嵐の朝
週末の土日で妻の方が完全撤収するという一方的な話がまとまった。
「離婚です」
と宣告されてから僅か10日後の事だ。
よく「女は切り替えが早い」というが、本当だ。
てより、前から決まっていたのか?と疑うほどだ。
「離婚です」という話になる前はごくごく普通に、今まで通りにデートもしたし、食事もしたしSEXもした。
だから、僕ほ頭は混乱したのだ。
でも、こういう話はよく聞く話で、女サイドに言わせると
「女側はサインを何度も出していたのに、男が気が付かないだけ」
と、まるで男を鈍感扱いした「女の野郎」の意見だ。
なんなんだ?そのサインって?
夫婦ならもっと、わかり易い生活を望みますわ。
でも、コレが現実。
以前なら鼻で笑っていたこの安達裕美のようなセリフがいざ自分の身にふりかかると、驚愕して混乱してしまう。
それが男なのだ。
そんなこんなで、週末までを1人で悶々と過ごし、金曜日がやってきた。
土曜日に妻が引っ越すと言う事で、この金曜日は僕は家にどうしても居たくなかった。
現実がそこに迫ると恐怖が訪れる。
妻の引っ越す姿をどんな顔で見送ればよいか解らない。
引越し作業を黙って見送る自分が想像できない。
そんな感情が高ぶって、金曜日の夜から、寂しくてしょうがない自分がいた。
仕方なく、地元の友達に電話をして、2人ばかり捕まえた。
2人とも家庭があり、子供もいる良き旦那を務めている人間だが、この際しょうがない。
この2人を誘って呑みに出かけた。
呑みの席では、一方的な僕への説教。
「うん!お前が悪い」
やるせない気持ちで、酒を何杯も傾けるが、いつもの様な陽気な酔いは一向に訪れず、ただただ時間だけが無下に流れるのだった。
クソ!クソッ!
はぁぁ~
無念な気持ちで家に帰って、その日はクタクタになって寝た。
明くる土曜日
外は春の嵐。雨も風も全開。
起きた瞬間「こんな日に引越しかい。ざまぁないぜ」
と悪態をついてみる。
引越しの時間は良くわからないが、やっぱり引っ越してゆく最中に家には居たくないので、朝9時から外に出かけることにした。
嵐の中どこへも行く宛てがない。
速攻でコンビニに逃げ込み、メールを一通送った。
「今日は何時から?」
メールは即帰ってきた
「10時から」
素っ気無い答え。
「了解。やっぱ、俺の結婚指輪置いて行ってください。あれ、売るから」
離婚届けを書いたときに幾つか決め事を作った。
その時に、変な優しさが出て
「この指輪も持っていきな。売れば少しだけど生活の足しになるから」
などと自分の指輪を渡し、そうほざいたのだ。
しかし、今となってはなんか勿体無い気がしてこんなメールをしてみたのだ。
いや、ただ単にコミュニケーションを取りたかっただけかもしれない。
すると、メールが帰ってきて
「解った。テーブルの上に置いておく」
ガランとなった部屋
テーブルの上においてある結婚指輪
なんて悲しい絵なんだ。
と思い少し感傷にひたりながら、自分もこの部屋を出て行こうと決心し、駅の不動産屋に向かった。
結局不動産やで何件も物件を見て、内見もしたが、結局落ち込みすぎていて、どこも良い部屋み見えず、
「ここでは暮らしたくない」
との思い込みで、なかなか首を縦に振らない僕を見て不動産屋がサジをなげた。
午後3時近くになっていたが、念のため、ゆっくり歩いて帰宅することにした。
背には建設中のスカイツリー
春の嵐はすっかり止み、晴天
ガックリと肩を落とした30男が、ぽつぽつと歩いてる。