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結果を言えば、僕の圧勝だった。周回差どころか、もう少しで二周差になりそうなくらいだった。彼女は、壁に衝突してばかりで、勝たせるためには、もはや逆走するしかないんじゃないかと思うほどだった。ただ、逆走すると、手を抜いていることが明らかだ。
―うーん。なんて言えばいいんだろ―
僕が黙っていると、彼女はコントローラーを机に放り投げた。
「あー、負けちゃった。でも、約束だから仕方ないよね。」
彼女がこちらを向く。僕は彼女の表情に戸惑いを覚えた。彼女は、今まで一度も見せたことがない表情をしていた。
「君のお願いは何かな?」
彼女はそう言うと、僕の目の前に顔を近づけてくる。香水の匂いなのだろうか、優しく、そして甘い花の香りが鼻についた。君はいつも、こんな香水をつけていたっけ?
彼女の身体が僕の身体に密着する。自然と、僕の心拍数が速くなる。彼女の息遣いを僕の肌が感じる。
―ちょっと、ちょっと待ってくれ―
「一体、どうしたの?」
気がつけば、僕はそんなことを口にしていた。
彼女の動きが止まる。瞬きもせず、まっすぐ僕の目を覗き込む。そこにあったのは、いつも通りの濁りのない、澄んだ瞳だ。
すると、その瞳が光った。いや、そうじゃない。彼女の目から溢れ出した液体が、光を反射していたのだ。それでも彼女は、その妖艶な、女性的な表情を崩さなかった。
「どうもしてない。」
「だって、いつもの君はそんな人じゃないじゃないか。」
「いつもと同じだよ。」
「違うよ。君はもっと―」
「もっと、なによ!」
そこで、僕は床に押さえつけられた。眼前には、白い天井。隣には、彼女の横顔。彼女の小刻みになった呼吸が、僕の身体に伝わる。
彼女は泣いていた。そこで、ようやく気がついた。彼女が一体何を伝えようとしたのか。なぜ、こんな柄でもない格好をしたのか。
僕は、そっと彼女の頭に触れる。彼女は、それを拒絶しなかった。そのまま、静かに頭を撫でた。
「ごめん。僕は君が何も言わないことに、少し甘えていたのかもしれない。ずっと、構ってやれなかった。本当にごめん。」
「ばかぁあ。」
彼女は、そのまま泣き続けた。僕は、彼女の頭を泣き止むまで撫でていた。
「でもさ、僕は別にあのボーカロイドが好きなわけじゃないから。ただ、あのボーカロイドの歌っている歌に好きな曲が多いだけだから。」
次の日の朝、前日の残りのハンバーグとサンドウィッチを食べながら、彼女にそう告げた。すると、彼女はいたずらじみた笑みを浮かべた。
「でも、あの格好ドキドキしたでしょ。これからも、たまにしてあげようか。」
「ばか。」
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
おそらく、これが私が書く初めての恋愛話になると思います。ありきたりな状況を書いても面白くないかなと思い、あえて彼女には、ボーカロイド(というキャラクターがいるのです)の格好をしてもらいました。「なんでやねん!」と思われることを覚悟で書いてみました。
ただ思いつくままに書く小説というのも、たまにはいいですね。
それでは、機会がありましたら、またお会いしましょう。バイバイ!




