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第十七話 ずるしてキャラバン進行

第十六話あとがきにも書きましたが、十六話にてアルトリアとの文通の件の対応策と催眠魔法の効果について加筆しました

 出発当日、アトラはそこにいた人物達に少しばかり驚かざるを得なかった。

 と言うのも、そこにはレイバン率いる商人と使用人以外に、明らかに護衛と思われる冒険者達がいたからだ。

 どういうことだろうか、とアトラは注意深くその人物たちを窺う。

 商人が街の間を移動する際には必ずと言って良いほど護衛が付いて回るのだが、大きな商隊ではなく、小規模な商隊や行商人が集まって目的地を目指すキャラバンの場合、その護衛は大きく分けて二つに分かれていた。

 一つはキャラバン全体で金を出し合って雇う冒険者の護衛だ。

 こちらはキャラバン全体を護るためにかなりの人数になり、必然的に十把一絡げのような者達や、時折新米冒険者なども混じる為、練度に若干の不安を覚えざるを得ない。

 その為、金のある行商人は全体とは別で個別に冒険者を雇ったりもする。

 キャラバンの護衛はそんな形で全体と個別で雇われる護衛に分かれているのだ。

 アトラ達が世話になる予定のレイバンの行商隊は大して規模も大きくなく、とても個別で冒険者を雇えるとは思えない規模だった。

 だからこそアトラは不思議に思っていたのだが、冒険者達とレイバンの間で交わされる親しげな会話になんとなく事態を察した。


「やぁ、レイバン。今回は僕達が付かせて貰うよ」

栄光の炎(グランドフレイム)の面々とはまったく恐れいるね。こんなしょぼい商人の護衛でいいのか?」

「遠慮すんなよ、レイバンの旦那。俺達の仲だろう?」


 どうやらこのレイバンという男、冒険者達の間で顔が利くらしい。その伝手でこうして護衛を雇えたのだろう。

 親しげな会話を繰り広げながら、肩を組んだりする様は商人と冒険者と言うよりは、ただの仲間と言った雰囲気だ。

 リーダーと思われる爽やかなプラチナブロンドのイケメンは親しみの中に尊敬の色が見え隠れしているし、現在肩を組んでいる野性味を帯びた浅黒い肌の赤髪の男は遠慮と言うものが見られない。

 彼らの後ろに控えている杖を持った金髪のエルフや、猫耳の少女も似たような眼差しでレイバンを見ていた。


「それにしても見かけない子供がいるね。また奴隷でも買ったのかい? レイバン」


 そんな中、リーダーがアトラ達に気が付いたようで、そんなことを口にした。

 それに苦笑を返しつつレイバンは顔の前で手をひらひらと左右に振る。


「ちげぇよ。そいつらは西の街に行きてぇっていうから一緒に連れてってやろうと思ってな。それを奴隷だのなんだの言ったら失礼ってもんだろうが」

「そ、そうなのか。いや、ごめんよ。悪気は無かったんだ」


 レイバンの言葉に驚きつつもリーダーの青年はアトラ達に向かって謝罪した。

 なんでもレイバンはよく奴隷を買っては下働きとして使っているということらしい。その割りに周囲に奴隷の首輪や印を刻んだものは見られない。

 恐らく奴隷達は『一人立ち』したのだろう。それが会話の端々から理解できた。

 もしかするとこの冒険者達も昔は奴隷として買われた口なのかもしれない。

 とは言え、子供相手だろうと素直に頭を下げることの出来る青年と、そんな連中に慕われるレイバンに対してアトラは好感を持った。


「いえ、気にしてませんので。俺はアトラって言います。それからこっちはミリルです」

「そう言ってくれると助かるよ。僕は栄光の炎っていうクランのリーダーのロイド。そっちにいる赤い髪の男がジェイルで、向こうにいるエルフがエクレール。その隣の猫の獣人がミラン。今回君達とレイバンを護衛することになったんだ。よろしくね」

「はい。よろしくお願いします。それに道中こき使われることになっているので、奴隷と似たようなものですから」


 差し出された手を握り返しながら、茶目っ気を出してそんなことを言うと、白い視線を向けられたレイバンがもごもごと口ごもりながらも、最後に不貞腐れたように舌打ちした。


「ははっ、口は悪いけれど、レイバンはそんなに悪い奴じゃないから心配しなくていいよ」

「はい。今の皆さんのやり取りでよくわかりました」

「本当にこき使ってやるから、覚えてろよガキ!」


 強面で吼えるレイバンは小さな子供が見たら泣き出すどころか、悲鳴すら上げずに洩らしそうなほどの迫力があるのだが、この状況では照れ隠しだとわかりきっていた所為もあって笑いを誘うだけだった。

 アトラ達はそんな風に笑いながら王都を出発したのだった。


 果たして道中アトラ達はこき使われているかといえば、やはりそんなことは無かった。

 事前に話したとおり食事の準備や馬の世話はアトラ達に任されたが、途中に何度かあった荷卸と荷運びは栄光の炎の面々が手伝ってくれることもあって余り出番が無かった。

 それどころか荷馬車が荷物で一杯でなければアトラ達は荷台に乗せられ、余り歩かないように気を使われたくらいだ。

 そのお陰でアトラ達は荷物として馬車で運ばれている間は、こっそりと魔法薬や薬を作ったり、アクセサリーなどの小物にちょっとした魔法を組み込んで魔道具を作るなどして有益な時間を過ごせた。

 途中何度か魔物に襲われたりはしたものの、数が少なくたいしたことが無かったこともあり難なく撃退されていた。

 その際にアトラはロイドたちの戦力を測っていたが中々の手練れ達だった。

 個々の能力もそうだが、何よりも連携が上手い。

 斥候職と思われる猫獣人のミランが短剣片手に投げナイフと合わせて撹乱し、背丈ほどもある大剣使いのジェイルが敵を薙ぎ払う。

 その際の隙を埋める形でエルフであるエクレールが状況に合わせて攻撃か防御の魔法を展開している。

 リーダーのロイドは片手剣にラウンドシールドと攻守にバランスよく、更に身体強化以外にも火魔法まで使えるオールラウンダーで、全体の穴を埋めるように動いていた。

 難点を挙げるとするなら、唯一索敵だろうか。主にミランが周囲の様子を警戒しているようだが、獣人特有の鋭い五感、中でも聴覚に頼っているところが大きい。

 四人だけの旅なら問題ないだろうが、キャラバンなどの大勢で移動する場合はその足音や話し声が邪魔になってその本領は発揮されないようだ。

 範囲探索をエクレールが使えばいいのだが、四六時中使っていては魔力が持たない為気になる時以外は使用しないのが普通らしい。

 なのでアトラは時折危なそうな気配を感じた時は、こっそりとヒントを与えるようにしていた。

 今回もなんとなく嫌な雰囲気を感じてばれないようにこっそりとエリアサーチを使ったところ、かなり離れたところではあるが、生物の群れを見つけた。

 少し詳しく調べれば、それが人の集まりであることがわかる。

 今は小高い丘を登る街道なのだが、両サイドに森があり、向かって右側に一メートルほどの段差がある。

 人や馬は乗り越えられる高さではあるが、馬車を引いては上れない高さだ。

 こんな人里離れた場所の森の中に隠れるように潜む人間の集団など、盗賊以外の何物でもないだろう。

 このまま丘を進んで勾配が上がる頂上付近で襲われれば、大所帯のキャラバンは身動きが取れなくなる。

 そうなれば最後尾はまず逃げ切れないし、咄嗟に迎撃するにも被害が出るだろう。

 そう判断してアトラはミリルに視線で合図を送ってからひょこりと馬車から顔を出した。


「あ、ロイドさん、ちょっと今晩の晩ご飯用に野草探してもいいですか?」

「もちろん。アトラ君たちのお陰で、キャラバンで出される食事とは思えないほど美味しいものを食べさせて貰ってるからね。ミラン、周囲の見回りがてらアトラ君たちの護衛頼めるかい?」

「もち、オッケーだよ」


 非常に軽い感じで返事が返ってくる。キャラバン自体が結構な大所帯なので進む速度もそれほど早くないこともあり、多少遅れても走ればすぐに追いつけるのもあるが、これまでの食事でしっかりと全員の胃袋を掴んだのが大きいだろう。

 過去の転生者のお陰で、調味料に関しては希少なものはあっても大体が出揃っている。もちろん王都で購入済みだし、この馬車でも最低限用意されていた。

 転生者の食への執念の賜物だ。お陰で異世界の調理法を無理なく再現できていた。


「すみません、レイバンさん。ちょっと離れますね」

「おう。気をつけろよ。後俺は葉物よりも肉の方が良い」

「はーい、献立考えておきますねー」


 晩御飯のリクエストを受けつつ、ミランと一緒に森に入る。

 基本的に皆好き嫌いは無いが、唯一エルフであるエクレールだけ油っぽいものが苦手らしいので、そこだけ注意を払う必要があった。

 森を掻き分けて進むのは慣れたもので、ミリルと一緒に手早く採取できる野草や木の実を集めつつ、ミランを目的の場所に誘導する。

 目的地に辿り着いたところでアトラはさり気なく小銅貨を一枚ミリルに落とさせ、あたかも採取のついでで発見したというように声をあげた。


「あっ、小銭みっけ!」


 そう言ってミランを振り返って小銅貨をミランに見せた。

 途端、ミランの視線が鋭さを帯びる。

 それには気付かない振りをして、アトラは声を弾ませた。


「こんな所で小銭拾えるなんてラッキーですね。自生してる野菜も取れましたし、運が良いです」

「ううん、もしかするとその逆かもしれない。いや、今気がつけたのは運がいいのかも」


 そう言ってミランはアトラには視線を向けずに視線をアトラの足元へと向けている。

 そこには僅かではあるが、人が移動したであろう足跡が残っていた。よくよく観察すれば、茂みなどにも人が移動した形跡が見て取れる。

 人里が近ければ珍しくも無いものだが、人里離れた街道近くではそうあることではない。

 それにこうした痕跡は、周囲に自然があればあるほど風化が早く、消える。

 残っているということは、比較的最近誰かがこの場所を通ったということだ。


「アトラ君、ミリルちゃん、採集はちょっと切り上げても良いかな?」

「はい、大丈夫ですけどどうかしましたか?」

「うん、ちょっとね」


 良いながらもアトラ達に心配をかけないためか、ミランはにぱっと笑った。

 しかし笑みは浮かべながら視線は鋭く周囲を見渡し、特定の方向に向かって進んでいく。


「足跡は街道まで出てない。森の奥から人が通った後、位置的にちょっと拙いかも……アトラ君、ミリルちゃん、悪いけどキャラバンまで走って戻るよ!」

「は、はいっ!」


 アトラ達の返事を聞いてミランは走り出した。とは言ってもアトラ達が付いて来られる程度の速度だが。

 こうした具合に規模が大きそうだったりする盗賊や魔物の襲撃に気付けるよう、アトラは密かに誘導しているのだった。

 今回も盗賊の襲撃を事前に察知することができたので対策を練る時間が取れ、無事被害を出さずに返り討ちにすることが出来た。

 その場で切り捨てられる盗賊に思わない所が無いではないアトラだったが、この世界では先代の元いた世界よりも命が軽い。

 生きる為にも殺しにくる相手を助けてやる道理は無かった。

 通り過ぎる際にほんの僅か黙祷を捧げて、アトラは荷馬車に戻った。


「はい、お待たせしましたー。今日はエクレールさんが仕留めてくれたホロホロ鳥を使った香草蒸し焼きと、その鶏がらと茸で出汁をとったゴマ風味野菜スープです」


 そんな血生臭いことがあった日でも、変わらずにお腹は空く。

 自分達の代わりに荒事を片付けてくれているロイドたちに感謝しつつ、アトラは自分に出来る最大限の料理で皆を労うのだった。



今回はさり気なくチートを発揮しています

若干のんびりした雰囲気を楽しんでいただけたらと思います


ちなみに調味料は醗酵が難しい醤油なども作られていますし、マヨネーズもあります。流石に醤油などは作っている場所が少なく、貴重品で高いですが。

そして思い出したかのように他種族が登場です

名前付きのキャラを出すと、どうしても使いたくなるのですが、この移動を終えていこう出てくるのか、今から不安です

国跨ぐと使えなさそうですよね。もう一話二話は登場予定ですが、それ以降出て来なさそう。


それはさておき、ここまで読んで下さりありがとうございます!

感想やアドバイスは随時受付中なので、何かありましたらよろしくお願いします!


9/27

咆哮→方向に誤字修正しました

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