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ライエルバッハ家のスチュワード

第四章、御前会議にて。

 御前会議も佳境を迎え、そろそろ最終決定案が上がってきそうだった。

 案の定、豊穣祭でも目玉となるダンスパーティーの開催責任者が意気込んでやってきた。

「トラヴィス様、このような感じに話がまとまりましたので、御領主様に取り次いでいただきたく……、あっ」

 彼は簡単な箇条書きの書類を差し出しながら、私の背後に目をやり、驚いた顔で小さく叫んだ。

 何事かと私も振り返る。と、ちょうど、エディアルドがサリーナ様の頬にキスしているところだった。

 私は素早く前を向き、まずは彼の口を塞ぎ、静かにしているように目配せした。

 次に、同じものを目撃して、今にも騒ぎだしそうな領民たちに向かって、人差し指を立て、唇に付けてみせる。しかし、人々の好奇心にはそれだけでは足りず、黙った彼から離した手で、しっしと追い払う手振りもした。

 皆、静かにしているんですよ。ようやく頑固者の理性にヒビが入ったところなんだから。邪魔したら、ただじゃすませません。

 それを示すために、私は唇に当てていた指をしまい、今度は親指を立てて、首の下をなぞってみせた。もちろん、ライエルバッハ家のスチュワードとして、優雅に笑顔は忘れずに。

 人々が、顔色を変えて、ぐりんぐりんと顔をそむけていく。

 そうそう、それでよろしい。

「……もうしばらく、案を練り直してまいります」

「はい。そうしてください」

 殊勝なことを言った責任者を笑顔で見送り、私は貴人席の前で、ゆったりと立ちなおした。

 二人の間を邪魔する者は、馬が蹴る前に、私が相手です。

 私もだてに、『触らぬライエルバッハに祟りなし』と言われる家に、何十年も仕えていませんからね。

 命までは取りはしませんが、生まれてきたことを後悔させてやるくらいのことはできますよ。


 かくして、ライエルバッハ家の有能なスチュワードの真っ黒い微笑を見た領民たちは震え上がり、若い二人の親密な時間は邪魔されるどころか、その後も触れられることすらなかったのだった。

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