第十一話 ずるして王都到着
予想外の大物との戦闘が発生したため、予定よりも遅れてガーネイルの街まで戻ると、随分と門の辺りが騒がしかった。
アトラは何事かと思いつつもいつも通りフェイクの獲物を担いで近づいていく。すぐにこちらに気づいた門番の兵士さんが慌てた様子で近づいてきた。
「アトラ君! ミリルちゃん! 無事だったんだね!」
兵士の叫び声にあわせ、マグノリア院長まで顔を出し、アトラ達二人を確認すると安堵の表情を浮かべながら同じように駆け寄ってきた。
どことなく目も潤んでいる気がする。
「アト、ミリル……本当に良かった。無事に帰ってきてくれて」
「ええっと……何かあったんですか?」
困惑気味なアトラの問いには、横にいた兵士が答えを返してくれた。
「実は辺境のほうからワイバーンが一頭こちらに飛び去ったという情報が冒険者ギルドを通して届いてね。今特別警戒令が出てるんだ。いざという時のために討伐隊も編成されてる」
「……討伐隊、ですか。何人くらいですか?」
「んー、今のところ街にいる高ランクの冒険者や衛兵を集めて十人から二十人の討伐隊が二つできてたと思うよ」
真剣な表情で語る彼からは、嘘が感じられなかった。アトラの目が点になる。
(あれ? ワイバーン討伐に十人以上の冒険者が必要? 二人で倒しちゃったけど、これっておかしいのか?)
ここに至って漸く、アトラは自分の実力がどの程度のものなのかというのが気になった。
一先ず余計なことを言わないようにミリルに耳打ちしてから、再び兵士の方へと向き直る。
「あの、ちょっと聞きたいんですけど、この森に住む魔物……例えばレッドベアとか倒すのに、冒険者って何人くらいで挑むんですか?」
「レッドベアかい? もしかして遭遇したのか?」
「いえ、その……遠目にちらっと見かけたので逃げたんですけど、一応参考までに」
「そうか。それは正しい判断だよ。レッドベアはBの下級クラスが数人で狩る大物だ。Bの中級位になれば、単独で狩れるものもいるだろうけど、それくらい危ない」
門番の言葉に、アトラは愛想笑いを浮かべてお礼を言ったが、少しばかり頬が引きつっていた。
門番の言っていたクラスというのは、冒険者につけられているある程度のランク付けだ。大きくABCの三つの区分けにされ、その中でも下級、中級、上級と分けられていた。
一応その最上位としてSランクがあるにはあるが、これは国家規模の功績を出したものに王族などが送る特別なランクとなっている。
Cランクが見習いや新人と言ったくくりで、Bランクが一人前からベテラン、Aランクが一流と言った具合に大まかにその人物のレベルがわかるようになっているのだが、レッドベアはその冒険者の中でもベテランクラスでもなければ狩れない魔物ということらしい。
確かに魔法も剣も通りづらいし、攻撃は当たれば重く、見た目の割りには素早くタフでもある。
それでも不意打ちとは言え、アトラは八歳で仕留められた魔物であった為、そこまでランクが高い相手だとは思っていなかった。
ちなみにワイバーンは倒すだけならBランク上位が五人もいれば倒せるらしいが、安全に狩るならその倍は必要なのだそうだ。
(もしかして俺やミリルってそれなりに強いのか?)
ここまで来てやっとアトラは自分の実力に気づき始めた。
目標にしていたのが先代含む化け物揃いであったのだから仕方のないことなのかもしれないが、それにしても周囲に対して無頓着だったと反省した。
「とにかくアト、ミリル。明日の出発は見送りなさい。多少日程に余裕を持っているのでしょう? この状況では危ないわ」
「えっ! いや、その、ワイバーンですか? それらしい影なら東の方に飛んで行くのを見かけましたよ?」
「何! 本当か?」
マグノリアから出立の延期を求められ、アトラは慌てて嘘を吐いた。それに隣にいた兵士が食いつく。
ガーネイルはアデン国南東の外れに近く、ここから東と南に向かうにつれて未開の土地が広がっている。南側に辺境都市があるので、東に飛んだと言えばほぼ間違いなく辺境に帰ったということになる筈だ。
「はい。遠目ですが緑色の大きな生き物が東に向かって飛んで行くのを見ました。今まであんな大きな空を飛ぶ魔物は見たことないので、多分間違いないと思います」
「そうか……わかった。その情報は必ず討伐隊の方に伝えて置こう」
門番が神妙な面持ちで頷く。
「でもそれを確かめるためにも時間が必要でしょう? 良いから明日の出立は諦めなさい」
「ですよねー」
すぐさまマグノリアに言い返されれば、これ以上アトラに反論する事はできなかった。
この四年彼女にはある程度の行動パターンというものが読まれてきている。流石は孤児院を纏め上げる院長であり、アトラの育ての親だ。
言われるがままアトラはすごすごと引き下がって孤児院に連行されていく。
結局翌日の出発は見送りとなった。乗り合い馬車に関しても、幾らなんでもワイバーンが出る可能性のある街道を行こうとは思わないので安全だと判断されるまで出る事は無く、アトラ達が街を出るのはそれから三日後になった。
その間に壊れた武具を作り直したり、予定よりも出発が延びたことで喜ぶ家族達と最後に遊んだりして過ごしたので、別段悪いことではなかった。
送別会や出発の見送りの際には泣く子達も多くいて、アトラも釣られてぐっと来たのを我慢した。
ミリルもやはり寂しいのか、街の入り口でまだ手を振っている皆を見て少し涙目だった。
それでも残るつもりがないと知っているので、アトラは何も言わずにただ小さくなっていく家族の影を見続けた。
その姿がやがて見えなくなった頃、アトラはミリルに声をかけた。
「さ、哀しむのはお仕舞いだ。なんかあったらまた会いにくればいいんだよ」
「……はい、そうですね」
アトラの言葉に頷いてミリルが顔を上げた。
街に留まっていた商人や馬車が一斉に出発したため、周囲は馬車やら護衛の冒険者やらで一杯だ。
そんな中、アトラ達を乗せた馬車はごとごとと揺れながら街道を走っていった。
ガーネイルから王都アデンまで最短の距離を進んでも半月は掛かる。
更に難所と呼ばれる山脈を越えたりした時や、馬などの体調を見て疲れを癒すための休養日を挟むため、普通の旅人や商人は王都まで二十日程度の日数を見て行動する。
そう、普通ならば、だ。
アトラとミリルは村や町を行き来する荷馬車や乗合馬車が出ない時は、自分の足を使っての移動を繰り返した。
足場の悪い森の中に比べたら街道を走るのは楽だ。魔法によって強化された二人の速度は馬車よりも余程速い。
王都に着くまでほぼノンストップだ。流石に何時間も走るのは辛いので、長距離の時は休みを挟んだりはしたが、それ以外の休憩は夜寝る時か馬車での移動時くらいのものだった。
結果王都まで二週間をきる十二日程で辿り着いていた。
今は王都に入るための手続きをするため、外壁の外で順番待ちをしている。
高さ五メートルほどの、材質のいまいちわからないのっぺりとした壁が王都を護る外壁として遥か彼方まで続いている。恐らく魔法で作られたのだと思うが、随分と立派なものだ。
他にも哨戒用の塔などや兵士の詰め所と思われる建物も見て取れて、王都というよりも砦や関と言った感じだ。
(先代の世界にあった万里の長城みたいなものかな)
他部族の進入を防いだという万里の長城も、魔物の侵入を防ぐこの外壁も、自らの領土を護るという観点では同じだ。
どこまでも続く長い外壁を眺めて物思いに耽っていると、漸くアトラ達の番が来たらしく、隣にいたミリルがわき腹を突いて教えてくれた。
「次!」
「あっとと、俺たちです」
門番に呼ばれたので慌てて駆け寄り身分証を差し出す。
ガーネイルの街を出る前に発行してきた身分証だ。とは言ってもガーネイルの街出身ということと名前くらいしか記載されていない。
ただ、こうした身分証がないと他領に入る際の手続きが面倒になり、関税として一定の金額を支払わなくてはならなくなる。
一生を生まれた街で過ごすなら無くても困らないが、貴族の納める領を渡るような長距離移動をする際にはあったほうが何かと便利なものだ。
「ほう、わざわざガーネイルからここまで来たのか。大変だっただろう」
「はい。もうへとへとです」
「うむ。問題ない……この先の広場から西に少しずれたところにある宿屋は値段が安くて飯が美味い。おススメの宿だ」
「え?」
「ほら、さっさと入れ! 後がつかえている!」
思わず聞き返したアトラに、門番は高圧的な態度でアトラたちを壁の内側に押し込んだ。
若干照れくさそうに顔を逸らしてはいたが。
どうやら子供だけでここまで旅してきたアトラ達に何か思うところがあったらしい。
「……ありがとうございます」
「ふんっ」
お礼を伝えると、鼻を鳴らして無視するように仕事に戻っていった。
そんな門番の様子にアトラはどこか微笑ましいものを見るような生暖かい視線を送った後、邪魔するのも悪いだろうと街道を進む。
街中は兵士の姿が多く、領民の姿は少ない。
それというのも、アデン王国の王都は少々変わっているからだ。
こういうのもメガロポリスと言って良いのだろうか。王城のある城下町を中心に、六つの領が存在し、各領の大都市が王都からほぼ等距離に作られていた。
中央の都市からそれぞれの都市までは馬車に乗れば数時間で辿り着ける距離にあるため、人口の大半はそこに集中している。
王族自体が城下町以上に納める土地を持っていないこともあり、周囲の六つの領を含める形で王都としているのだ。
もちろん領に都市や街が一つと言うわけでもないので他にもちゃんと街等はあるのだが、王都ほど人口は多くない。特に外壁周辺は少ない傾向にあった。
これの理由もちゃんとある。数十年、もしくは数百年に一度、魔物が異常発生して人の住む街が襲われるのだ。
この異常発生はいつ起こるかわからない。百年以上も無かったこともあれば、数年で再発生することもあったそうだ。一応異常発生が起きる時は事前にわかるらしいが、向こう十年以内、と言った具合に大雑把な予測であるらしい。
それ故にアデン王都には城下町、周辺都市を護る外壁以外に、六つの領地を護る巨大な外壁が作られており、それがこの場所だ。
この辺りの人口が少ないのも頷けることだろう。
むしろそういった理由があるにしては、この辺りは田畑が多く、一部には水田らしきものもあってアトラは驚いたくらいだ。
「とりあえず今日はさっきの門番さんのおススメの宿に泊まって、明日王都に出発。んで明後日に公爵家を訪ねに行こう」
「そうですね。まさか王都内部に入ってから、本当の意味で王都と呼ばれる場所に辿り着くまで馬車で半日以上掛かるとは思いませんでした」
「まぁ、領が六つ……王都部分をあわせれば七つ分の面積があると考えると当たり前なのかも知れないな」
実際中央は城下町しかないのだから、六つ分かも知れないが。
そんなことを考えながらアトラは門番が言っていた宿屋に泊まって一晩を過ごした。
彼の言っていた通り、値段も手頃で料理の美味しい宿だった。
ようやくアトラ達が自分の異常さに気がつき始めました
ここからは自重させていくつもりですが、実際のとこは自重にならないと思います
ようやく冒険者のランクとかの説明も出来ました
色々迷いましたが、上中下でそれぞれ三ランクずつにすることにしました
ステータス表記とかどうしようか迷い中です。普通にランクで表記とかの方が良いのか、数値などにしたらいいのか、それともはっきりとさせない方が良いのか……迷います。どうしたらいいものでしょうね?^^;
後、メガロポリスのところの表現あれで良いのかしら。何か良い表現とかありましたら誰か教えてください
ここまで読んでいただきありがとうございます
意見、感想ありましたら宜しくお願いします
次回更新は未定です。多少書く時間は取れているのですが、他にも色々とやることがあって思うように進んでない今日この頃。
ちょっと遅くなるかもしれません
2014/9/3
大きな変更点はありませんが、王都に向かう理由付けの点で多少修正など行いました




