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姫様勘弁してよっ! ~異世界戦国奇譚~  作者: 木庭秋水
第一章
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第三話 やっと引いたトリップ権はババくじだった でござる

 一つ、この神森武は声を大にして主張したい事がある。


 念願叶って、やっとトリップな現象が起きたのはいい。大変喜ばしい事だ。トリップ権の当選倍率のありえなさは異常だと、俺も常々思っていた。


 まだここがどこかは分からないが、とりあえず日本語が通じたのも俺的には大いに賞賛したい。今から言葉を勉強しろと言われると大変億劫だ。


 我が相棒が粉砕してご臨終したのも大目にみよう。命には代えられん。


 だが、ここでどうしても無視できない事がある。


 そう。神様はどこに行ったんだ? もうトリップ終わっちゃいましたよ?


 トリップとチートはセットだろうが! 神様が出てきてチートな力を惜しむ事なく与えてくれるものだろうがっ!! お約束は大切だと思いますっ!!!


 俺は懸命に戦う伝七郎側の兵隊たちを眺めながらクワッと目を見開き、様式美を無視した何者かを大いに罵った。


 チートがないなら、せめて俺を召還した綺麗なおなごはいるべきではなかとですか? なのに、それもいなくていきなり血生臭い戦場なんて…………泣ける。




 伝七郎に連れられて、後方の陣へ移動してきた。まわりの兵隊さんたち? 頑張って戦争してるよ? 真剣に命のやり取りしてるよ? 俺以外。


 先程突っ込んでいった騎馬隊は、そのまま苛烈な追撃を続行している、続く槍兵も槍を構えたまま突撃していた。


 あれ? 陣形とかその辺りどうなってんだ? 本気で命のやり取りしてるくせに、なんというか、俺が見ても動きがばらばらだ。


 それぞれがそれぞれの力の限りで力をぶつけ合ってて、組織戦ではなく、大規模な個人戦をしているような印象を受ける。


 それに、だ。先程のあれも妙に違和感がある。


 あの時突っ込んでいった騎兵は、雑兵と思しき歩兵たちの命をいとも容易く刈り取っていた。なぜなら、敵騎馬兵はすでに撤退行動に入っており、はるか向こうにいたからだ。歩兵見捨てられていた。


 ここなんだが……将一人討ち取られたくらいで、この有様ってどうなの? 組織としてあまりにも脆すぎないか? いくつか想像できるが碌な理由がないぞ?


 だが、まあ、いい。そんな事は瑣末事だ。


 今極めて重要なのは、チートも俺と恋に落ちてくれるはずの綺麗な娘もまったくいない誰得トリップをしてしまった件について、これに尽きよう。


 これでは、ご褒美ではなくて罰ゲームじゃないか。


 常日頃から、俺はトリップ権獲得後に向けて懸命な努力をしていた。


 インターネットで各種雑学や兵法、歴史などあらゆる知識を収集する事に余念がなかったと、胸を張って言える。


 当然、いつ神様に出会ってもいいようにでかいリュックサックに各種便利グッズにミニ百科事典に農業の専門書に政経書に兵法書、服に靴下に替えのパンツまで詰め込んで部屋に用意してもある。


 あー、そういや、あれ押入れに入れっぱなしだわ。母ちゃんに見つかったら死ねる。


 いや、これは俺の精神衛生上忘れたままにしとこう。


 他にも、どこのどんな世界にも対応できるようにしてある。多少のサバイバルにも耐えれるように食料はじめ籾や麦、野菜の種少量、トリップ系では大きな力となる塩、砂糖はじめとするいくらかの調味料と常備薬各種、あとちょっと危ないところでは一発分ではあるが調合済みの黒色火薬まで準備万端だ。


 あ、これ法律違反だし、あらゆる意味でリスクとの戦いになるすごく危ない行為なので、よい子のみんなは絶対真似しないように。


 とまあ、ここまで努力したというのに、これはあまりの仕打ちではないだろうか?


「どうかなされたので?」


 伝七郎が訝しげな表情でこちらを見ながら聞いてくる。


「いや、ただ少しな……」


 ただ少し納得いかんのよ。俺としては。




 俺の気持ちを理解してくれたようだ。怪訝な表情から先程までの優しげな表情に戻した伝七郎に連れられ、陣幕が張られた後方の陣に着く。イケメンの癖に意外に話が分かる奴かもしれん。


 いやあ、この陣幕って奴は味があって大変よろしい。日本の合戦場といえば、これがなくては話にならないだろう。


 厳ついおっさんたちが武者姿で座っている……と思いきや、おかしいな。小物くさいというか明らかに雑兵っぽいのしかいないぞ? それに忙しそうに走る女たち。


 おーけー。俺の見間違いだ。ここは戦場。間違いない。


 しかし、侍女姿的な何かがこっちに駆けてくるな。肩までの黒髪を二つ括りにして、それをふりふり一生懸命駆けてくるな。美人というよりかわいい。つか、めっっちゃかわいくね?


「ああ、伝七郎様っ。ご無事なお姿を見れて、咲は、咲は……」


「……咲殿。心配かけてすまない……」


 おい。こら、イケメン。貴様修整されたいか? 戦場に女を連れてくるとか、どういう了見だ?




 疲れが見せた幻影でもなく、まぎれもない生身の女が戦場にいる。白鉢巻に襷掛けではあるが、ここには巴御前的な何かでもいるのか? つか、その可能性は低そうだ。この子はそれにもそれに侍る女武者にも見えない。


 それにこの娘一人じゃない。陣の中に結構な数の若い女の姿が見受けられる。俺が知る限り、これはまずありえない光景のはずだ。だが、しかし、念の為にも……、


「おい」


「どうかされましたか?」


「率直に聞くが、アマゾネスの起源は日本だったとかいうばったもんの企画番組か?」


「は? あまぞ? にほん? ばん、ぐみ?」


 おいおい。ちょっと洒落にならんな……。


「おーけー。今言った事は忘れろ。もっと大事な確認事項ができた………はいか、いいえで答えてくれ。いいか? ここは日本か?」


「いいえ。にほんてなんですか?」


 おう、じーざす。かなしーことにこのぶんじゃきりすともいないわねー。


 思わず現実逃避したくなったぞ。タイムスリップ位とは言ったが、異次元トリップだとは聞いてねぇっ! 


 チートなし、歴史知識なしで世界でも有名な平和主義(笑)の日本の学生にリアル戦争を乗り切れと? あのインターネッツな日々はまったくの無駄になったと?


 日本語の会話と日本人な名前と日本人的特徴、日本的景色っ、日本的武装っっ! こんだけ日本日本言っといて、にほんてなんですかーとかどういう了見だっ!


 はっ!? 俺は気が動転して大事な事を忘れていましたよ? 確か日本という言葉は大宝律令がどうとかこうとか……。うん、ならこれならどうだ。神話時代合わせて二千六百年の歴史は伊達ではないっ。でも装備がなー、多分……。


「あー。なんだ。もう一つ聞くが、今上陛下もしくは大王(オオキミ)はどなたかね?」


「陛下……陛下ですか? リエリ・クギュミー陛下ですが」


……ぶっころすぞ。ふざけてんのかっ。そんな天皇はいねぇっ。なに無理やり横文字っぽくしてんだよ。ツンデレか? ツンデレな陛下なのか?


 でも、これで決定したな。異世界トリップだ、これ。しかも元ネタがない一番ヤヴァイ奴だわ。凹むわー……。

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