創作彼女を知らぬ者
創作に全てを捧げるあの人。
あの人の過去に何があったのかは気になるが、目の前の古びたノートと手紙の束。
これはあの人の歩いてきた道で結晶で、あの人が封印した物なのだろう。
そう考えれてしまえば俺はそんなものを見る気にはならない。
否、なれない。
今でこそ幸せそうに笑うあの人。
あの人の泣き顔を苦悩を俺達は知らない。
あの人も語らない……。
だと言うのに俺達が勝手に覗き見ていいものなのか。
あの人…母の部屋で俺達は母のいない間に、母の秘密に母の過去に触れようとしている。
パタンッと母の新作の小説を閉じた。
それなりの年齢になったはずの母は未だに学生心溢れる作品を発表し続ける。
いつから母は恋愛小説を書くようになったのか。
いつから創作に関わっているのか。
やはり俺達は何も知らない。
「お兄ちゃん、見ないの?」
母のノートを手に妹が問いかける。
俺は本を傍らに置き、ノートが見やすいように身を乗り出す。
……ごめん、母さん。
心の中で小さな謝罪をするが俺はきっと、それよりも好奇心の方が大きかっただろう。
人というのは好奇心が旺盛らしい。
俺を教訓にあまり余計なことに首を突っ込まないように心がけて欲しいものだ。
反面教師と言う奴か……。