吐恥
以前、付き合ったばかりの頃に彼女からある程度のことは聞いていた。
昔一緒に住んでいた人がいて、その人は雅恵が深夜バイトしていた居酒屋の店長だった。
だが、同棲中に色々な事が起きた。
ある日、ベットでSEXをしていると何やら気配を感じた。
ふと見てみると、物陰に隠れて女がビデオカメラを回していた。
驚いた雅恵は、店長に言った。
「ねぇ!女の人!!」
店長は今までのみだらな行為を突然やめ、我に返りその女性に詰め寄った。
雅恵は素早く着替えて、店長の指示で一旦外で待っているように言われた。
一心不乱で着替えをすませ、恐怖と嫉妬が入り混じった雅恵は、紅潮した顔つきでドアを開け家を出た。行くあても無いので近くのファミリーレストランで時間を潰していた。
1時間後、店長から電話が掛かってきて
「全て話はついた」
との事。
それから、2人は仲良く暮らした。しかし、別れはやってきた。
ただ、この店長がストーカーになり実家に帰った雅恵を執拗に追い回したのだ。
警察と親に協力してもらい、なんとか普通の生活を取り戻したところに僕が現れたと言うわけだ。
公園のベンチで俯き加減にここまでのあらすじを話した雅恵は、意を決したように僕に向き直って、
話を再開した。
それを聞いた僕は正直、仰天した。そう。仰天という文字が浮かんだ。
「先にどうしても言わなきゃいけないことがあるの・・・」
と雅恵は言いにくそうにもじもじしながら下を見つめた。そしてこう言った。
「同棲相手の店長って、実は女だったの」
「え?・・え?・・えーーーーー!!」
何がなんだか解らなかった。いや、理解している。けど、飲み込めない。
「見かけは男だからだまされてたんだよね?」
期待を込めて聞いてみた。
「いや、初めから解ってた。でも、見かけは男なんだ。つまり・・・オナベってやつ」
「へ?」
ただの洟垂れ小僧みたいな反応しか出来なくなっていた。時限が違う・・・
本当の雅恵はどこに居るのか?解らない事だらけだったが、雅恵は語ってくれた。
その店長はオナベ。
雅恵は、男性に懲りていて、もはや性別を問わない恋愛がしてみたいと感じていた時期だった。
その頃現れた店長とすぐに付き合い、同棲を始めた。
しかし、この店長には奥さんがいたはずだったが、法律的には婚姻関係はなく、この奥さんもただの同棲相手であった。そして、あのビデオを撮っていた事件だが、この奥さんであった女性が店長と別れたいがために、不倫の証拠と称して撮っていたものであった。
このビデオ事件をきっかけに店長は雅恵に「アイツとは終わっているんだよ。」と説得した。
雅恵は多少腑に落ちない所があったにせよ、同棲まで始めてしまった手前、店長の言葉を受け入れるしかなかった。
そして店長の愛情は雅恵だけに注がれる。
そう、異常な愛情が。