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先代のチートな記憶を引継ぎました  作者: 桜狐
第一章 幼年期
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第五話 ずるしておしかり

こちらの話は全体的に書き直しております

 アトラがガーネイルの街に帰って来たのは随分と遅くなってからだった。

 既に日が傾きかけており、まず、間違いなくマグノリアとミリルに叱られるのが目に見えていて、今から億劫だった。

 心情を表すようにとぼとぼと歩く姿は、年頃の子供にしか見えない。

 アトラは己の無力さを噛み締め、大きなため息をついた。

 それというのも、遅くなった理由が魔力を使いすぎたからだった。

 襲われた馬車を助けるために大分無茶な魔法の使い方をしたこともそうだが、迷った後どうせだからと木の実や山菜、茸や野鳥などを回収して回っていたら魔力が心もとなくなったのだ。

 幾ら規格外と言えども八歳の体は真正面から魔物と対峙するには厳しい。身体強化魔法にも限度があった。

 それに元々受け継いだ知識は魔法に偏っていて剣術や体術と言ったものは我流でしかない。

 不意打ちや魔法による後押しが無ければ、正直に言ってこの森の魔物と戦える自信が無かった。やってやれない事はないだろうが、無傷での勝利は難しくリスクとリターンが合わない。

 その為できるだけ省エネを心がけ、所々で休憩を挟みながら気配を消し、魔物に会わない様に慎重に移動した結果、街に辿り着いたのがこの時間だった。

 森を抜け、遠目にだが街の外観が窺えた時は、ほっとした。

 日々の鍛錬で魔力量は増え続けているとはいえ、ペース配分をもっとしっかりしようと心に決めた瞬間だった。

 街の外壁に近づき、出入り口の横にいる既に顔馴染みになった門番と挨拶をする。


「おや、アトラ君。今日は随分遅かったみたいだね」

「はい、ちょっと採集に夢中になっちゃって」

「ははっ、まぁ、何かに夢中になれるのは良いことなのかも知れないけど、森は危ない。それを忘れたらダメだよ?」

「……すみません」


 彼は面倒見が良いらしく、軽く笑いながらも目だけは真剣に忠告をしてくれる。

 最初に森に出かけた日も色々と注意してくれて、戻ってきた時にほっとした表情をしていたから、きっと優しい人なのだろう。

 だからこそ余計に耳に痛かった。

 肩を落とすアトラに、彼は無意識にだが更に追い討ちをかけた。


「そうそう、ちょっと前にミリルちゃんとマグノリアさんが、アトラ君が帰ってきてないか心配して聞きに来てたよ。早く帰って安心させてあげるといい」

「………………」


 親切心からの申し出なのだろうが、アトラは内心ため息をつかざるを得なかった。


(そりゃ……心配かけちゃったよなぁ)


 ただでさえ今のアトラは八歳児だ。一人で魔物がうろつく森に向かうと言うだけでも心配をかけているだろうに、更に予定よりも大幅に遅れたとなれば何かあったのではと思われても仕方ないだろう。

 だから帰って来た孤児院の外門の両端に立っている人物を見つけたとき、アトラは全力で回れ右をしたくなった。

 マグノリア先生とミリルが、そこに立って待っていたのだ。

 だがここで逃げ出すわけにも行かず、そろそろと近づくとまずミリルが気がつき、次いでマグノリアが視線をこちらに向けた。

 二人とも安堵に顔を綻ばせ、ミリルなどは目尻に涙を浮かべた。


「ええと……ただいま戻りました」


 おずおずと声をかけるとパン、と乾いた音が響いた。

 遅れてじんじんと左頬が痛み、マグノリアに叩かれたのだと理解した時には、彼女に抱きしめられていた。


「心配したんですよ、アト。この数時間、どれほど心配したか」

「……マグノリア先生」


 いつもは穏やかで張りのあるマグノリアの声が僅かに震えている気がして、アトラは俯いた。

 更にそんなアトラに追い討ちをかけるようにミリルが後ろから抱き着いてくる。

 顔を擦り付けているのか、ぐりぐりと動いて痛いが、少し湿った感じが布越しに感じられ、アトラは居た堪れない気持ちになった。


「良いですかアトラ。我侭を言っても、迷惑をかけても、心配をかけても構いません。私達は家族ですから。ただ、無茶だけはしないで……貴方に何かあれば、皆が悲しむんだから」

「……ごめんなさい」


 素直に、申し訳なかったという気持ちを込めて、一言謝った。

 一先ず無事を喜んでくれた二人だったが、孤児院に入った後でアトラはマグノリアからしっかりとお叱りを受けることになった。

 マグノリアの叱り方は、静かで、重い。

 アトラの無茶を窘め、院の子達が真似したらどれほど危ないかを語ったり、一つ間違えば大きな怪我を負うかもしれないと言う話も聞かされた。

 何でも昔同じように森で狩りをして孤児院を助けていた子供が何人か居たそうなのだが、ある日大怪我をしてそのまま帰らぬ人となったらしい。

 マグノリアがまだ幼少期、この孤児院に居た時の話らしく、普段聞くことの無い彼女の昔を持ち出すほど心配をかけてしまったのだと思い知らされた。


「アトが森に入ることを私が許したのは、貴方はダメだって言ってもこっそりと行ってしまうと思ったからよ。貴方は他の子よりも賢い子だし、普通の子よりも物覚えも速いから。別に今日のことがあったからといって森に入ることを禁止したりはしないけれど、もう少し回りのことを考えなさい」

「……はい」

「それに、アトは色々と皆に教えて回っているけれど、特にミリルには手をかけているでしょう? ちゃんと責任は取らないといけませんよ」


 そう言って未だに腰に張り付いて離れないミリルに優しい眼差しを送った。

 ミリルは泣きつかれたのか、今はアトラの腰にしがみつき、アトラの膝を枕に眠っている。


「たぶん、ミリルは他の子よりもずっと色々なことの出来る子に成長するわ。ただ、その分迷うでしょうし、困ることもあるかもしれない。その時は助けてあげないとダメよ?」

「……わかりました」


 アトラの返事を聞いて、マグノリアは立ち上がった。

 お説教は終わりらしく、眠っているミリルを揺り起こして食堂に向かった。

 向かったのだが、アトラが取ってきた獲物の肉や食材は、育ち盛りの欠食童子たちに食い尽くされていて、アトラ達の食事には入っていなかった。

 申し訳なく思ったアトラが、『空間収納(アイテムボックス)』に仕舞ってあった鶏肉を自ら調理してミリルとマグノリアに振舞ったことを追記しておく。



感想などありましたら随時お待ちしてます

ここまで読んでくださり、ありがとうございます


次回更新>7/27 予定



2014/9/3 書き直しました

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