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先代のチートな記憶を引継ぎました  作者: 桜狐
第一章 幼年期
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プロローグ 全ての始まり

 凄く、凄く長い物語を読み終えた時、余韻に浸って自分がどこか遠くから来たような、現実と乖離したような感覚を覚えることがないだろうか。

 どこか自分が遠くへ行ってしまったような、逆に自分が物語の主人公になってしまったような、そんな感覚の果てに少年アトラは……。


 意識を失った。






 目を覚ますと見慣れない天井がまず目に入ってきた。

 何が起こったのだろうか。そう記憶を掘り起こそうとしてアトラは眉を顰めた。

 溢れかえってくるのは”自分のものではない膨大な記憶”と、倒れる直前までの”僅かな記憶”だった。

 一度記憶を掘り下げるのをやめ、大きく深呼吸をする。心臓が早鐘を打っていた。

 ゆっくりと上体を起こし、周囲を見回す。どうやら時刻は明け方らしく、所々ほつれたカーテンの向こうから僅かながら日の光が差し込んでいる。

 そうやって周囲を見回して、アトラはようやくここがどこなのか思い出した。

 見慣れないと思ったら、ここは自分の普段寝起きする子供部屋ではなく、来客用の寝室だった。


「そうだ……ようやく整理できてきた」


 そう言ってアトラはベッドから飛び起きると、姿見の前に立った。

 この世界では珍しい黒い髪に黒い瞳。幼いがバランスは取れていて、このまま行けばそれなりの見た目に成長できるだろう顔立ち。

 ただどうしても朴訥として地味という印象が強い。


「……それにこうして改めて見ると、ちょっと女顔かも」


 残念そうに呟きながら、自分の頬を捏ねていたが、すぐに諦めたように手を離してベッドに腰掛ける。

 改めて座ってみると、随分と硬いベッドだった。余り質の良くないシーツを撫でながら、ゆっくりと目を閉じて思考の海に潜る。

 硬いベッドも質の悪いシーツも仕方が無いことだろう。なぜならここに余分なお金は無いのだから。

 ストリーク孤児院。それがアトラの寝起きするこの館の名前だ。

 部屋数二十。大きな物置と子供が走り回れるだけの広場や庭を持った孤児院ではあるが、開院してから既にニ百年以上経っていることもあり、館はあちこちがたがきはじめている。

 そして現在この館には二十人近い子供達が共に生活をしていた。

 例年通りであったなら院長であるマグノリアが作る魔法薬の売り上げや、成人して卒院した“家族”からの仕送りで最低限は生活できる。

 だが今は館の修理に、新しい家族の増加にと経営が圧迫されていた。

 加えて最近やって来た新領主が敷地単位の税を引き上げると言う政策を行ったのが響いている。

 そう言った理由があってマグノリア院長は初代院長が残した遺産を売りに出すことを決めたのだが……それが今の自分を生み出す原因となった事を思い出してアトラは深くため息をついた。

 初代院長は創設者と言うこともあって、資金は潤沢だったのだろう。年代ものや曰くつきの珍しいものなどを大量に集めていた。

 そういったものは孤児院の物置に集められ、初代院長が亡くなった後は孤児院の財産として引き継がれてきた。

 この遺産は酷い嵐に遭った時の修繕費や、子供が病気になった時の治療費として少しずつ売られ、その都度孤児院を救ってきた。

 そうした経緯があるのでマグノリア院長は今回も同様に孤児院を存続させるために幾つかの骨董品を売りに出すことにしたのだ。

 年長者を中心にして物置から雑多なものが運び出された。

 アトラも重たいものは持てないものの、軽いものの整理くらいなら、と手伝いをしていた。

 埃っぽい物置を換気しながら、壊れにくい置物や本などを運び出していく。

 その中の一冊。

 白地の何も書かれていない紙を重ねた、本とも言えないような素人が作ったと思われる紙束。

 何気なく手に取ったその紙束は特定の才能を持った存在にのみ働きかける呪具だった。

 効果は、呪具に封じられた知識と記憶の継承。

 地球という異世界からこの世界に来た男の、その一生の全て。それを僅か五歳のアトラは引き継ぐことになった。

 人格というのはひたすらの試行錯誤(トライアンドエラー)の末に形成される。五歳というようやく自我が形成され始めた最中に、他人の膨大な知識と記憶を見せられた。

 結果としてそれは統合されてアトラという人物をベースに、精神面だけを急激に成長させた歪な子供を生み出した。


「恨みますよ、ユウトさん」


 それ故にアトラが次に浮かべた表情は、とても五歳児とは思えない諦観の念を孕んだ苦笑だった。



単純に主人公が強い物語を書きたくて書き始めました

勢い任せな部分も有りますが、頑張って書いていこうと思います

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