の虫が鳴いた。思わず苦笑いを浮かべて頭の後ろをかく。


「あっははは。流石育ち盛りだね。風呂場のこともあるし、朝ごはん、ちょっとだけお姉さんがおまけしてあげよう」

「おお、それは嬉しい」

「なんだかんだ、アトラには皆世話になってるしね」


 にぃ、と笑うエルミアに、アトラは感謝の気持ちをこめて「へへー」と平伏したところ、脱衣所の扉が開いてミリルが出てきた。

 おふざけとはいえ、現状はアトラがエルミアに土下座するような格好になっており、そんなアトラをミリルは心配そうな瞳で見下ろした。


「……また、何かしたんですか? 兄さま」

「……ちゃうねん」


 思わず妙な言葉で返すと、ミリルは無言でエルミアとアトラを見比べた。


「ちょっ! ちょっと待て! 落ち着いて話を聞いてくれ!」


 心配をかけまいと決めた矢先にこんな下らない事で困らせてたまるものか、とアトラはその後全力で弁明をするのだった。




 何とか誤解を解いた朝食後、アトラは書庫から魔道具などに関する本を持ち出して風呂場に来ていた。

 約束の修理のためだ。

 ストリーク孤児院には大勢の子供達を同時に風呂に入れるためか、大きな浴槽が用意されている。

 その浴槽の後ろの壁を挟んで反対側に問題の魔導具は設置されていた。


「えーと、まず外枠外して、と。ふんふん……水を汲み上げるのとその水を温める二つの機構が仕込まれてるのか。何気に有害な物質は取り除く式もあるし……思っていたよりも丁寧な造りだな」


 呟きながらアトラは魔導具の不良箇所を調べて行く。

 周囲にはそれらしいページが開かれた本が置かれているが、一切見ていない。あくまでそちらはカモフラージュで、引継いだ知識の中から該当するものを探し当てている。

 魔導具とは大きく分けて、燃料にして動力である魔石、どういった働きをするかというプログラムの役割をする魔法式と魔法文字、そしてそれらの効果を効率よく運用するための本体で構成されている。

 アトラが見た範囲で、魔法式にも魔石にも不具合は見られない。となると本体のどこかがおかしいということになる。


「お、ここの回路がいかれてるみたいだな」


 直接本体に触れて魔力の通りなどで調べていたアトラは、問題となっていると思われる箇所を見つけた。

 丁度魔石から魔法式へと魔力を送るための回路が劣化して焼ききれてしまっているようだ。他にもちょこちょこと痛んでいるところはあるが、そこはまだ暫くは問題なさそうだ。


(これなら直せてもそこまでおかしくはないかな。他の痛んでるところもこっそり直してしまえば解らないだろうし)


 要は断線してしまった部分を繋げ直してやればいいのだ。

 これくらいなら、ちょっと齧ったくらいの知識でも直せると判断してアトラは一つ頷いて散らかしていた本を片付けた。


「お、どうだい? 何とかなりそうかな?」

「困ったことに何とかなりそう。今から必要なパーツ買いに行ってくるよ」

「お、流石アトラ! 言ってみるもんだね」


 儲けものだ、と笑うエルミアに苦笑を返し、アトラは折角外に出るのだからと、今日の昼は外で食べてくるとエルミアに告げた。

 ひらひらと手を振って見送るエルミアを尻目に、アトラは孤児院を出る。

 正午の鐘まではまだ二、三時間はあるのでのんびり出来るが、早めに済ませて混む前に食事を済ませようと足を速める。

 向かうのは魔導具も取り扱っている道具屋だ。

 店主に偏屈な所があり街外れに居を構えているが、品揃えも良く良心的な価格なので通の店として一部では有名だ。

 惜しむらくは孤児院とはほぼ真逆側にあるため、遠いと言うところだろうか。

 少し入り組んでいるが裏路地を通れば近道が出来るが、行きは帰りに寄る予定の食事処を探すためにも商店などが立ち並ぶメインストリートを歩く。

 この大通りは朝には取れたばかりの野菜や肉などが並べられる朝市が開かれるが、昼頃を境にこの朝市は食べ物屋台や雑貨、露店などが並び、軽いお祭り騒ぎになる。

 今は丁度その境目のため、小規模な市場は店じまいをし、代わりに露店商や食べ物屋の屋台が準備を始めていた。


「あら? もしかしてアトラ君ですか?」


 屋台に並ぶ商品の仕込みを眺めているアトラに、おっとりとした声が掛かった。

 声に振り向けば、普段はギルドの制服に身を包んでいるスミンが立っていた。今日は非番なのか、ライムグリーンのワンピースに白いカーディガンを羽織っている。


「ああ、スミンさん。こんなところで会うなんて珍しいですね。お仕事はお休みですか?」

「えぇ、そうなの。アトラ君もお買い物?」

「はい、そうです」


 どうやらスミンも買い物に来たらしい。話を聞けば、露店などの掘り出し物は早い時間で売れてしまうらしいので、それのチェックがてら食事に来たそうだ。

 そのままなんとなく軽く雑談をしながら大通りを歩くと、スミンから聞き捨てならない話を聞かされた。


「そういえばアトラ君は良く森に行っているみたいだけど、精霊って見たことある?」

「精霊ですか? んー、心当たり無いですね」

「そうなの……まぁ、そうよね~。やっぱり新種の魔物の可能性が高いのかしら」

「新種の魔物、ですか」


 森に精霊が出るという話もそうだが、新種の魔物が出たというのなら、その情報は是非とも欲しい、とアトラは思った。

 何時でも情報を揃えて当たれるということが無いのはわかっているが、得られる情報は得ていた方がいざという時に役に立つ。

 特に森はアトラにとってホームグラウンドのようなものだ。森に何かあれば、最悪マグノリアから森への出入り禁止を喰らうかもしれない。

 そうなったらこっそり街を抜け出すようにしなければならず、面倒なことこの上ない。


「その新種の魔物ってどういうものなんですか?」

「それがね、はっきりとした形がわからないそうなの」

「形がわからない?」

「そう。何でもこの街に公爵家の方が見えられたそうなんだけど、道中魔物に襲われたらしいのよ。その際に木の葉の渦のようなものが現れて、魔物を追い払ったそうなの。怪我も治してくれたそうで敵対的じゃなかったから、それで精霊じゃないかって噂が出てね。でもそれと同じくらいかそれ以上に新種の魔物じゃないかって話が出てるの」

「ソ、ソウナンデスカ」


 どこかで聞いたような話で、アトラがぎこちない返事を返す。

 つい昨日起きた出来事を思い返せば、アトラにとってその話が何を示しているのかがわかるというものだ。

 幸いスミンはぎこちない笑顔を浮かべているアトラには気づいていないようで、その精霊だかの所為で休み明けの仕事が大変そうだ、と愚痴を吐いていた。


「あ、ごめんね。こんな話聞いてもつまらないわよね」

「いえ、溜め込まず吐き出すだけでも楽になるものです。だから、話を聞く位なら俺にもできますんで、何時でも言ってください。今回の件は特に」

「そ、そう? ありがとうね」


 とても八歳の少年の言葉とは思えない言葉に今度はスミンがどもった。

 と、その時不意にスミンの足が止まる。視線の先には、服や髪飾りなどが並べられている露店があった。


「あ、あのお店寄ってみようかしら」

「良いと思います。お休みの日に子供のお守りなどさせてすみませんでした。俺も用事を済ませに行きますので、また、今度」


 そう言い残してアトラはスミンに対し深く頭を下げると、足早に立ち去った。

 後にはアトラの発言に目を丸くして唖然としたスミンだけが取り残された。


「なんていうか……アトラ君って、どことなく子供っぽくないのよね~」


 思わずそう零して首を捻る。しかしすぐに露店のことを思い出したのか、スミンは機嫌よさ気に露店へと足を向けた。


そろそろストックが底をつきます

次からの更新からは短い間隔での更新が難しくなると思いますので、ご容赦を


読んでくださりありがとうございます

感想などありましたら、いただけると幸いです


次回更新日>アトラが迂闊な行動をとったら


7/28 露店を露天と打ち間違っていたので修正しました

誤字の指摘ありがとうございます


2014/9/3 書き直しました

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