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姫様勘弁してよっ! ~異世界戦国奇譚~  作者: 木庭秋水
第一章
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第十一話 言うなっ! これは洗脳ではなく薫陶だっ でござる

「「「はっ??」」」


 見事にハモったな。まあ無理もないが。そんな奴らの為に、もう一度同じ言葉を繰り返す。


「おまえら今から将軍様だから。以降そのつもりで」


「い、いや。お待ちください、武様。それはいったいどういう事で?」


「武様。そりゃまた、いきなり過ぎますよ。俺らが将軍って、一体全体なにがどうなって、そうなったんです?」


「……。仰せなら、もちろん否やはございません。取り立てていただけるのは真にありがたい事。しかし、またなぜ急にと、お聞きしてもよろしいですか?」


 三者三様に聞き返してくる。源太は戸惑い、与平は驚きを前面に押し立てて。信吾の奴は雑兵に似合わぬ、この貫禄は何? おまえ絶対最低でも年齢誤魔化してるだろ?


「ん。まあ、当然のなぜ? だわな。今のうちの状態は、俺なんかよりお前らの方がずっと詳しいだろう。まあ、それでも敢えて口にすると、だ。彼我の戦力差は比較するのも愚かしい程であり、なんとか逃げ回っているのが現状だ」


 こいつらだって、こんな事はわかりきっているだろう。でも、敢えて言葉にして突きつける。


 なぜなら、足を動かし腕を振るう為に、無理やり頭の縁に追いやっているものがある筈だからだ。こいつらは、生半可ではない苦しい心境で、ここまで戦い続けてきた筈なんだ。


 この軍の状況を見てちょっと考えれば、それを想像するのはさして難しくはない。


 そんな状況では思考停止させないと戦い続ける事などできはしないだろう。こいつらだって普通の人間なんだ。英雄譚に出てくる英雄じゃない。


 それでも己の任を全うしようと戦い続ける。本当なら、その胆力と愚直なまでの忠の精神を褒め称えてやりたい。個人的にも大好きな部類の人種だ。


 でも、今はそうしてやる訳にはいかない。


「はっきり言おう。ありえんな。おまけにそんな状態でありながら、戦場ではただの力比べに従事している。大人と子供が喧嘩でもしているのか? 違うよな? という事は、だ。はっきり言って、やる前から結果が出ていて戦を続ける意味すらないと言ってしまっても過言ではない」


 配慮する言葉を除いて、これでもかと深く斬り込む。


 伝七郎は頭として、こいつらは手足として、迷う事なく働いてもらわねばならない。その為には、伝七郎同様、早々に非常識ワールドの住人になってもらわないといけない。


「そんな状態で戦っているのが、この軍だ」


 与平は特に顕著だった。心の中の不満をその表情に表していた。他の二人は表面上は然程でもなかったが、おそらく内心は与平のそれとなんら変わらないだろう。当然の反応だ。


「不満か? そらそうだ。おまえらは命張ってんだ。千賀の為に。己の主の為に。それを無駄な事と言われれば腹の一つも立とう。まして、突然降って湧いたどこの馬の骨とも知れぬ俺に言われればな。が、現実ってのは残酷だよな? 気持ちだけでは事実を変える事はできない」


「「「………………」」」


「…………」


 反論できない悔しさをかみ殺しているのだろう。三人とも何かを抑えるような表情で黙って聞いている。伝七郎も終わるまで口を挟むつもりはないのか、だんまりを決め込んでいた。


「だが、気持ちだけでは変えれないという事は、気持ちだけじゃなければ変える方法があるという事だ。その為の大方針として、俺は、俺たち水島の『軍』は、戦場の常識を捨てる」


 俺は軍という言葉を殊更強調して言ってやった。こいつらは今、千賀を守る人間の寄せ集め状態だ。そうじゃなくて組織として組み直すという意味を強調してやる。


 更にその組織の大方針を提示する。この世界の戦い方に完全なるダメ出しをしつつ、従来のこの世界の軍隊ではなく、再建する『新生水島の軍』の常識を刷り込む為に。


 さあ、勝負だっ。


「その軍は組織で動く。今までのように個人が戦場で暴れて、力の強いものが多く倒し、そうやって多くを倒した方が勝利を収めるという戦いに、俺たちは別れを告げる。そしてその軍を、伝七郎を筆頭とする参謀が意のままに動かす為には、参謀の意を理解し、忠実に動き、強力で、あらゆる意味で優秀な手足がいる。それがおまえらだ。おまえらは頭である参謀の意思を兵に伝えて、腕を振わせ敵を倒し、迫る敵には立ちはだかり主を守る。そんな主の剣となり盾となるんだ」


 三人とも目を見開き、俺の勢いに驚いているようだ。よし、奴らに俺の言葉は届いている。なら、これで締めだ。


「そして、これが最後の理由だ。俺は伝七郎に将の選抜を頼んだ時に、最も重要な要素として、伝七郎自身が信用できる人間を選べと言った。伝七郎がお前らを選んだ。わかるか? これがおまえらを将にすると言った最後にして最大の理由だよ」


 一気呵成の大論陣。神森武Ver.2.0 だ。これはしんどいからヴァージョンアップは今回までにしときたいが、多分俺の願いは華麗にスルーされる事だろう。


「「………………」」


「……わかり申した。犬上村の信吾謹んで拝命いたします」


「!? はっ、謹んで拝命いたします」


「おっと、俺も謹んで拝命いたします。武様」


 二人とも猛烈な勢いの俺の一人しゃべりにしばらくは唖然としたままだった。


 しかし、信吾はその見た目だけではない、まるで本物のおっさんのごとく海千山千っぽい所を見せ、俺の作り出した世界からいち早く戻ってくると膝をついて頭を垂れた。


 そして、それを切っ掛けに二人も戻ってくると、その横に慌てて膝をつき、同じように頭を垂れる。


 よし。またも有無を言わさん勢いで押しまくった訳だが、なんとかなったかな? 伝七郎の奴は、下を向いたまま声を殺して笑ってやがる。自分の時の事でも思い出してるのか? 悪かったな、芸のない男で。


 無視だ無視。気にしたら負けだ。


「つかぬ事を聞くが、おまえら姓ってないの? 将軍様が名前だけってのは少々恰好がつかないんだが」


「ははっ、ご安心下さい。武殿。彼らにも姓はあります。ただ、公的に名乗る事を許されていないだけです」


「許されていないだけ?」


「はい。貴族や武士以外、姓はあっても名乗れないのです。それが褒美になる事もあるくらいですから」


「へー。そうなんか」


「はい。今の姓を名乗る許可を出す事も、新しい姓……家名ですね、それを与えて名乗らせるのも、また新しい名前を与えるのも、すべて褒美にもなるんですよ」


「ほう。つまり、身分が足軽の農民兵だから、今まで名乗れなかったと。という事は、今回将軍になる訳だから、士族になるという事だよな? そして、なって以降は名乗れる訳だ?」


「はい。その通りです」


 声を殺して笑っていた伝七郎だが、話が始まると俺の疑問に的確に答えてくれる。


 くっ、本当に出来るイケメンだな。おまけに、こいつがいないと俺はこの世界で生きていけそうにない。どうしたらいいんだ?


「では、後で千賀から正式に任命してもらうから、それ以降は名乗ってくれて構わない」


「「「はっ。ありがたき幸せにございます」」」


「ちなみにそれぞれなんていうんだ?」


「私たちは全員犬上村という所の出身で、私はそこの村長(むらおさ)の息子。故に我が家は犬上を姓にしております」


「私は鳥居源太になります。家の裏に神社があって、そこに立派な鳥居があるので」


「俺は三浦与平。なんで三浦なのかは知らないです」


 皆がそれぞれに語って教えてくれる。


「ほう。みんな立派な姓があるじゃないか。姓名ひとつ自由に名乗れないってのは厳しいもんだねぇ」


「武殿の所ではそうではなかったので?」


「ああ。申請すれば、ほぼ好きな名前名乗れたな。姓も名も。一度決めたら、変えるのは大変だけどな?」


「ほう。やはり色々異なるものなのですねぇ」


 いまいち話の分からぬ三人はきょとんとした顔してたが、黙って話を聞いている。


「よし。じゃあ、ちょっと話を本線に戻すぞ? お前らの最初の仕事はな、策の準備だ」


「「「さく?」」」


「ああ、そうだ。寡勢の俺らが、追ってきてる糞野郎どもに熱いキスのおもてなしをしてやる為のな」


「きす?」


 与平が興味津々な様子で俺に尋ねてくる。


「口づけだ、く・ち・づ・け」


「「く、口づけ?」」


「そうだ。あっつい奴をぶちゅ~~~っとなっ」


 残る二人が何を想像しているのかはわからんが、目を見開き聞き直してくるので、良い笑顔でそう答えてやる。


 ホントはケツの穴に熱いキスをくれてやると言いたかったが、若干遠慮して正解だったようだ。


 伝七郎はもうすでに俺に慣れてきたのか、涼しい顔して横でだんまりだ。くそ、こやつ本当にデキる。順応性が抜群だ。


「で、だ。……おい、おまえら、そろそろ戻ってこいよ? で、具体的に何をやって欲しいかと言うとだな…………」

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