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姫様勘弁してよっ! ~異世界戦国奇譚~  作者: 木庭秋水
第五章
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第三百十三話 幕 宇和一成(一) 二水の戦い その一

お久しぶりになります。今作と同時に新作『聖なる闇の紋章と』を公開させていただきました。ハイファンタジーになります。もしよろしければ、こちらも一読いただけると嬉しく思います。詳しくは活動報告にて。 聖なる闇の紋章と URLはhttps://ncode.syosetu.com/n1580fy/ になります。




 やはり噂などはあてにはならん。わざわざ私に向かわせなくともよかったものを……。


 お館様の命で遠路はるばる転進してきてみれば、我が軍をつつく小勢が出迎えるのみ。来るのを察していたのはそれなりに評価してやってもいいが、それだけだ。所詮私の敵ではない。あのような小勢を我が軍にぶつけてきた所で、我が軍を抑えきれはしない。


 先の侵攻の際に藤ヶ崎の奴らの形振り構わぬ対応は見た。あの佐々木伝七郎めも、少しは戦いを知ったのだろう。戦は綺麗事ではないのだ。水島継高はその命で勉強することになったがな。それよりは、幾分早く気づくことが出来たらしい。


 だが、こんなものだ。見ろ。我が軍に毛ほどの傷もつけられていない。


 お館様も心配が過ぎるのだ。神森武とかいったか……。突然藤ヶ崎に現れ数々の功績を挙げているようだが、噂は噂だな。このような対応しかできないようでは、所詮その程度ということだ。わざわざ私が相手をせねばならない相手ではなかった。


「宇和様。柿屋重秀はまたもや下がった模様です」


「誘っているな。愚かな……」


 それになんの意味が? 少数の騎馬の突撃を繰り返すなど、愚かにも程がある。騎馬はある程度一纏めにしてこそ価値があろう。それをこのような……。この一本道、このまま我々を進ませても行き着くところなど変わらぬ。無駄に駒を損なって得られるものなど、精々時間だけではないか。使い方が下手に過ぎる。まだ準備が出来ていないというなら、神森武……噂ほどではないどころか三流だ。


「八木に命じて、三百騎ほど連れてそのまま追わせろ。側道に伏せられた兵だけに気をつければどうということはない。小うるさい五十騎ほどの騎馬など、踏みつぶしてしまえ」


「はっ」


 命を携えて駆けていく者の背中を見ながら、早急に片づけることを決意する。当然だ。我々は今このような者らと遊んでいる暇はない。津田はあらかた片付いた。まだ小さな抵抗はあるようだが、その様なものは間もなくなくなる。無能な輩どもでも、時間と駒の数があればどうとでもなるだろう。


 しかし、徳田三浦はまだどう転ぶか分からない。正直、奴らがここまで短時間で我々に抵抗する姿勢を整えてくるとは思っていなかった。お館様と松倉様が対応している以上滅多なことにはなるまいが、予定よりも時間を費やすことになるのは間違いなかろう。ただ、彦十郎に手柄をあげられすぎても困る。やはり、この様な相手は早急に片付けて戻らねばなるまい……なんとか霧賀攻略の折にはお館様より下命を頂きたいからな。あそこを獲れば金が付いてくる。お館様の計画における私の功績を大いに稼いでくれることだろう。いずれは松倉様の地位を狙っていけるほどに。


 この分であれば、それも時間は掛かるまい。


「ふっ。それにしても温いな。世でああだこうだ言われている、神森武とその朱雀隊もあんなものだ。このまま進軍するぞ」


 改めて指示を出すと同時に、向こうから新たな伝令が走ってくる。


「ご報告致します。柿屋重秀が引いた後に、まだ兵が伏せられているかもしれないと報せがありました。下がった数が少なすぎると言っております」


「ふん。なるほど、小賢しいな。よい。柿屋の方もそのまま追わせろ。そして、元々柿屋がいたあたりに百人隊を三つ出せ」


 相手の数は知れている。柿屋は朱雀隊の他にせいぜいが二百連れてきていたかどうかだ。我々の目を誤魔化すのにその半分を使ったとして百五十。十分始末出来る数だ。


 はは。伝七郎よ。これが今の私とお前との差だ。継高は見誤った。だから、奴もお館様に敗れた。そして、お前も私の前に敗れることになる。


 すでに地力が違う。敗れようがない。ましてや、降って湧いた馬の骨では私は止められぬ。


 次の指示を出して、こちらも本隊を動かしていく。


 ここのところずっと降り続く雪こそうっとうしいが、二水の町までは森の中を進むだけの一本道。途中両側を崖に挟まれた場所などもあるにはあるが、基本的にうねる道に沿って進むだけで着く。報告では町に入った兵は四、五百程度とのこと。もう少しいたとしても、とてもではないが我々を倒せるような数ではない。まして、虎の子の朱雀隊と兵二百を先に潰されているようではな。


 今も吹き付ける雪の混ざった風が心地よい。勝ち戦が約束されたような状況だ。すべてが心地よく感じる。ましてや、実を伴わずに名ばかりが売れた神森武の首が獲れるのだ。風向きがすばらしい。


 しばらく進んでいくと、行く道の遙か先の方から雄叫びが聞こえてくる。


 騎馬隊が柿屋の隊を捕まえたか。


 捕まえられたのなら、このまま本隊と合わせて押し潰してしまうべきか。しかし、ここまで何もないというのも不気味と言えば不気味。神森武が本当に何も考えていないならよいが、もし我々を集合させようとしているなら、これに乗ってはならない。


 それに、この雪だ。狭道ゆえに舞う雪が吹き抜ける風に乗って、我々の行軍を妨げている。視界も良好とは言い難い。これを悪用されるのは危険。奴は、馬鹿どもとは違ってその辺りの知恵だけは廻るからな。もっとも、私には通用せんが。


「宇和様、前方で交戦中にございます」


 本隊の前衛を任せている者から、使いの者がやってくる。


「分かっている。だが、我々はこのままの速度で進むぞ。前よりも横を注意して進めと伝えろ」


「はっ!」


 ふん。神森武。何をしようというのかは知らんが、戦は数だ。その辺のぼんくらどもならば、それが覆ることもあろうが、この私を相手に今までのような手が通用すると思うなよ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新、待っていました!
[一言] 久々の更新良かったです。 神森武の戦記の続き楽しみです。 三森衆・神楽衆の獅子奮迅の活躍に期待。
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