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「じゃーん!今日は頑張ってみました。」
僕は、再び目を疑った。机の上には、多種多様の料理が乗っていた。ハンバーグ、ロールキャベツ、サンドウィッチ、シーザーサラダ、コーンスープ、そして、おそらく手作りと思われるチーズケーキ。明らかに、二人で食べきれる量ではない。
「これはすごい。」
「でしょ!?さ、冷めないうちに食べようよ。」
彼女は僕のコートと上着を受け取ると、そのまま席に座らせる。本当は着替えたかったけれど、せっかくの料理が冷めてしまうのも勿体無い。戻ってきた彼女も、コスプレをしたまま席に着いた。サラダを小皿に取り分ける。
「じゃあ、食べよっか。いただきまーす。」
「いただきます。」
僕も手を合わせる。まず、ハンバーグに箸を入れる。断片をつかみ、口に入れる。噛むと口の中に温かい肉汁が溢れ出し、旨みが滲み出してきた。おいしい。
ふと、彼女の顔を見る。顔に出ていたのか、目が合うと満足げに笑みを浮かべ、自分もハンバーグを口に運んでいた。次にスプーンを手に取り、コーンスープをすくう。コーンスープを口に含んだとき、僕の中に疑問が浮かんだ。
―今日って何の日だっけ?―
今日は結婚記念日でもなければ、僕の誕生日でも、彼女の誕生日でもない。もちろん、クリスマスでもない。僕はそれを尋ねようと、顔を上げる。
「おいしいね。」
「あ、うん。おいしいよ。」
僕はそのまま食べ続けることにした。なんだか、彼女がその質問を制したように思えたからだ。
案の定、料理をすべて食べることはできず、残りは明日の朝ということになった。最後に食べたチーズケーキも、中までよく火が通っていて上手に出来ていた。僕がソファに座りテレビを見ていると、片付けを終えた彼女が隣に座ってきた。
「こんなに料理が上手だなんて、知らなかったよ。」
「私だって、料理ぐらいできるよ。それより、ゲームしようよ。」
彼女は手を軽くたたくと、ゲーム機を設置するために立ち上がる。
「ゲーム、するの?」
「なによ。したら悪い?」
「いや、別にいいけど―」
彼女は、ゲームができないはずだ。彼女は、ゲームとは無縁の生活をしてきて、一度やってみたいと言うのでやらせてみたら、一時間プレイしても一面すらクリアできないという状態だった。それ以来、彼女は一切ゲームをしなかった。
そんな彼女は、ゲームの設置にも苦戦していた。仕方がないので、僕が代わりに設置してあげることにした。
「ありがと。」
そう言った彼女の微笑みには、どこか違和感があった。何かを画策しているというわけではないのだけれど、何かを虎視眈々と狙っている。そんな感じだった。
彼女が選んだゲームは、レースゲームだった。なんでレースゲームを選んだのか、その時点では分からなかったけれど、次の彼女の一言で僕の疑問は解消された。
「勝負しようよ。負けたほうが、勝った人の言う事を聞くっていうのはどう?」
なるほど。これが狙いだったのか。彼女は、なにか買って欲しいものか何かがあるのだろう。だから、僕の機嫌をとるために、あんな豪華な料理やこんなコスプレをしているに違いない。まあ、コスプレは彼女の勘違いなんだけれど。
でも、こんな回りくどい方法じゃなくて、直接言ってくれればいいのに。まあ、彼女にも彼女なりの考えがあるんだろう。欲しいもののために特訓して、勝ち取ったという実感が欲しいのかもしれない。
「いいよ。こっちも手加減しないから。」
「よし!決まりだね。」
彼女はそう言うと、コントローラーを握る。もちろん、僕はバレない程度に手加減をしてあげるつもりだった。
画面をまっすぐ見つめる彼女の横顔を見る。その顔は真剣そのもので、なんだか微笑ましかった。君はそんな顔もするのか。




